44 14層の戦い
只今、昼12時、夜20時更新となっております。
一日1本の場合は、20時目安とさせていただいております。
地下14階層到着!
このダンジョンの変異の原因を探りに来たんだから、踏破階層は関係ないんだけど。
テンションを無理矢理にでも上げなければ、階層を下るにつれ、いや~な雰囲気が立ち上ってくる事に耐えられない。本当の所、下層なんかに行きたくない。
このダンジョンの踏破実績は16階まで。それ以降は未知の世界である。私にとっては、どの階層でも命の危険に晒されてるので、ベルジュにはシッカリしていただきたい。
階層が進むにつれ足元の凸凹が酷くなってきており、歩くのも大変だ。このダンジョンから帰還した折には、絶対私の足首はどうにかなっているだろう。
「まだ、今の所は敵の数が多い事くらいで、特に問題は見当たらないな」
「そうは言うけど、トラップの質もどんどん上がってるぜ?」
先頭でイクリスさんとナユさんが、そんな風に会話している。嫌な事聞いちゃったな~。冒険者の目から見ても戦闘が多いんだ。何で私は、こんな所に居るんでしょうね……ってベルジュのせいだよ!
「セルフィちゃん、顔色が悪いけど大丈夫?」
「はは、だいじょばないけど大丈夫です。さっきみたいに、暗い所に一人と一匹で分断されなければ」
「あれには私達も驚いたわ」
ふぅーっとサーリャさんがため息を吐く。そら、ため息を吐きたくもなりますわ。
そう会話しつつ進んでいると、いきなり前方に、場にそぐわない白い壁が現れた。それは道を隙間なく塞いでいて、どうしようもない。ここまでは一本道だったし、ナユさんが脇道が有るなどと言ってもいなかったからだ。
ナユさんは、壁をコンコンとノックする。
「これ、向こうは空洞だな。ここを突破しないと無理だと思う。何か手がかりが有ればね」
そう言って、私の方を見るではないか。洞窟という、私にしてみればイレギュラーな空間で解析を行うのは奥から何か出てきそうで心臓に良くないのだが、ここまで役に立つどころか足を引っ張って来たので、やるの一択だろう。後ろに皆に控えてもらって、手を壁に添えてスキルを使う。
女は度胸だ!!
”解析”
目が熱を帯びていき、壁の情報を私に伝えてくる。一見ただの石の壁である。ただ、成分的には魔物の骨で出来ている。それを固めているのは壁の左下に有る、意思の有る何かだ。
『セルフィ、右へ避けろ!』
ベルジュの警告に、以前と違い、ちゃんと反応出来た。石の壁は塊を私に向けてべしゃっと飛ばしてきてたのだ。壁はぐにゃぐにゃと形を変え、こちらを飲み込もうとしてくる。
「塊の左下を狙ってください。出来れば氷魔法がいいです!」
「任せて!アイス・スピネル!!」
氷の棘が宙に何百と浮かび、左隅に向かって飛んでいく。幾重もの氷の爆発で、辺りは霜で白くなった。
左隅が凍り付いて、ひび割れてきている。
「今なら切れます!」
私の合図で三人がひび割れを目掛けて各々武器を降ろす。塊が光った後に、ほろほろと壁は光って散って行った。
「何だったんですかね、コレ……」
私は皆の後ろから先を覗いてみる。敵というには攻撃らしい攻撃が無かった。
「この先に何か有って、塞いでいたって事かな?」
ナユさんが前に飛ばされた魔法の灯りの奥を目を凝らして見ている。
「何かは有るでしょうね。今の、道を塞ぐような魔物のような物体は見た事が無いです」
セイカさんが更に奥に魔法を飛ばしてから、光を大きくした。昼間のようなその光に、広い空間が照らされた。天井は高く、ナユさんが居なければ道に迷いそうなほど形状が複雑だ。
「それじゃ、行きますかね」
さして気負った様子も無く、ナユさんが先行する。
蛇行する、道とも言えない道を進む事2時間。ナユさんはよくも迷わないものである。この暗い空間をさしたる苦労も無く、手元でサラサラとマップを作っているのだ。私はすでに方向感覚を失っていて、地図を渡されても帰れない自信があるぞ。
「さっきの壁だが」
黙っていたガイアスさんが、突如口を開いた。
「あの壁が有ったから、ミノタウロスが下層に戻らずに上がって来たのではないのか?」
全員が顔を見合わせて、その推測を聞いて黙る。
「って事は、さっきの壁は、この先の何かを閉じ込めてたって事?」
ナユさんが、ナイフでダンジョンの先を指す。
瞬間。
奥から光が走った。
「え……?」
思わず私の口から息が漏れる。おぞましい光によって、遠くからでもその原因を認められた。
どす黒い紫の亀裂が空間に出来ており、そこから静かに魔物が出てきている。これによってダンジョンの中の魔物のバランスが崩れて増えたのだろう。
「これが原因か……」
『おい、後ろから来ているぞ』
全員でその光景を遠目で見ていると、突然ベルジュの警告が飛んだ。
「あら、お客さんかしら?」
私はともかくとして、皆が気付かなかった事からして、気配を消して近づいてきたのだろう。
女性が奥からゆったりと歩いてきていたのた。鮮やかで紅い、地面まで届かんとする長い髪が、サラサラと揺れている。
所作は優雅であるのに、瞳はギラギラと輝いていて、獲物を狙う捕食者の目をしていた。
「困るわ、せっかくここまで育てたのに」
女の艶やかな声が、暗く広い空間に響く
「育てたというのは、このダンジョンの事か?」
「当たり前でしょ? アレを広げるのも簡単じゃないの。これでも苦労したのよ?」
「何の為に……」
イクリスさんの疑問に、亀裂を指し示し、熱に浮かされたように女が答える。
「私が、ダンジョンの主になるの。ここに入ってくるバカな冒険者は一人残らずいただくわ。少し宝箱をばらまいただけで、蟻のように寄って来て……人間って愚かで甘くて、とーっても美味しいのよ?」
「じゃあ、あの壁は?」
「ああ……ダンジョンを育ててる途中なのに、冒険者が入ってきたら邪魔でしょ? だからミノタウロスを上に放ったのに」
下に戻ることが出来ないから、どんどん上の階層に登って行ってた訳だ。
「育ててからちゃんと元に戻す予定だったのに、あなた達ったら倒しちゃうんだもの、本当に迷惑」
ふぅ。
悩まし気に女がため息を吐く。
「仕方ないから、あなた達から片付けなきゃね」
女の瞳孔が縦に裂けた。




