43 地下の一人と一匹
只今、昼12時、夜20時更新となっております。
一日1本の場合は、20時目安とさせていただいております。
皆と分断されて魔法の灯りも無くなり、辺りは真っ暗だ。唯一救いなのは、事の原因ではあるが、私の身を守る術の有るベルジュと一緒な事だ。
マジックバッグは私が持っているので私自体は食料には困らないが、そうなると心配なのは”氷雪”とナユさんの食料事情だ。もしもの為に、個人個人で携帯食料を持つようにはしているが、あまり長く離れているのは良くない。
こんな暗いダンジョンで一人きりなのは、私の精神衛生上キツイものがある。バッグからカンテラを出して、火を点ける。念の為に入れておいて良かった。炎が風も無いのに心細くゆらゆら揺れて、今の私の心持を表わしているようだ。
しかし、一番肝心なのは、行き違いにならないように、ここで大人しく待つ事だ。あちこち彷徨って永遠に会えないのでは笑い話にもならない。
下の階層に落ちた訳では無いし、時間はかかるかもしれないが、あの5人ならきっと来てくれる。そう思わないと頭がおかしくなりそうだった。
体育座りをしている私の隣で、大人しく黙って座っているベルジュを見る。もう怒る気もしない。
「……いい加減懲りた?」
『……………………うむ』
今回は、流石のベルジュも懲りたらしい。二回目だからね。大方、勢いづいてまた戦闘中に前の方へ出たのだろう。しかし、40mって意外に近いな。私は30mくらいの距離を維持しているつもりだったが、ベルジュはその距離を突破したようだ。
しかし、どのくらいで助けが来てくれるのだろうか。こんな暗い洞窟の中では日付感覚が狂いそうだったが、ギルドから借りている「狂わずの腕時計」が有るので、幸いにその心配だけは無さそうだった。いつまでも救助が来ないと、それはそれでおかしくなりそうだけど。
とりあえず、テントだけでも張っておくか……と思った所で気が付いてしまった。今の皆ってテント持ってないじゃないか!今回は私がマジックバッグを持っているという事で、全員分のテントを私が預かっていたのであった。
ど、どうするどうするどうしよう。
いくら冒険者とは言え、テントも張らずにそのまま寝るのは酷だ。もちろんテントが張れない環境下で過ごす事も有るだろうけど、今回は、私が持ってきてるから……。そう考えた所で、どうしようもないと結論付け、私は1人でテントを張る事にした。風が無いので、地面に杭を打つ必要が無いのは幸いだった。
私はテントの中にモソモソとカンテラと共に入り、膝に毛布をかける。出入り口にベルジュを置いて、防犯面だけは安全と言えるだろう。私達の居る場所は、行き止まりで道幅も広くないので、大型の魔物に襲われる心配は無さそうだ。
1人だけでは魔物を呼び起こすかもしれないので、火は使えない。私はバッグから冷たい果実水を出すと、ちびちび飲みだした。緊張で喉が貼りつくからだ。時知らずのバッグで良かった。温かい物は都合上出せないのだが、冷えてるものは、水筒やタッパーに入れている分には温度は保たれる。
「ベルジュ、どれくらいの時間かかると思う?」
『早くて1日、遅くて2日といった所だろうな』
ベルジュも一応救助が来るとは思っているみたいで、少しだけ安心する。
今は夕方の6時だが、不安を誤魔化す為に、そそくさとおにぎりを作って食べた後に、早々に横になる事にした。
ベルジュが番をしてくれているとは言え、寝付く事が出来ずに何度も寝返りを繰り返す。その内ウトウトとしだした。目は瞑って音は遠くとも、何がしかの音がする。それは皆の移動する音かも知れないし、魔物の移動する音かも知れない。そう思うと目が覚めてしまうが、気疲れしているのでウトウトはする。あとはその繰り返しだ。何回か繰り返した後、時計を見ると、朝の5時。かなり時間は潰せたようだ。
1人だと気が滅入る。良い機会なので、今まで何となく聞く事の無かったベルジュの過去の話をすることにした。
「ベルジュって5000年も地下遺跡に居たんでしょ。その間って意識はあったの?」
『人間のような睡眠とはやや違うが、動くわけでは無いので休眠状態では有ったな。意識は殆ど無かったようなものだ。それでも長い時が過ぎているのは分かったから心底退屈ではあったな』
「城に運び込まれる途中で、触られる時に相手を呪い殺してやろうとか思わなかったの」
『そも、ワシを使えるニンゲンが少ないからな。呼び起こされてもニンゲンは野心の塊だから、願いを叶えた上でその魂を喰っておった。しかし資格が無ければどうしようもない』
「今は、そういう事をしないの?」
『そもそもセルフィが、相手を呪い殺したいとか溢れんばかりの財をなしたいとか願わんからな……。ワシも相手が望まない事は叶えようが無い。野心の有るやつが居てもワシを使えんヤツでは仕方ないしな』
呪いの人形に見込まれる私って一体……。
そんな話をしていると、私の疑問も大方解消された。その後は無言になってしまう。あとどれくらい待てばいいのかとばかり考えてしまうが、時計の針は全然進まない。まさかこんな状況になってしまうとは思わなかったので、時間を潰す手立てがない。本でも持っていれば良かったな。
私がテントの入り口でぼんやりしていると、ベルジュが何某かを小石で書いている。
「何それ」
『低級悪魔を召喚する魔法陣だ。低級だが、簡単な偵察くらいは出来るかもしれん』
「それって最初から使えば良かったのでは?」
『仮に強い魔物が出たら、瞬殺されるぞ』
うーむ、それは確かに微妙な性能だ。
ベルジュが力を入れて、(本人的には)どん!と魔法陣の中心を力を入れて踏むと、消えかけのレイスのような。か細い霊が出てくる。
「もっと強いのは出せないの?」
『チッ、愚か者め。強い物を出したら、その分強い物がこちらに引き寄せられるぞ』
それを先に言って欲しい。レイスもどきの背中を見送ると、ひたすら報告待ちの時間になってしまう。
1時間は経ったであろうか。突然ベルジュが『ムムッ』と唸った。どうしたどうした。
『”氷雪”のクレリックの小僧に祓われたわい』
何と言う意味の無さよ。
『しかし、この階層の魔物の中に低級のモノがうろついていれば、おかしいとは思うだろう』
「なるほど……」
最速で1時間なのだろうから、半日中くらいには来てくれそうだ。そこで私は一気に気が緩んでしまい、退屈しのぎに○×ゲームに興じる事にした。いざとなったらベルジュを盾にする為に、自分が壁側に座る事も忘れていない。
それによって得た知識は、ベルジュが○×ゲームに弱いという事だけだった。
「なんでアーティファクトなのに、こんなに弱いの。古代人の叡智の結晶なんじゃないの?」
『くっ、暗愚なニンゲンに負けるなど!もう1回だ、もう1回!』
もう30回はやってるのに、この兎、本当に負けず嫌いだな。
「もう、やめようよー」
私はキーキー騒いでるベルジュを押しやって、マジックバッグから冷たいお茶を出して飲む。この空気の籠った空間で冷たい物を飲めるのは助かる。
そうしてゲームを続けたいベルジュと止めたい私で、小声でやいのやいの言っていると、人間の声が聞こえて来た。
「セルフィさん!」
イクセルさんが、私の姿を見つけた途端に走って来たが、ピタリと止まった。
私達の足元に、魔法陣と夥しい数の○×ゲームの痕跡を見たからだろう。見回してみると、中々にカオスである。
「…………大丈夫そうだね?」
「はい、おかげさまで……」
そのイクリスさんを追い越して、他の4人がどっと押し寄せる。
「この階層で低級の霊が出る訳が無いので何かの合図かと思ったんですが、やっぱりセルフィさん達だったんですね」
セイカさんが霊を祓ったので、何かしら感じ取ってくれたのであろう。
「はぁぁぁー、良かった……」
自分では気にしないようにしてベルジュが一緒とは言え、かなり不安だったみたいだ。腰が立たなくなって、みんなの姿を見た途端にへたり込んでしまった。
もう1人は、こりごりだよー。
ベルジュとの距離を30mから40mに変えております。大きな魔物との距離が30mでは近すぎる。




