3 力が欲しいかは人次第
その後、2週間ほどは問題なく窓口業務をこなしていて、窓口業務にもそろそろ慣れて来たと思っていたところ、ロウ爺が2階を指差してギルド長が呼んでる事を伝えに来た。お礼を言うと、ロウ爺は頷きながら鑑定室に帰っていく。
早く奥さんと家庭菜園やる日々になれたらいいね……!
くっ、涙出ちゃう。
ギルド長室の前に来るとノック三回。いつもの通りに「入ってー」と野太い声がする。そして、いつもと言えばいつもの通りに紅茶が出される。
「今日は、お城の鑑定のヘルプに行って欲しいのよね」
ギルド長は奇麗な所作でお茶を飲むと、そう言った。
うわぁ。
城内の鑑定士達は冒険者を相手に仕事している私達を下に見ているし、以前手伝いに行った時も良い目では見られなかった。出来れば行きたくない場所である。と、いうことは。
「普通の鑑定じゃないんですね?」
「そう言う事。城の鑑定科の室長様直々の御使命よ。30分後に迎えの馬車が来るわ」
これは逃げられないやつである。
かくして私は売られる小牛のような気持ちで城に連行されたのであった。
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門に控えている騎士にギルドの職員証を見せると、既に連絡が行っていたのかすんなりと案内された。鑑定室前につくと、騎士は一礼して去ってゆく。
ノック三回。
内側から静かにドアが開いて、50代ほどで穏やかな顔の男性が出てくる。髪の毛は総白髪だ。優しい金の目をしている。この城内の鑑定科の室長だ。
「待っていましたよ。ご足労、有難うございます」
そう言って私を室内に招き入れた。
「失礼します」
そう挨拶するや否や、下は20代後半、上は50代後半程の男女の視線が鋭く集まる。私の事を良く思っていないのが、丸わかりである。その事に肩身が狭い思いをしていると、長身痩躯の男がメガネをクイッとしながら近づいてきて私を睨む。
「室長、またその女性ですか。城内の仕事をそのような民間人に任せるなど、どうかと思いますが」
「冒険者ギルド職員は公務員です」
無知をお詫びしていただきたい。肩身の狭い思いは一瞬で吹っ飛んだ。火花をバチバチと散らしていると、室長にスっと間に入られてしまった。
「鑑定での見え方は人それぞれですから。我々に鑑定できない物なら、外部に頼るのもいいでしょう?」
そう言いつつ、軽く背中を押して奥の小部屋へ促す。あのメガネ、いつか勝ち割ってやるぞ。私は密かに闘志を燃やす。部屋の三面は大きな棚で囲まれていて、そこには古いスクロールや古文書、一見すると何に使うか分からない物も有る。
案内されたのは中央にある2m四方の机で有った。そこには小物の様が三つあり、静かに鑑定を待っている。
「これは、先日帰って来た考古学チームの持ち帰った、アーティ・ファクトです。この部署の誰にも鑑定出来ませんでした。ミストレスさんなら分かるかと思ってお呼びしたのですが」
室長の顔をよく見ると、目の下にクマが有る。鑑定が持ち込まれてから休みなく鑑定させられているのだろう。国の仕事なのにブラックである。
しかし、アーティ・ファクトとな。ギルドで仕事をしている限りでは滅多にお目に罹れない代物だ。今まで私が城に呼ばれた時に鑑定したのは、石碑を彫った人間が何を思って彫ったかの背景だった。私のスキルは独特なので、原本である事が鉄則だ。写しであると、普通の鑑定程度の内容しか出てこない。
だが、小物となれば起動方法、使い道が分かればいいので問題無い。
椅子に座って、三つの小物を一つずつ手に取っていく。
一つ目は、途切れることなく水が手てくる大きなネックレス型の宝石だった。
二つ目は、中に入っている知識が本のように目に映し出される手鏡のようなものだった。
三つ目は、銀ともベルべットともつかない、不思議な質感に見える手のひらサイズの兎のマスコットだったのだが。
二つの鑑定を終えて三つ目を手に取ろうとしたところ、なんと兎が自分でゆらりと立ち上がった。危険を感じて室長が私を背に庇おうとするが、既に兎の宵闇色のとろりとした瞳が私を捕えていた。
『…………か』
「え?」
『力が欲しいか?』
「えっ、いらな……」
間髪入れずに答えると、次の瞬間部屋の時が止まったようにシンとなる。何かおかしな事を言っただろうか。こんな怪しい兎の持ち掛けた契約など承諾する意味が分からない。詐欺だって内容くらいは言うだろう。
『なぜだ!!』
「「!!」」
うさぎはダァン!と片足を踏みしめた。それに室長と私は驚くが、実際は「ぽて」っという音だ。軽いのだろう。
『ニンゲンと言うのは、欲の権化だろう。貴様も何か望みが有るだろう?』
「そんな事言われましても、人それぞれですし……因みに今までの人は、望みを言ってどうなったんです?」
横で普通に話し始めた私に、室長がぎょっとしている。
『そんなもの、身の丈に合わない願いをしたものは業火に焼かれて滅びていったわ!』
そこまでいって、ようやく私はむんずと兎を掴むとスキルを発動した。兎は『ムギュム』と変な音を出す。
”解析”
・古代イスタール時代の堕ちた神官が1000人の血で作った願望器である。(呪)
あまりの怪しさに、手から机に放り投げる。
「いやです、いらないです、間に合ってます」
『少しは考えてみたらどうだ。ワシの前に欲望をさらけ出せ!さあ、さあ!』
机に放り投げられた兎はビョイと起き上がると、私にずいずいと近付いてきて圧をかけてくる。
「困ります!国に属している遺物が個人で契約するなど、前代未聞です!」
はっとした室長が会話に入ろうとするが、兎の両の手に雷が閃き始めた。
『どうせワシを動かせるのは、この娘だけじゃ!』
それを見て、私は文字通り閃いた。
「わかりました」
『ほう、やっぱり有るでは無いか!言うがよいぞ!』
「私の願いを叶えさせる権利を与えましょう!」
『!!???』
表情は分からないが、兎はびっくり仰天しているようだ。
本来このような契約と言うのは、願いを叶える叶える代わりにこちらが何かを差し出すという事だ。ただ、呪物だから過ぎた願いは身を亡ぼす事になると言った。それなら、あちらに願いを差し出させればこちらが優位に立てる。
「ほら、どうです?言ってみたらどうですか?」
『ぐぬぅ……』
「じゃあ、私は仕事終わったので帰っちゃいますけど。あなたが私にしか扱えないなら、部屋に置き去りになっちゃうかも……?」
『ま、まて』
体を扉に向けると、兎は這いつくばって片手を私に手を伸ばしてくる。
『願いを……言ってくだ、さい』
勝った!!
「じゃあ、私を守る力を所望します!」
守るという力を私に与えるという事は、この呪物は最終的に私を殺せないという事である。この呪物のアイデンティティを崩すという事だ。願いを叶えると、逆に私に力を授けていないと言う事になるのでパラドックスに陥ってしまう。
『承知した……』
今度こそ兎は撃沈した。
「ミストレスさん、困ったことになりましたよ」
室長は青ざめた顔で、冷や汗をハンカチで拭いている。
「え?守るって約束させたから私に危害加えようがないですし、私しか使えないなら、他の人にも迷惑かからないですよね?あとはお城で保管しておけば……」
そうすると、兎はやれやれといった感じで肩を竦めて見てくる。
『ワシはお前を守る力を与えると言っただろう。それはすなわち、ワシがお前の傍で力をふるうに決まっておろう』
なん……だと…………………?
かくして私は呪物を手に入れてしまったのであった。
また夜に更新にきます
願望器が兎だと、叶えたい時に兎をかかげるんですかね。ちょっと寂しい。
ノック三回は日本のビジネスの場面。四回は外資系とからしいですね。
日本基準でおねしゃしゃす。
挿絵を入れようとしたら、何回やってもエラーが起こるのでその内……泣くしか
と言ってもセルフィの全身が見れるだけで、高度な物は何も詰まってません。




