38 地下10階層の戦い
只今、昼12時、夜20時更新となっております。
一日1本の場合は、20時目安とさせていただいております。
さて、今日は地下10階層に入るぞ。
しかし、その前に朝ご飯を食べねば。腹が減っては戦が出来ぬ、だ。
昨日と違って、切り刻んで乾燥させた玉ねぎをたっぷりと入れて、くつくつ煮る。乾燥肉と玉ねぎにコンソメ出汁を入れると、コンソメスープの出来上がりだ。プラスでキノコを水で戻して、お揚げと合わせてお浸しを作る。
「ああ~、今日も、良い匂いで目が覚めたわ。素敵……」
テントから、サーリャさんが髪を整えながら出てくる。
「結構匂いしちゃってますけど、大丈夫ですか?」
ダンジョンの中で火を使った料理を作ると、かなり匂いがする。空気が籠るからだ。香りが漂うと敵が寄ってきそうに思うが、作るのを止められた事が無い。
私の疑問が顔に出ていたのか、サーリャさんがフフッっと笑った。
「この階なら大丈夫ね。流石に温かい食事はここまでだけど。この先は敵も強くなるだろうから、匂いも出ないものにしないと。残念だわ」
この先は携帯食料のみか、侘しい……。敵の強さが有る程度分かるのならば、そこまで匂いを気にしなくても良いのだが、ミノタウロスが出た時に、どうなるか未知数だ。なので、これ以降の階層は、携帯食のみとなる。
最後の晩餐的な悲壮さで、みんながすごい勢いでスープを、かきこんでいく。
「次の階層から、セルフィちゃんの手料理食べれないんだ。残念」
ナユさんが、わざとらしく「よよよ」と嘆いて寄りかかってこようとしたので、もちろんベルジュにシールドで飛ばされた。これはもう、不治の病気だな。
「そんな事より、早く進もう。依頼は早く済ませたいからな」
ガイアスさんがそう言うが、全くもってその通りである。早く、地上の清浄な空気を胸いっぱい吸いたい。それはそれとして、イクリスさんが静かなのが気になる。いや、別に常日頃から彼がウルサいとかでは無いんだけど、とにかく元気が無い。
「イクリスさん、体調が悪いんですか?」
「ちょっと寝られなかったかな。少し緊張してるのかも」
うーん、”氷雪”のリーダーたる彼が危険討伐対象のミノタウロスが相手にしても緊張するだろうか。しかし大丈夫の一点張りで、あまりしつこくしても仕方が無いので、それ以上は私も口を噤むしかない。
「さっ、下におりよっか」
ナユさんの合図で地下10階層へ降りる階段を、隊列を組んで降りる。前列にナユさんとイクリスさん、その次にサーリャさん、私とほぼ並んだ形でセイカさん、殿はガイアスさんだ。この隊列の組み方が”氷雪”のデフォなんだろうな。
道中はハイオークやミニデーモンなどで、私にとっては気持ち悪くても、”氷雪”やナユさんには慣れたものらしく、数回切り結ぶだけで倒していた。
倒した後のものは、私も素材としてしか認識しないから大丈夫なんだけど。そうでなければ、やはり大きい魔物は慣れないので一般人には怖い。
迷宮内を行きつ戻りつしながらも、イソギンチャクのような魔物ローパー、首なし騎士のデュラハンと、魔物のレべルが上がって行く。ギルドの魔物図鑑の通りだ。
マッピングしながら進んでゆくと、ようやく地下11階層に降りる階段が見えた。階段の途中で、小休憩と水分補給をしたり簡単に小腹を満たす。
少々疲れを取ったら出発だ。
階段を降りて、アーチを潜るーーーーーーーー。
と、目の前に、いきなりミノタウロスが居た。流石にこれは、笑えない。11階層から登ってきている覚悟はしていたが、ここまで来ているとは思わなかった。しかも、9階層まで行く直前だったという事だ。上に居る冒険者に被害が無くて良かった言えるが、私にとってはもちろん嬉しい事では無い。身の丈は5m程で、そそり立つ壁の様だ。
「セルフィさんは下がって、俺とガイアスは前へ! ナユは補助、セイカとサーリャは控えててくれ!」
イクリスさんの合図で、それぞれが散開する。
階段を背にしたのが、吉と出るか凶と出るか。敵との距離が近いが、階段は狭いので敵も攻撃がしにくいという利点もある。
Grrrrr!
ミノタウロスは、初っ端から力任せに斧を振るう。
「陰縫い!」
ナユさんが地面に手をついて、セイカさんの魔法によって出来た灯りに浮かんだミノタウロスの影を地面に縫い付ける。シーフの特技の動きを封じる術である。
Grrrrrrrrrrrr!!!!!!
ミノタウロスはそれから逃れんとして、滅茶苦茶に暴れだした。地面に足は縫い付けられてるとしても、上半身は自由だ。それを確認して、サーリャさんが魔法を使う。
「ブロイル・レイ!」
一閃の光が現れ、一点をめがけて飛んでいく。辺りに焦げた臭いがしたかと思うと、ミノタウロスは目を押さえて体を捩っている。両の目から血が出ていて、そこを焼いたという事が、分かった。
ミノタウロスは痛みに耐えかねて、片手に持っている斧を無秩序に振り回すため、壁をが破壊されバラバラと瓦礫が降ってくる。
「一回、階段に退避しろ!」
イクリスさんの鋭い指示が飛ぶ。階段のアーチまでもがガンガンと斧が当たって、階段が崩れそうになった。しかし、戦う場所が狭くなった事で敵の動きも阻害されて、こちらからもミノタウロスが狙いやすくなった。
それを待っていたのか、肩からベルジュが私の肩を踏み台にして跳んだ。
ベルジュの右手が光る。
恐ろしいほど間抜けな光景ではあるのだが、その威力は折り紙付きだ。
『食らえ!!』
ミノタウロスの腹部に空気を纏った拳が見事に決まる。
Brrrrrrrrrrr!!!
痛みの為か、ミノタウロスの体が二つに折れた。
「え」
しかし、その時ベルジュが前に出すぎたせいで40m以上開き、私の体が宙に浮いて引っ張られたのだ。
「!!」
この瞬間、あまりにも異常な絵面になったため、皆が動けなくなってしまっていた。
ベルジュが勢いずいて前までダッシュしたため、物理的に距離が開きが開きすぎたのである。思わず、ぎゅっと目を瞑る。
「セルフィちゃん!」
一番早く反応出来たのは、ナユさんだった。私の腕を引っ張って抱き留めたまま体を反転させ、代わりに背中から壁に叩きつけれる。
「うっ…………!」
「ナユさん!!」
予想外な位置に引っ張られた事に加え、ナユさんの体に隠されているとは言え、ミノタウロスの前に体を晒すことになった恐怖で、私は固まってしまった。
「いってえ……セルフィちゃん、走るよ!」
足がガクガクする私を何とか立たせると、ナユさんは階段に向けて走り出す。入れ替わりで”氷雪”が前に躍り出て来た。セイカさんだけはこちらに走って来て、慌ててナユさんに回復魔法をかける。
「ごめんなさい、すぐに反応出来なくて……」
セイカさんの頭の上に、怒られた犬の垂れた耳の幻が見えた気がする。こんな状況で24歳の男性を捕まえて言う事じゃないけど、かわよ。
ナユさんは回復魔法をかけられた後に、首や肩をぐるぐる回しながら、セイカさんに聞く。
「魔法の灯りって遠くに飛ばせる?」
「はい、あまりにも遠いと制御が難しくなりますけど」
「じゃあ、最初からそうすれば良かったな。あまり他人には手の内は見せたくないんだけど……ミノタウロスの真後ろに頼むわ」
「はい……ライト!!」
セイカさんの魔法の灯りが一段強くなり、ミノタウロスの真後ろに飛んだ。逆光のようになって、こちら側に影がグンっと伸びる。それを確認してから、ナユさんは懐から銀色に光るナイフを出す。柄には古代文字がびっしりと書いてあった。鑑定するまでも無く、相当な業物で有る事が分かる。古代文字が刻まれている物は、総じて簡単に折れる物でも無いし、それだけで触媒になり、なにがしかの効果を生み出す事が有る。
「”影縛り”」
ミノタウロスの足元の影にナイフを三本打ち込むと、そこから無数の手が出て来て十重に二十重に足から腿へ巻き付いていく。それによって、完全にとはいかないが、ミノタウロスの動きが鈍った。
「ホラ、早くしないと拘束が外れるよ」
「!サーリャ!頼む!」
「分かったわ!」
イクリスさんの合図に、サーリャさんのロングスタッフに、急激に光が集まる。
「エクスプローション!!」
スタッフの先から炎が螺旋のように飛んで、ミノタウロスの体を幾度も焼き、辺りには焦げ臭い臭いが充満する。
体のあちこちを焼かれて、かなりダメージが通ったようで、ミノタウロスは体がグラグラしている。
「ガイアス、行くぞ!」
「おう!」
その隙を狙って、イクリスルさんとガイアスさんが、それぞれ喉を掻き切った。一拍置いて首がずれていったと思うと、体がぐらりと崩れて、ようやく体が倒れた。
こうして、ミノタウロス退治は終わったのだ。




