36 地下とキノコと野菜と沈黙
昼更新です。
血が出てくる表現がこの先出てくるので、R15にしておきました。
薄暗い迷宮内、6人でソロソロと歩く。余計な戦闘を避ける為に、サーリャさんの魔法によって足音は消されているので、辺りは静かなものだ。どこかで水が滴り落ちている、ポタポタという音だけがする。セイカさんとサーリャさんが魔法の灯りを灯しているとはいえ、足元は凸凹していて舗装されていないので、私にとっては、この道を歩くのはツラい。
そう、端的に言って私の体が色々な意味でしんどい。肩に乗ったベルジュだけが肩に座って足をブラブラとさせて楽そうだ。
「ベルジュだけ歩かなくて良くて、羨ましいよ」
私がやさぐれながらブツブツと文句を言っていると、ベルジュが朝焼け色の目を細くして言う。
『ワシだけが先に行ったら、どうなると思う?』
え、どうなるの?
『ワシが無理矢理先に進んだら、ワシが引っ張られて飛んで戻ってくるか、セルフィがこちらに向けて吹っ飛んでくるかのどちらかだな。あまり距離を開ける事は出来ないのだから』
怖い!捨てても捨てても家に戻ってくる、呪いの人形みたい!ーーーーーーーいや、元々呪いの人形だったわ。
先頭でヒョイヒョイと軽く罠解除をしながら、ナユさんが後ろの私を見る。
「セルフィちゃんって、”氷雪”と仲が良かったんだね」
良いって言って良いのだろうか。なにしろ相手は国でも人気のAパーティーだ。仲良しです!というのも図々しいような気がする。ただ、ギルドに来る他の冒険者よりは、仲が良いかも?
「そうだな、一緒にケーキを食べる仲だ」
いつもは静かなガイアスさんが、突然そんな事を言うので驚いてしまった。ケーキを一緒に食べる仲なんて聞いた事無いぞ。せめて、同じ釜の飯を食った仲と言って欲しい。
「もちろん、セルフィちゃんの手料理を食べた仲でもあるわ。セルフィちゃんの料理って、本当に美味しいのよ~。私の中では、お嫁にしたい子、不動のNO.1ね」
サーリャさんが、目を瞑って物思いに耽る。いや、私はまだ結婚する気は無いのだが。
「へぇーーーーーっ。じゃあ俺も、もっと熱心にセルフィちゃんの事を口説かないとね」
ナユさんが軽口を叩くと、セイカさんが珍しく口を挟む。長めの前髪から、薔薇水晶の瞳を覗かせ半目で見る。
「彼女を困らせないで下さいね」
「ヘイヘイ、オレもセルフィちゃんに嫌われるのは本意じゃないからね」
おお、なんと。あの”氷雪”に仲が良いと思われているぞ。どちらかというと、胃袋で繋がった仲だという気がしないでもないが、良く思われてるのは何より。それにしてもナユさんてば、本当に誰でも口説くのは、いつか後ろから刺されるから止めた方が良いと思うよ……。
『おい、あそこに宝箱が有るぞ』
まだ光が届いてもいない空間を、ベルジュが手で”むいっ”っと指す。
「へぇ~、すごいんだな。シーフの俺でも、ギリ見えるかどうかなのに」
灯りが点いているとは言え、私は20m先も見えていなくてサーリャさんに掴まっているのだが?
ベルジュの言葉を受けて、サーリャさんとセイカさんが先の方へ灯りを向けるが、そもそも私には遠すぎて何も見えない。本当に、冒険者の目ってどうなってるの。
30mほど歩くと、幅50cm程の小さめの宝箱が落ちている。
宝箱の近くへ行くと、触っただけで作動する罠が無いかどうかだけをナユさんに確認してもらい、スキルを使う。
”解析”
呪い無し。智者の冠入り。
「大丈夫みたいですよ」
それを受けて、ナユさんが手早く鍵を解除する。宝箱の中には、確かに小さな冠が入っていた。
冠……と言うか髪留めの様だ。
「智者の冠は魔法使いの使う髪飾りですね。魔法の威力が上がります」
私の解析結果を受けて、”氷雪”とナユさんが顔を突き合わせる。
「取り敢えず、売る金額を6等分して、もし必要ならサーリャが買い戻すといいよ」
「わかったわ」
イクリスさんが、髪留めを斜めにしたり裏にしたりして眺めている。今回の探索&討伐で、見つけた宝は売値を6等分して、必要ならそれを個人が買い戻す形にしている。最初に取り決めしておかないと、パーティー解散の原因は、金銭トラブルも多々あるのだ。
「よし、じゃあ、荷物の少ないオレが持つわ」
シーフであるナユさんは基本軽装なので、荷物の重量も自然に軽くなる。小さいドロップアイテムは彼が持ってくれる。それはそれとしても、荷物が重いとヘバる私の持ち物を”氷雪”が分担して持ってくれているのが申し訳ない。私が持っているのは、水筒と携帯食料とタオルとベルジュくらいだ。
ベルジュは重くも嵩張りもしないけど、存在が重たいからなぁ。
その先も、床のスイッチで作動する罠や、壁のスイッチで作動する罠などを、次々とナユさんがチェックしていく。
宝箱も程々に見つかるが、中味は殆どが小さい物で、出てくる宝石に至っては半分が呪われていた。
「宝石自体は物が良いんだけど、呪われている物が多いし、武器・防具の類があまり出ないなー」
私が不思議に思っていたことを、ナユさんが呟く。階層的にはそろそろ10階層だ。ここからは気を引き締めねばならない。ミノタウロスが上まで登ってきているのかも知れないのだから。
ソロリソロリと遅い歩みを進めていく。ここまでの戦闘は、わずか6度。いずれもゴブリンや大型コウモリなど、ダンジョンに居るのが当たり前な敵しか居なかった。戦闘が始まると私は邪魔にならないように少し後ろに下がって、巻き込まれないようにベルジュを肩に乗せておくだけだった。
ふとギルドから借りた狂わずの腕時計を見ると、もう18時だった。そろそろテントを張った方が良いだろう。今の内に休んでおかないと、もしミノタウロスがもう1階層上がって来ていたら鉢合わせになってしまう。そうならない為にも休憩だ。
「今日はここまでにしよう。男のテントはくじ引きで2人ずつ、2個で。女子は女子用のテントを張ってくれ」
イクリスさんも同じ事を考えた様で、皆に休憩を呼びかけた。私を除いた皆は冒険者なので、慣れた様子で手早くテントを張って行く。私もサーリャさんの手伝いはするものの、どうしてももたついてしまって、ベルジュに『役に立たぬのう』と言われたが、今回はぐうの音も出なかった。
私が言い返せなかった事で上機嫌になり、張ったテントの中で踊り始めたので、地上に戻ったら何かしらやり返す事を心に誓った。
それよりも、ご飯の支度だ。”氷雪”には私の料理が何故か好評なので、顆粒出汁や乾燥野菜、干し肉を持ってきた。小さめの鍋と器はガイアスさんに持ってもらってるので、それを降ろしてもらってサーリャさんに鍋に水を貼ってもらう。今回は、乾燥したキノコも持ってきた。少しは味変させないとね。
土台を作ってもらい、小鍋を置いて、下から固形燃料を入れて火を点けてもらう。お湯が沸いてきたら顆粒出汁と乾燥野菜とキノコをたっぷり入れて味を調えて完成だ。
何でもぶち込んだだけに見えるが、乾燥野菜の選び方と顆粒出汁の種類で、味は雲泥の差になる。
流石に今回はマジックバッグが無いので、主食は携帯食だけど。
”氷雪”は毎回喜んでくれるのだが、心配なのはナユさんだ。まだ料理を食べてもらった事がないからね。
「うっそ、ダンジョンで温かいスープかー。美味いわ、これは」
概ね高評価らしいので、ほっとした。
「プロポーズは、”毎日、君のスープが飲みたい”かな」
プロポーズとか言う、悪い口はこれかっ、これかっ!
「うふふふふふふふふ、余計な事を言うわね。”サイレンス”」
私がナユさんに掴みかかって揺さぶっている所へサーリャさんが黒い笑みを浮かべて、沈黙魔法をかけた。こうして食事は(無理矢理)静かに終わったのである。
次は夜です。




