28 お茶とケーキと生気
その夜は結局、みんな疲労しすぎていて、各自そのまま部屋に戻った。自分も、ぼふんと布団に突っ伏したまでは覚えてる。
次に目を開くと、すでに昼だった。
「うわぁぁぁぁぁ、ベルジュ何で起こしてくれなかったの?」
私は学生の頃に寝坊した時にお母さんに言うようなセリフをベルジュに言う。
『気持ちよさそうに寝ていたので、起こす意味を見出せなかったな』
慌てて身支度をしてリビング的な部屋に入ると、4人が寛いでお茶を飲んでいた。
「セルフィさん、起きて来たんだ。疲れてただろ、起きて大丈夫?」
「あ、はい、大丈夫です。ははは」
イクリスさんが気遣ってくれるが、体力が無くてバテて寝ていただけなので、個人的に何となく気まずい。
「ああ、セルフィさんが起きて来たのなら、貰ったケーキを出そう」
ガイアスさんがケーキの箱を持ってくる。ってそこ、めちゃ高いとこのケーキショップのやつ!!人気過ぎて中々買えないお店なのだが、そんなものを貰うって、どのような手を使って……?
私の頭の上の疑問符が見えたのか、ガイアスさんが苦笑して説明する。
「午前中に実家に行った時に持たされたんだ。王室御用達らしい」
「僕も食べた事有りますけど、すごく美味しいんですよ」
セイカさんがニコニコとして言う。
すばらしい。マーベラス&ファビュラス!
一般庶民には中々手が届かない物だ。セイカさんがお茶を淹れてくれている間に、私は早々にレモンタルトを選ばせてもらって美味しくいただいた。爽やかな甘み、クッキー生地のザクザク感がたまらない。私が幸せに浸っていると、横に座っていたイクリスさんが咳ばらいをする。
はっ、気が緩み過ぎていた。しかし、美味しいケーキの前には私は無力なのである。
どうやらケーキ時間を邪魔された事で恨めしい目で見た(後で聞いた)私の視線から逃れるように横を向いたイクリスさんが、もう一度咳払いをする。
「昨日の奴のターゲットは俺たち……と言うかベルジュで固定されたらしい。見回り自体はゆるくして、セルフィさんを守った方が良さそうだ。ベルジュはセルフィさんから離れないからね」
『ワシを、親離れできない子供のように言うでないぞ』
「いや、そんなつもりで言ったんじゃないけど」
「ハイハイ、ベルジュもそれくらいにしようね。じゃないと四面を鏡で覆って鏡地獄に閉じ込めますよ」
『お前は、つくづく陰湿じゃのう』
「どの口が言うか」
イクリスさんとベルジュがあまり良い雰囲気とは言えなかったので取り成したが、どうやら私の考えた罰はベルジュには重いらしい。ごにょごにょと口ごもっているベルジュを見ると、何がそんなに陰湿なのか謎だ。被害妄想ではないのか。っていうか、呪いのマスコットに陰湿とか言われる覚えは無いんですけど!!
そこまで言うなら、あとで試しにやってみようじゃないか。
サーリャさんも紅茶を飲みながらまったりとしながら言う。
「結局、相手の出方を待つしかないものねえ。ところでベルジュちゃん、相手はもう生気を集めきったと思う?」
『そうじゃな……。我を見て再会を願う程なら、ほぼそうなのであろうな』
「昨日も満月だったから、次も満月の日だったり?」
「その可能性はあるかも知れないけど、それより前かも知れないし、一応気を引き締めて行こう」
私の独り言を、律儀にイクリスさんが拾ってくれる。また会おうとは言っていたけど、あの日に襲ってこなかったという事は、何かしら理由が有るんだろうな。
考え込んでいる内に、手元の紅茶はすっかり冷めていた。
「紅茶がすっかり冷めちゃったわね。セイカ、淹れ直して」
「ちょっと、サーリャさん、そこは”私が淹れなおすわね”って言うところじゃないんですか?」
「だって私が淹れると、あなたすごい顔するんですもの。それならセイカが淹れた方がいいでしょ」
サーリャさんとセイカさんの軽口は今日も絶好調だ。それにしても、すごい顔するお茶ってどんな物か気にはなるけど、そっと部屋を見回すとガイアスさんもイクリスさんも目を逸らしている。推して知るべしという事なんだろうな。
それにしても、”殆ど”成就しているという事は完成していないという事だ。最低でもあと一回は何か起こるだろう。問題なのは、それがいつなのかだけ。イクリスさんの言う通り、気を引き締めるしかないんだろうな。
結局は、私は私の出来る事をやるだけだ。
「じゃあ、私が淹れますよ」
私が立ち上がってティーポットに向かうと、いつも通りにサーリャさんに熱い抱擁をされる。
こんな暢気に過ごせるのは、後少しかも知れない。




