26 乙女をするにも体力が要る
短いです
住居を一時的に移して過ごす事、半月。今の所は自分が役に立つ事が起こらなくて、申し訳なさすぎる。事件が起こらないにこした事は無いんだけど。ベルジュによると、そろそろ術者が現れるのではないかと言っていたが、結局な所いつ出現するのかは謎だ。
ふと考えてみると、この半月あまり然程出歩いてないので、心なしか丸くなったような……?よく食べて、良く寝て、よく動かなさすぎる。
それに気付いてしまって、どっと汗が出る。やばい。持ってる洋服が入らなくなってしまう。たらりと冷や汗が流れて来た。
自分の部屋からリビングに当たる部屋に駆け込むと、ちょうどサーリャさんが居たので聞いてみる。そうだ、女の事は女の人に聞こう。
「ええ?どんなセルフィちゃんでも可愛いから、問題ないわよ!」
スマイルと共に、グッ!と親指を立ててくる。駄目だ、回答になっていない。考えてみたらサーリャさんは、私に激アマだった。かと言って、逆セクハラになってしまうので男性に聞くわけにもいかず。
「サーリャさん、私、今日からジョギング始めます。やばすぎです」
突然の事に反対されるが、見回りにはスピード的についていけないから、一緒に見回りして運動量を稼ぐと言うのは無理な話だ。そうなっては、個人的に運動するしかない。そう決意を新たにして説得すると、不承不承ながらも頷いてくれた。
しかし、ベルジュはいつもと言えばいつもの如く、やっぱり余計な事を言った。
『お前の体形など、誰も見ておらぬわ。プッ、己惚れておるな』
やれやれと首を振りながら肩を竦める。こいつ呪いの人形なのにどんどん動作が人間に近くなっている。私は宛がわれてる個室に戻ると、上にパーカーを羽織ってトレンカの上にショートパンツを履き替えて出てくる。「バン!」と大きい音をさせて戻ると、ベルジュの首を摘まんで肩に乗せて出動だ。
「今から、ジョギング行ってきます!ベルジュ、私に何か有ったら呪うから守ってね!」
まさか呪いというアイデンティティを奪われると思わなかったのか、ベルジュはぎょっとした後に焦ってアワアワしているが、私はそれに取り合わず颯爽と家を出た。
ここまでは良かった。
しかし、普段の運動不足がたたって、10分ほどで息が切れてくる。元々運動が得意な方でもない私に、突然のジョギングは無謀だったか。普段も内勤だしね。
ぜー、ぜー
早々に壁に手をついて息を整える。これ、”氷雪”と行動するなら毎日運動しないとダメだな。もういい、後はウォーキングに切り替えよう。2km程に脳内設定したコースを途中から歩きに変える。そもそも、普段運動しない人間はウォーキングから始めるべきなのだ。
『ハハッ、無様だな。最近のお前は怠惰だったから、少しは油を落とすといいぞ』
「うるさいな。そんな事言ったら、あなたのお腹を削りますよ?」
私がへばっているのをベルジュがせせら笑うが、反撃を食らって耳を伏せて蹲った。自分はぽてっとしたフォルムの兎の姿なのに。反撃されたくらいで小さくなるなら、そんな事言わなければいいのでは?
と言うか耳伏せてるけど、その耳って動物みたい機能してるの?
アーティファクト、奥が深いな。
20分ほどでクタクタになって帰ると、四人が揃っていて、ぎょっとして出迎える。
「わっ、どうしたんですかセルフィさん、ヒールかけますか?」
「いえ、体力づくりなのでヒールはちょっと……」
慌ててセイカさんが駆け寄ってくるが、ヒールは断る。そう、明日どれだけ筋肉痛が待っていようとも。
体力を鍛える為にする運動をヒールされると、筋力の疲労も戻ってしまいスタミナがつかないのだ。
ヨロヨロと部屋に戻り、とりあえずベルジュをドールハウス用のベッドに放り投げ、自分のパーカーを椅子にかけるとシャワーに向かう。中に入ると誰か……がいるというハプニングも無く、鍵をかけて安心して服を脱ぐ。汗臭さを流して、さっぱりスッキリだ。
「うーん」
未だに事件が起こっていないのだが、それは逆にこれから起こるという訳だ。前から感覚が開いているが、生気は本当にほぼ集まっているのだろうか。
髪の毛を乾かしながら思案する。今までは何となく安穏として過ごしていたが、そろそろ心づもりをしておかないといけないな。しばらくは体力づくりに集中しよう。みんなの迷惑にならない為に。




