25 誤魔化しと嘘は、少し違う
私達が冒険者ギルドに戻ると、ギル長が蒸しタオルを用意して待ってくれていた。ぐったりしている私に代わり、イクリスさんが詳しく説明してくれる重い話に反して、ベルジュは相変わらず緊張感が無い。ギルド長の机で、ポストイットを一枚ずつ剥がして机の端に奇麗に貼って並べていくという無意味な遊びをしている。後で寸分たがわず元に戻すようにさせよう。
「なるほどねェ。セアルフィちゃんは、そこまで無理しなくていいわよォ。体を壊しちゃうわ、そっちに集中してちょうだい。国命なんだから、ポーションもぶんどってくるわ」
頼もしいけど、国からポーションをぶんどらなきゃいけないくらい働かされるという前フリだ。恐ろしい……!
「あ、そう言えば”悠久の風”はどうしたんです?」
人手が足りなさすぎるのに、彼らの噂をとんと聞かなくなった。
「ああ……彼らなら自信が無くなったらしくて、もう一回やり直すって言って、草原を通って隣の国へ行ったわよ」
ガーン
ショックすぎる。
一回の失敗で挫けるなんて、Sパーティーとしてどうかと思うのだが。
「でも、とにかく今日はもうセルフィちゃんを休ませてあげたいワ。色々準備するにしても、もう遅い時間だしネ。誰か家に送ってあげてちょうだい。セルフィちゃんはまだ目が眩んでるでしょ?」
「いえ、1人で平気ですよ。今日はもう、お風呂入って寝たいです……」
蒸しタオルを軽く上げて、視界がほぼ戻っている事を確認する。これなら普通に歩いて帰れそうだ。
「でもぉ~……”氷雪”の皆さんで送って行ってあげてくれるかしら」
「え」
「そうね、心配だわ」
「あんな事が有ったばかりですしね」
「万全を期そう」
「そうだな」
四人がそれぞれに言って、斯くして私は家まで連行されることになった。
「その前に」
私はギルド長の机で、だらしなく仰向けに寝転がっているベルジュに言う。
「その肩章みたいに机の周りに貼ったポストイットを1mmの狂いも無く元に戻して」
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4人に家まで送ってもらったので晩御飯に誘ったのだが、私が疲れているだろうと丁重にお断りされてしまった。その代わりに、時間が有る時にご飯を振舞う事を約束する。
今日は滅茶苦茶疲れたので、シャワーを浴びて早々に布団に入る。疲れも有って、早々に寝入ってしまった。
寝たのだが。
夢の中で耳鳴りがして夜中に目を覚ましたら、ベルジュがドールハウスのバスタブで歌を歌っていた。もちろん呪いの歌である。この呪いの兎と言ったら懲りない奴だな。
私はベルジュをハンカチでお団子にすると、ドールハウスの蓋を閉めてロックする。一晩反省すると良い。
その後は、ようやく安心して深く眠れた。
太陽が昇り、朝日が目に染みて健康的に目が覚める。ドールハウスを見ると、カタカタと小刻みに震えている。
ふう、出してやるか。やったのは私だけど、朝起きて早々ホラー現象だ。
ベルジュはドールハウスから千鳥足で出てくる。千鳥足のアーティファクトとは、これ如何に。おそらく歴史が始まって以来の現象だろう。私は今、歴史の瞬間に立ち会ったのだ。
へろへろのベルジュを見てひとつ頷くと、すぐに朝の身支度をする。トーストを焼いている間に上に乗せる目玉焼きとカリカリベーコンを作る。その後に冷蔵庫からサラダを出して、鼻歌交じりに紅茶を淹れた。
食べ終わってふーっと一息つくと、雑誌に目を通すが、文字を追っていても目が滑る。
あの場所で解析をした時に目が合ったのを思い出して、ぞっとして腕を擦る。あれでは私の能力を知っているみたいではないか。
鑑定以外の、所謂”過去見”とも言える「解析」を使えるのを知っているのは、王城の一部の人間とギルド長くらいだ。術者は過去見を断ち切る術を持っている事になる。
「ベルジュ、あの呪いの原因を起こしてるやつ、捕まると思う?」
『随分弱気なのだな。何回も犯行を繰り返しておるのだから、いい加減に遺物に力が集まっているのではないか?そろそろ本人が出てくるかもな』
「うーん……」
考え込んだところで仕方が無いので、昨日約束した通りに出かける事にする。
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術者が出現するまでの待ち時間が不明なため、”氷雪”が町の中心に近い貸家を借り、私もすぐに駆け付けられるようにと共同生活になった。午前と午後に見回りを分けて、少し休んでから夜間にまた見回るというハードスケジュールを行う事に。
体力の無い私は見回りは免除されている。行っても足手まといだしね。私は家から大きく離れないならば昼寝してても本屋に行ってもお茶をしててもいいらしい。三食お昼寝つきで申し訳ない。
午前中に見回りをしていたイクリスさんとセイカさんが、お昼を買って戻ってくる。今日のお昼はパスタだ。私はカルボナーラを選ばせてもらいお金を払おうとしたのだが、固辞されてしまった。
冒険者ギルドの仕事を休んでこちらに来ているので、との事。
お昼ご飯を食べてから、ソファに座って雑誌を読むことにした。最近の流行の服をチェックし、占いなどを見る。そんな風に過ごす内に目が疲れてきて、船を漕ぎだした。
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よだれが出そうになって目が覚めると、何かに寄りかかっていた。ベルジュが鼻息を荒くしながら大きな声で何かを言っているようで、少々うるさい。
私は袖口で口元をぬぐい、何気なく横を見ると、イクリスさんに寄りかかっていた。
「ぴっ」
あまりにも驚くと、人間は変な音が出るものなんだなぁ。
「す、みま……せっんっ」
後ろにビュンッとエビのように飛びのくと、反対側の手すりにぶつかりそうになってしまうが、慌ててイクリスさんが抱き留めてくれた。
「大丈夫?」
「!!!」
どちらにしろ、心臓に悪い。
『この不埒者め!ワシの契約者から離れろ!この小童が!』
「いや、俺は何もしてないし……」
喧々諤々な様相だったが、これは無い。とりあえず離して欲しい。私があわあわしてると、サーリャさんとガイアスさんが丁度良いタイミングで見回りから帰って来た。
この状況を見て、サーリャさんが荷物を放っぽりだしてイクリスさんの襟元に掴みかかった。
「いや、だから何もしてないって」
「セルフィちゃんに手を出すなんて!ファイヤーボールで髪の毛だけ燃やすわよ!」
過激すぎる。
「いやいや。それより、ちゃんとご飯食べて夜に備えようよ」
セイカさんが呆れたように言って、荷物を拾っている。そう、夕ご飯だ夕ご飯!あせあせしながらも、セイカさんを手伝う。顔が熱くなって、イクリスさんの顔が見れなくなってしまった。
うわうわ、照れる。
私は男性に免疫が無いのだ。
「わ、わぁ、今夜はカレーなんですね。私は辛口でお願いします!」
その後、辛口のせいにして顔を赤くするのを誤魔化したのだった。それを見た皆に水を勧められて飲みまくったのでお腹がタプタプになったのは別の話。
中の人は普通に辛口派。




