24 追跡劇
「ギルド長、王城から戻りましたよー」
「あら、お帰りなさい。丁度”氷雪”も来てるわよ」
「”氷雪”……ですか?」
王城から帰った途端にギルドの入り口でギルド長に、そう迎えられてしまった。私達は、今さっき陣が分かっただけなのに。何かあちらで手がかりでもあったんだろうか。
「とりあえず、応接室でお話合いしましょ」
そう言って、ギルド長はさっさと二階へ上がってしまった。
「お待たせしましたー……」
ドアを開けると、”氷雪の鷹”が勢揃いでソファに座っていた。ちらっと見ると、テーブルに汚い布が置いてあった。嫌な予感だ。これは極めて嫌な予感だ。
念の為に聞いてみる。
「これは、なんですか」
イクリスさんは慎重に口を開く。
「この間現場にもう一度行ったんだけど、この布が落ちていたんだ。この間の影みたいな黒かったから、セルフィさんなら解析できるんじゃないかと思って」
うーん触りたくない!汚染されてる匂いがプンプンする。
でも、ベルジュが私に呪いは効かないって言ったしな。泣きながら、一応スキルを使ってみる。
”解析”
目が熱を持って布の相手を”視”る。
場所は商人街裏通り……三番…………そこから四番街へ……そこから庶民街に入って行く、紺の影が見えた。体格からおそらく男。次の角を曲がろうとした時に、この布をひっかけたらしい。
そのまま男の後を目で追い続けると、男がこちらを”見た”。
「!!」
バチン!
目が眩んで痛みが走る。持続時間が終わる前なのに強制的に接続が切られた。
「何、今の……」
認識されたのだ。私が解析で見れるのは過去の事象。こちらに干渉出来るわけは無いのだ。
ーーーーーー本来なら。
「阻害されました。方角程度は分かりましたが、そちらも本当の行方なり、隠れ家かどうか……」
目を押さえてしゃがみこんでいる私に、周りは気づかわし気だった。
セイカさんが慌てて走って来て回復をしてくれる。熱くなっていた眩んでいた目が、スッと冷えて視力が戻る。
『フム、簡単な未来視を使ったか、ちゃちなアーティファクトを持っているのだろうな。しかし、そんなに高等な物では無いだろう。何度も使えるような物が発掘されたのなら、もっと大きな事をしているだろう』
ベルジュはテーブルの上から私の様子を見下ろしながら言う。それなら今すぐに動かねばならない。
「今から現場に向かいましょう!そこからなら、まだ辿れるかも知れません。早く行かないと根城の位置を変えられちゃうかも分からないです」
慌てて立ち上がる私を、ギルド長とイクリスさんが止めてくる。
「ちょっとぉ、セルフィちゃん動かない方がいいんじゃナイ?」
「そうですよ、俺達に任せてください」
「少しの時間も惜しいです。今すぐじゃないとダメです」
一歩も引かない私に、イクリスさんはため息交じりに言う。説得するだけ無駄だと思ったのだろう。
「分かった。でも気を付けて。俺らが居るとは言っても、まだ相手の手の内が分からない。止めた時は引き下がってくれ」
私が頷くと、”氷雪”の4人も立ち上がり、一緒にドアをくぐる事になった。
・・・・・・・・・・・・・・
薄暗くなってきた道を、ベルジュを肩に乗せて現場へと走る。と言いたい所だが、情けない事に私は体力が無いので途中途中回復魔法をかけてもらいながら、ようやく現場に着いた。恥ずかしい。冒険者と同じ体力な訳は無いんだけど。一般人の中では標準だと思うよ……。
ようやく現場に着いた所で、確かに周りを見回しても一見何も無いように見える。
先程解析で見た布の引っ掛かった場所を素早く見つけると、よく見てみる。ここが例の所だ。
”解析”
いつも通り目に熱が集まり、かつてここに居たであろう黒い人影が見えるようになる。未来視は短時間しか使えないというのは本当だったんだろう。今回はスキルは弾かれなかった。
「行き先を追います。後を付いてきて下さい」
スキルを発動しながら出来る限り早く進むべく立ち上がると、イクリスさんが隣に並んでくる。おそらく何か有った時にすぐに対処する為だろう。
無理をしながらスキルを使っていくと、どんどん目に負荷がかかってゆく。
熱くなる目を叱咤しながら、進んでいくと、貧民街にほど近い、行き止まりのあばら屋に着いた。
「ここですね」
もう既に片目は眩んで殆ど見えていない。
イクリスさんが後ろの3人に向かって頷くのを確認して、私は邪魔にならないように後ろに下がる。ここは私がでしゃばるところではない。
バタン!と音を立てて、軋みながら木のドアが開く。
果たして。予想した事では有るが、小屋はもぬけの殻であった。予想外で有ったのは、床に消えかかった魔法陣の痕跡が有ったのだ。
確かにここから呪いを発動していたらしい。
肩から顔を覗かせると、ベルジュが陣を見下ろす。
『やはりワシが見立てた通りに、蔵書の中で見た、近代の物に酷似しておるな』
魔法陣を見つけたものの、未だ犯人とおぼしき人物の目的は分からない。今回の件は、ようやくスタートラインに立ったに過ぎない。
眩んだ目を休めてから魔法陣を調べた所、何故か跡が辿れなかった。ここには確たる証拠が有るのに、後を追えないなんて初めての事だった。
しかし、魔法陣を見つける事が出来た事だけは収穫だと言えるだろう。
『この魔法陣の持ち主は然程強い訳でもなさそうだな。魔法陣自体も大した物ではないが』
「あれだけの被害を出しておいて?」
『まだ、死人すら出ておらぬだろう』
ぎょっとする私に反して、けろりと言う。しかし、言われてみれば死人は出ていない。
しかし目的は何なのか。
「何某かの遺物に集めているのでしょうね。精神障害は生気を吸い取られた後の二次的な被害なのでしょうね」
サーリャさんと一緒に魔法陣を調べていたセイカさんがこちらに歩いてくる。
「先ほどベルジュさんが言ったように古代の物からから変化してきている物なのでしたら、また被害が出ると思います。容量は分かりませんが、遺物がいっぱいになるまで続けるでしょうからね」
結局は、もう一度居場所を探し直さなければいけない。しかし気付いたのだが、私は日勤の普通の社会人だ。今回のように冒険者と組んで行動して、朝に昼に夜にと働いていたら死んでしまう。労基も真っ青だ。
いや、どうせ国命で受ける事になるのだろう。口から魂が抜けていきそうだ。その魂をもう一度飲み込んで、頭の中で算段を立てる。
夕方から閉館までギルドで働き、夜は”氷雪”と合流して手がかり探しになるか。
明日から、また忙しくなりそうである。




