23 閑話 第46回 氷雪会議
裏話的な何か。
時は遡って、セルフィが王室図書館に行く少し前の話。
ある酒場の、奥の部屋。ここは何か有った時に”氷雪”が、他に聞かせたくない相談事をする為に押さえる防音の部屋だ。
天井から暗い照明が下がっているが、それよりも明るい魔法の光がこうこうと部屋を照らしていた。四人の前には酒から果実水まで三々五々置いてある。中身は大して減っていない。
正方形のテーブルを”氷雪”の四人が囲んでいた。
リーダーのイクリスが、おもむろに口を開く。
「今回の件に関してだが」
先日の影を振りまく悪霊は、その場は撃退したが大元の手がかりは掴めなかった。一回影を撃退したからと言って、原因は分かっていない。この現象を起こした者が居る筈だ。これでは、イタチごっこになる。早急に手を打たねば、被害は無くならない。
「もう一度、被害が出た場所に行ってみようと思う。見落としが有るかもしれない。何か気付いた事は有るか?」
他のメンバーに促してみる。そこで戦士職のガイアスが軽く手を上げる。
「貴族街にはまだ被害は出ていない。今までの傾向から察するに、商人街・庶民街中心に現れるみたいだ」
「庶民街か貧民街に根城が有るのかしら」
頬杖をつきながら、気だるそうに女魔術師のサーリャが言う。続いてプリーストのセイカは姿勢正しく椅子に座った姿勢のまま口を開いた。
「王城に近い方にも出ていないみたいだね。神殿近辺にも今の所は全く目撃例は無い」
音を立てて席を立つと、マントを翻して言う。
「そういう人間は灯りが多い富裕層のエリアだと目立ちそうだし、居るとしたら、やはり貧民街か庶民街なのかな。付近にまだ手がかりが無いか、今から見て回ろう」
「了解」
4人は席を立つと、武器を持って部屋から出て行ていった。
場所を変えて、先日事件が有った現場まで来た。事件当日は悪霊が動いた跡は影のように暗く、呪いが広がった辺りは墨をぶちまけたように付近一帯が黒かったが、今はその名残も無い。
セイカが聖魔法を駆使しなければ、撃退出来なかっただろう。セルフィが来たのには驚いたが、ベルジュが居たために呪いに浸食されなかったので安心したものだ。……ベルジュには憤慨されたが。
辺り一帯を清浄化してしまったので黒さの一欠けらも無かったが、根気強く探す。範囲が広かったので、探すのも一苦労だ。しかも、一向に手がかりは見つからない。
「空振りかな……」
小一時間経っても特に手がかりも無く、イクリスはため息を吐く。だが、それに反してセイカがボソっと呟く。
「有ったかも……」
「「「え?」」」
セイカ以外の声が奇麗にハモる。
「ここ。この建物の角の金具に、黒い布切れが引っ掛かってる。見た感じ、それらしいものは、これしか無いね。セルフィさんに視てもらえば分かるかも」
「それ以外無いのなら、今日はひとまずあがるしかないわね」
大きく伸びをしながらサーリャが欠伸交じりで言う。確かに現状はそれ以外は無さそうだ。総意として、明日冒険者ギルドに報告に行く事にする。
既に日は傾き、人々も夕食に向けて動き出して街はさざめいている。
「お腹空いたー。またセルフィちゃんのハンバーグ食べたいわねぇ」
そのセリアンの独り言に、他の動きがピタリと止まった。聞き捨てならない言葉が聞こえたからだ。セイカ、ガイアス、イクリスと怒涛の勢いで問い詰める。
「手作りとは、どういう事だ?」
「個人的に作ってもらったんですか?」
「何でお前だけセルフィさんの手作り食べたんだ?っていうか家行ったのか?」
それを見てセリアンは薄笑いをする。
「この間街で会って、服を沢山買ってあげたのよー。色んな服が似合うから困っちゃった!片っ端から全部買っちゃったけど!その後家に行って、御馳走してもらっちゃった!流石にダンジョンと違って、ちゃんとしたメニューは違ったわー。本当にセルフィちゃんてば料理上手!何で普通に作っても、ただの家庭料理と味が違うのかしら。お嫁に欲しい!!」
他のメンバーが羨ましがるのを見越した上で、はしゃいでみせる。
「…………………………」
”氷雪”と言えば、この街のトップに入るパーティーである。よって懐が寂しいという事も無く、どちらかと言うとかなり余裕が有る方だった。それなりに馴染みの美味しい店も有る。有るが。
セルフィの料理はダンジョン内でさえ格別だったのだ。きちんと市場で材料を買って作った料理は、どんなに美味しいだろうか。考えるだに腹が鳴る。
「ずるい!!」
男三人が異口同音でセリフを言った。
セルフィは飲食店が開ける腕と言う訳では無いのですが、家庭料理だとウマッ!という感じです。
味付けが絶妙。
おふくろの味……。




