21 幕間 セイカの事情
セイカの神殿との距離の置き方の話です
私は、明日ギルドに報告するという”氷雪の鷹”と別れて、ようやく自分の家に帰った。
ベルジュによると、あの呪いは新しい物で、きちんと(?)術者がいるらしい。呪いを発動させるためのアイテムが現場には落ちていなかったのが、その証拠だとか。
鍵を閉めると、ドアに寄りかかったままズルズルと座り込んでしまう。いくらベルジュが居るとしても、目の前まで攻撃の手が来るのを平気で見ているのを何とも思わない程、私の神経は太くはない。
ベルジュはと言うと、もうだらしなくテーブルで雑誌を読んでいる。流石は呪いの遺物、先ほどの事も何てことない事らしい。
「暢気だなぁ。悪霊を倒せなかったのに」
そうすると立ち上がって言う。
『今時の呪いの事は知らぬ。基本は古代の物と同じでも、時代を経る毎にニンゲンも変化してゆくだろう。出現した魔法陣や首謀者を見れば種類は分かるがな。今回はそれが無かった』
珍しく建設的な意見を言うではないか。明日は槍が降るかな?しかし、足をブラブラさせながら雑誌を読んでいる姿はどう見ても緊張感が無く、不安になる。
『時代を経たからと言って、ニンゲンが進化する訳でも無いがな』
やはり、通常営業だった。
「ベルジュが使えないヤツだったら、今後は私の身も危ないわね……」
『なんだと!下劣な人間と一緒にするなど屈辱だ。次回、わしがどれだけ有能か思い知らせてやるわ!』
そう息巻いてテーブルの上に置いていたキャップ付きのペンをブンブン振り回しだしたので、メモ帳でガードする。今さっき現代の事は分からんって言ったじゃないか。そんな安請け合いしてダイジョブそ?
私はそれを聞き流してお風呂に入ると、ベルジュを放ったまま布団を被った。人間の怒りは多くとも2時間で収まると言うけど、ベルジュの怒りもその程度で収まって欲しい。まあ、単純だからもっと早く収まっているでしょう。
夜が明けたら朝となる。その流れだけは恒久的な物だ。
今日も今日とて仕事である。
私は身支度を整えて冒険者ギルドに向かうと、今日は久しぶりに鑑定の方をやらせてもらった。いや、私の本業は鑑定だよ!?やらせてもらったって何だ。ここ暫くの方がおかしかったんだって!
そう思って拳を握っていると、ギルド長が歩いてきて言った。
「今日はロウ爺が休みだから鑑定に入ってもらってるけど、また明日から窓口に入ってちょうだい」
「本当に募集かけてるんですよね?かけてるって言ってください!ロウ爺も可哀そうですよ!?」
「それが、ロウ爺の奥さんが”もっと働いてきていいわよ”って言ってたらしいわ。”まだまだ若いのに家に居ても困る”って。奥さん旅行が趣味らしいのよぉ」
可哀そうに、そんな事ってある!?
「それに、セルフィちゃん人気有るのよね~。小さいクエストも受ける冒険者が増えたから、そういう依頼が片付くようになってきたし、このまま窓口に居て欲しいわぁ、お願い!!あ、でもお城からの依頼は断れないから、そっちも頼むわね」
とんだ、ブラックギルドである。
その後は魂が抜けたまま、ひたすら鑑定&解析業務をこなしていく。
メタルリザードの皮 銀貨3枚
フレイムモスの粉 金貨1と銅貨3
ポイズンスパイダーの針、銀貨4枚……。
素材の状態と値段を淡々とメモっていく。そう、私は今は社会の歯車だ。何も考えずに手と目を動かすんだ。
……なーんてやってられないわ!
私はお昼休みになるや否や、ギルドを飛び出すと定食屋に駆け込む。窓口とは違って、鑑定はきっちりかっちり休みを取れる。窓口は休み時間にギリで駆け込む冒険者とかいるからね。
私はギルドからほど近い、安くて、美味くて、速い、パスタ屋さんに飛び込む。
「おじさん、冷やしトマトパスタ、サラダ付きで!」
「はいよー」
打てば響く対応で、流れるようにパスタが出てくるホッとする。涼しーい!生き返るー。味わいつつもササッと食べると、お勘定を済ませて颯爽と店から出る。
午後の始業開始時間まで少し有るので、腹ごなしを兼ねて噴水の公園をぐるっと回って帰る事にした。乾燥した風が髪の毛を攫っていくのが気持ちが良い。
しばらく歩いていると、噴水前のベンチに見知った顔を見つける。
「セイカさん?」
セイカさんがベンチに座って、サンドイッチを食べていた。
「あ、セルフィさん」
セイカさんもこちらに気付いて、自分が座っている横をポンポンと叩く。座れって事かな。
「セイカさん、今日は一人なんですね」
セイカさんは、サンドイッチを一口ずつ丁寧にもぐもぐしている。リスっぽくて可愛い。
「僕も一応神殿に所属しているので、たまーに活動を報告しなければいけないんです。……たまにしか行きませんけど。」
「あんまり気が進まないんですね」
「彼らは僕に神殿に戻れって言うんですよ。僕は”氷雪”をやめるつもりは無いんで、煩わしいんですよね」
普段の彼からは考えられない程、げんなりした雰囲気を醸し出している。セイカさんが……あのセイカさんがサーリャさん以外をウザがってる。逆に新鮮だ。
「大変ですねぇ……」
そんな風に同情をしていると、肩からぴょいっとベルジュがベンチに降り立つ。
『ハハッ、本当にニンゲンは権力欲に憑りつかれる浅はかな奴らだな。ワシの時代もそんな者共ばかりだったぞ。いつの時代にも奴らは変わらぬな。神職に就いている分際で、その欲深さで今に身を亡ぼすだろう』
大抵どこにでも裏の顔は有る訳で、特に驚くべき事でもない。私は都合の良い時しか神に祈らないタチでは有るのだが、上位の神の奇跡を行使できる彼を担ぎ上げるのに、神殿には都合がいいんだろう。
それでも、個人が反発している分にはどうしようもない。しかも、セイカさんは実力者なので無理に従わせる力と云う方法が無いんだろう。
「何と言うか、ご苦労様です?」
私が他愛もない考えをしてる内に、セイカさんはサンドイッチを食べ終わっていた。そして、決まり悪げに言う。
「すみません、くだらない事を言いましたよね。せめて、これどうぞ」
「?」
セイカさんは手招きをすると手の平を上にして出すように促す。ころんとした物が手に乗った感触がした。
「飴……」
「つまらないものですけど、お詫びです」
「有難うございます」
「それでは僕はこれで。また、何かの依頼でご一緒できれば嬉しいです」
セイカさんは軽く会釈をすると去って行く。
………………いや、私はもう外勤はごめんなんですけど。
セルフィが食べてた物を丼ものからパスタに変えときました。イメージって大事……。




