17 時には改心する人も居るらしい
連休も明日で終わりますね。その後は二日行ったら土日なんで、頑張りまっしょい。
三週間ほど経って、ようやく”氷雪の鷹”と”悠久の風”が帰ってくる。
ギルド長が笑顔で迎えるが、疲労しながらも笑顔が有る”氷雪”に比べて、”悠久”はお通夜状態だった。どうしたどうした。
「セルフィちゃーん、サンド・ホエールをボコボコにしてきたわよ。褒めて褒めて!」
いつもと言えばいつものように、サーリャさんが後ろから抱き着いてくる。どことなくローブが砂っぽい。休まずに直で来てくれたんだろう。それにしても、この愛情表現にも何だか慣れて来たな。
あちらとの温度差に驚いて、イクリスさんに小声で耳打ちしてみる。
「どうしたんですか、”悠久”の方々。まるで、この世の終わりみたいな顔してますよ」
イクリスさんは、それを聞いて困ったように頬をかく。
「あー……」
「?」
「何か、あっちの連携が上手くいかなくて。今までは、アライアンスであそこまでの大型を相手にした事は無かったみたいで。勝手が分からなくて落ち込んでるらしい」
「こっちが主体になって戦ってたわ。先に弱点も分ってるんだから、もっと早く殺れると思ったんだけど」
サーリャさんが、はふーっと息を吐く。耳元で息を吐くのは止めていただきたいものだ。
要するに今までのやりかたが通らずに落ち込んでる、とな。さもありなん。そう考えいてると、肩の上でベルジュが口元に手をやり邪悪に笑う。
『クックッ。どうせ、自分らの力を過信しておったのだろう。無知蒙昧とは、この事よ』
よくもこう、毎回何パターンも憎まれ口を叩けるものだ。だが、出発する前の傲慢な感じと今の落差を考えると、ず中らずと雖も遠からずなんだろう。Sランクともなれば、他の追随を許さない程強いと思ったのだが、この国のSの基準とは少し違ったのかな。”氷雪”ですらSランクに近い(と言われる)Aランクだからね。うーんと唸っているとギルド長に呼ばれる。
「セルフィちゃん、報酬の引き渡しするから応接室に行くわよん」
「あ、はい」
サーリャさんはセイカさんに引きはがされて、ガイアスさんに窘められている。私はイクリスさんに軽く会釈をして、先に応接室に向かった。
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「何はともあれ、砂漠周りは正常化しそうよね。しかし”悠久”はどうしたのかしら。まるで抜け殻ね」
ギルド長は不思議がりながらを腕を組みながら2階の応接室に向けて、トントンとリズミカルに階段を昇ってゆく
片方の言い分を聞いただけだが、あの意気消沈具合を見ると何とも言えないものだ。
双方がテーブルを挟んでお互いにソファに座るのを確認し、ギルド長が合図を送ってくるのを見て、トレイに5:5に分けた金貨袋を両パーティーの前に置く。
中を確認する”氷雪”に比べて、袋に触りもしない”悠久”。やがてエンリケ氏が重々しく口を開く。
「今回の報酬は4:6で構わない。今回、俺たちは活躍どころか迷惑をかけた。本当は3:7と言いたいところだが、俺たちにも衣食住の面で最低限な収入が必要だ。だがそれ以上は貰えない」
これには悠久メンバー以外の全員が驚いた。傲岸不遜な態度が、すっかり鳴りを潜めている。てっきり何だかんだ言っても、5:5を要求すると思った。余程、プライドが傷ついたんだろう。指を組んで下を向いてしまっている。あらら。
「そう。そこまで言うなら仕方ないわね。セルフィちゃん、もう一回勘定し直してくれる?」
「はい、分かりました」
ギルド長に言われて、双方の袋を開けて金貨の山を数え直す。今回は報酬も多いので、配り直すのも一苦労だ。分配の比率変更を申し出るなんて、意外と悪いパーティーでも無いのかな。
金貨の分配をし直すと、ようやく双方が金貨袋を受け取った。報酬を受け取ると、”悠久”は俯きながら応接室から出ていく。
「あっ!報告書を書いてもらうの忘れてたわ!」
ギルド長が慌てるが、時既に遅し。もう”悠久”は建物から出ているだろう。一応拠点は分かっているけど、そこまで行って聞き取りするのも何だかなぁ。
「うちが書きますよ。紙とペン貸して下さい」
熟練パーティーだけあって、報告書の制作もお手の物らしい。イクリスさんは、あっという間にサラサラと欄を埋めていき、さして時間もかからずに仕上げた。字も奇麗とか天は二物も三物も与えている。不公平な物だ。
いやいや、私は誠実・平凡・確実でいい。高望みをすると足元をすくわれるものだ。
イクリスさんが報告書を書き終わるのを見届けると、サーリャさんがぐっと伸びをして体をほぐす。
「はぁ~、流石に砂漠は疲れるわね。お肌も荒れちゃうし。早くお風呂に入りたいわ」
なるほど、激しい日差しは美容の天敵である。とは言え、そう言う割にはサーリャさんの肌ってばシミ一つ無いな?秘訣を教えて欲しい。
「僕も久しぶりに清潔なベッドで寝たいですね。ガイアスさんは家に報告しに行くんですか?」
「ああ、帰ってきたら報告するのが冒険者をやる条件だからな。着替えたら行ってくる」
セイカさんとガイアスさんは、そう会話している。貴族に籍が有ると、やはり簡単な事ではないだろう。それでも許してもらえるのはすごい事だ。余程信頼されているんだろうな。
「それじゃあ、今回は協力に感謝しているわ。ご苦労様」
「俺達は暫くは休むことにしますよ。それでは」
ギルド長にイクリスさんが返事をして終わりかと思いきや、彼が振り返って言う。
「あのお茶、美味しかった。暑さで喉が痛かったけどスッとして調子が良くなった。感謝するよ」
何となく渡しただけなのだが、それなりに好評だったようだ。それを聞いて、何故か肩でベルジュが『チツ』と舌打ち(というか音?)した。
意味的には無知蒙昧よりも愚昧暗愚の方が近かったんですが、あまり使わないなぁと書き直しました。普段の生活でも無知蒙昧とか使われてるの聞いたら、ぎょっとしますけどね笑




