14 オプションは付きません
今日は、サンド・ホエールの討伐に向けて、双方のパーティーを呼んでのギルド内の会議室でのミーティングだ。双方のパーティーは対称的で、”氷雪”は顔なじみのせいか親しみやすいのだが、”悠久”の方は気が乗らないのか気だるげな様子だった。
仲間の方も三々五々な方向を見ているし、リーダー任せといった雰囲気だった。この意欲でよくSランクになったもんである。態度わっる。
テーブルを挟んで”氷雪の鷹”と”悠久の風”が揃ってソファに座っている状態で、私はお誕生日席のギルド長の後ろに立っている。
今回は敵も分っているし、弱点も調べて来た。セイカさんもいるので、精神異常も回復できるだろう。これで倒せる可能性も上がった。
お茶が運ばれて来るのを待って、いきなり口を開いたのは”悠久”のエンリケ氏だった。
「こんなにすぐに弱点が分かったのに、何で前回失敗したんだ?」
ちょっと!
こっちは有りもしないコネを使ったんですけど!
ギルド長は、座っているソファで足を組み替えて首を傾げるながら、私の平でひらりと指す。
「随分な物言いね。それはこの子がスキルとコネを総動員したからよ。そうでなければ、この国でも例のない魔物の対応なんて出来ないわ。もちろん情報を持ち帰った先発隊のおかげでもあるけど」
エンリケ氏の発言にムッとしていると、ギルド長がそう取り成す。かと言って室内の空気が和らいだ訳でも無いのだけど。
私が箪笥の角に小指をぶつける呪いをかけていると、私の肩に乗っていたベルジュがひょいっとテーブルに降り立って”ドンッ!”とエンリケ氏を吹っ飛ばした。すごい勢いにソファ事ひっくり返る。ああ、とうとうやってしまったか……でもよくやった。
『愚かだな。ワシの契約者をバカにするのもいい加減にしろ。コヤツをバカにするという事はワシを侮辱したという事だ』
ベルジュは相当怒っているのか、耳がプロペラのようにブンブンしている。しかし、どちらかと言うと私がバカにされた事自体よりも、自分が下に見られた事の方を怒っているような……。自分を高貴たる誇り高い願望器だと思っているフシが有る彼(?)には期待はしていないけれど、私の事も慮ってほしい。
これ以上やばい事をしない内にとベルジェを捕まえて、もちりとしている体を捕まえてもにもにする。手から出ようと藻掻くが、逃す訳は無い。
「こちらの兎は、セルフィさんと契約しているアーティファクトだ。彼女を侮辱しない方がいい。そして、骨を折ってくれた彼女に感謝すべきだ。そのおかげで戦えるのだから」
イクリスさんが反論してくれた事に、私がジーンと感じ入っていると、丁度エンリケ氏は苦労しながらソファを元に戻している所だった。因みにベルジュは例の如く『兎ではないわ!』とお決まりのセリフを言って癇癪を起こしている。でも、兎の形している事実は覆らないからなあ。
「アーティファクトがそんな一般人と契約しているだって?そんなバカな話があるか」
エンリケ氏はベルジェを睨むと、そう言ってフンと鼻を鳴らす。対してベルジュは腕を組んで下から睥睨するではないか。
『バカも何も、現にこうして契約しておる。因みに、貴様にはワシと契約する資格など無いがな
「こんな女に資格も何も無いだろ……」
失礼が過ぎる。
『ワシと契約出来るのは、ニンゲンの中に流れる血の種類だからな。悪人でも善人でも関係無い。合うか合わないか、それだけだ。最も、願いを叶えようとして簡単に触れようとしてくる者は愚か者が多く、相対的に呪われたものが殆どだがな』
知らなかった。血液型的な何かなんだろうか。
何となく空気が悪くなった所で、ギルド長が仕切り直すように”パンッ”と手を打つ。
「はいはい。せっかくアライアンスパーティーで行く事になったのだから、険悪になるのはゴメンよ。仲良くとまでは言わないけど、協力はしてちょうだいネ」
若干ギスっているが、一緒に討伐に行かない訳にはいかないので、再びギルドから狂わずのコンパスと固形の食料をたっぷり渡す。今回はサーリャさんが居るのでギルドからの魔術師の貸し出し人員は居ない。純粋な合同パーティーだ。”悠久”の腕は分からないが”氷雪”の実力は自分で見て知っているので信頼している。
問題は”悠久”との連携だ。ランクだけは上なので、”悠久”がマウントでも取らないといいけど。
実は、ランクというのは各冒険者ギルド支部に一任されているので、明確な決まりが無い。駆け出し初心者は流石にEに決まっているが、何をどれだけの数倒したという基準も無い。なので、ある国でAランクでも、他国ではBだったりSだったりする可能性もある。
しかし、エンリケ氏の態度も悪いのだが、他のメンバーも事なかれ主義なのか、いつもこの調子なのか、大して気にもかけていないようだった。まさか海の向こうで居づらくなったからこちらに流れて来たというオチでは無いと思いたい。
ベルジュが助けてくれるなら助かるのだが、契約者の私から離れる訳は無いし、かと言って戦闘が目的な依頼では私は足手まといになってしまう。
準備期間を経る事1週間。釈然としないながらもギルド貸し出しの馬車を見送り、無事を祈るしかなかった。
『ワシの契約者を侮辱するな』と『このニンゲンと契約してやってるワシをばかにするな』は大違い




