130 寸での所
明日は最終回です!20時くらいを予定しています。
最終回までお付き合い下さいね!
火竜の弱点が、私の視界の中で点滅している。
その場所は……。
「火炎袋…………」
火炎袋とは、火竜がブレスを吐く時に炎が生成される場所で、ここを損傷させると、確かに炎を吐く事が出来ない。
体外に吐く事が出来なくなると、溜めようとした炎は体内で滞る。
「てっきり眉間か首だと思ったんだけど」
私は大きな声で前衛に知らせ、今回の管轄である”放浪”の後ろに行く。”放浪”のリーダーであるアルファさんの後方にクレリックと一緒に控え、シールドを張る為だ。
翼を攻撃されて、飛べなくなっても体を起こしながら、火竜は、グォン! と鳴いて前足でこちらを薙ぎ払おうとした。寸での所でクレリックのバリアとベルジュのシールドで防ぐ。
ただ、力が力なので、シールドごと吹っ飛びそうになる。足で踏ん張るが、後ろにじりじりと押され、ブーツで地面に溝が出来た。
「”支配の王笏”!」
まだ王笏は赤黒く、力を失っていないようなので、そのまま発動させる。
先端からビュンッ!! と夥しい数の荊が新しく生まれ、火竜の前足を絡めとった。それが不快だったのか、火竜が足を振り回す。
「わっ……!?」
瞬間、足が地面から離れ、今度は私が火竜に吊り下げられる事になってしまった。火竜はかなりお怒りの様子で、口を大きく開けて、私を飲み込もうとする。
その動きが、私にはコマ送りのように映った。
『おい、指輪を使え!! 竜の腹の中なぞ御免だぞ!!』
肩のベルジュが、がなる。
確かに、まだ口の中へは入っていない。私は正気を取り戻して、自分の力の最大級をイメージして指輪に念を送って手のひらを組んだ。
「えいっ!」
途端に、嵐の中に居るような雷が起きる。
「ひゃっ!?」
それが自分の起こした雷だと気付くのに、たっぷり5秒要した。
「おい、降りてこい!受け止める!!」
”放浪”のアルファさんが、剣を振って合図をする。私は思い切って”支配の王笏”を解除すると、その場から落下した。
そこを何とかキャッチされ、地面に降ろされた。
そのまま地に足が着いた途端にベルジュがシールドを飛ばす。
ギャン!!
首に命中して、火竜は短く鳴いた。
あああ、そろそろ火炎袋をやらないと、第二波が来てしまう。頼むからそれまでに攻撃してくれ。火炎袋は喉の元辺り、地面に落ちている今がチャンスである。
アイススピネル!!
サーリャさんの氷の棘が、幾百、幾千もの数が浮かび、火竜相手に満遍なく突き刺さる。背中辺りの皮膚の強い場所は”ジュッ”と蒸発したが、腹側などの白い部分にはかなりダメージを与えたようだ。
クラリとした体に、ベルジュが更に重ねてシールドを飛ばす。
「ベルジュ、私にもう一回シールド張って」
『いい加減にしないと、そろそろお前の体も持たんぞ』
「まだ大丈夫」
私は体の中で暴れる何かの奔流を押さえつけながら、竜の前面に走る。
「アルファさん、”支配の王笏”をもう一度使うので、火炎袋を狙って下さい」
「分かった」
ダッシュすると、流石に前衛な彼の方が断然早い。けれど、私は先頭を走る必要はないので、追従するだけでいい。
「イクリスさんは、アルファさんと首の根元をお願いします!」
命令なんて烏滸がましいけど、この場で一番俯瞰して戦闘を見る事が出来るのは私だ。”支配の王笏”を見ると、赤さが若干抜け落ちて来ていて、殆ど黒に戻りかけている。私は再度腕を傷つけた。
ぽたぽた……ぽたぽたぽた
あまりに乱用すると、貧血で死ぬ場合も有るが、どうせ竜退治に失敗したら死ぬのだ。それなら目の前の脅威を何とかするべきだろう。
「”支配の王笏”!」
血を沢山吸って、鮮やかな柘榴のような色になり、心得たとばかりに王笏の先から凶悪な荊が火竜の首に巻き付いた。足止め程度にしかならないが、今はそれで十分だ。
「やあっ!」
二人が示し合わしたように剣を中段に構え、体をぶつけるように刃を刺し、さっと離れる。傷口から鮮血が迸った。
ゴアッ……!?
再び炎を吐こうと思ったのだろう、しかし、もう火炎袋は傷ついている筈である。体内で炎が暴れているのだ。
ギャァァァッ
口から炭のような煙を出し、のたうち回っている。
それを確認して騎士隊長が命令を送る。
「第二弾、撃てっ!」
火炎袋が傷ついている上に、傷口目掛けて攻撃され、いくら火竜だとしても、爆発が効かないわけが無い。
グォォグァァァァッッッ!!
火竜が暴れまわり、大きく砂埃が起こる。最後の悪あがきと言ったところか。
その時、火竜の尾が大きくしなり、こちらに向かって飛んできた。
!!
「危ない! セルフィさん!!」
寸での所で助けてくれたのは、イクリスさんだった。不本意ながら俵担ぎだったが、命を救ってくれたので文句は言うまい。イクリスさんはセイカさんの前に私を降ろすと、サーリャさんと前線に戻っていく。今回ばかりは、ベルジュとシールド毎吹き飛ばされていたところだろう。
セイカさんは傷口を確認すると、深々とため息を吐く。
「セルフィさんて、他のパーティーに居ると、流石に負担大きい気がするんですよね……」
そんなセイカさんの向こうでは、火竜が倒れる音が大きく聞こえた。




