127 逃亡禁止
明日もお昼ごろ更新です。
「セルフィちゃん、隣国への街道沿いの山に、火竜の幼体が出たの」
出勤して更衣室を出るなりギルド長室に連行されたかと思うと、ギルド長は、いきなり爆弾を落としてきた。
「は、えっ、うぇ?山に居るのなら、放っておいても良いのでは……?」
「それが、来る商隊、通る冒険者、無差別よォ。行動範囲が広がって来てるから、先に何とかしたいのよねェ」
今日は紅茶の他に、アフタヌーンパーティーのような菓子の充実さだが、朝ごはんを食べたばかりなので、食指が全く動かない。カロリー過多だ。
それよりも、火竜は飛ぶ竜だ。
捕まえられる訳がない。
「そこは、セルフィちゃんとベルジュちゃんよね。竜に普通の弓矢なんて効かないものォ」
そんな重大な任務を任せると申すか。
「”支配の王笏”とベルジュちゃんの呪いの力ね。出来れば”解析”もだけど魔法使いも氷や雷の魔法で翼を狙うけど……一番最初に少しでも行動を鈍らせないとね」
「どういう構成で行くんです?今回は国の騎士は出るんですか?」
「一応居るわよー。カタパルトは準備していくけど、それも有る程度動きが鈍くならないと当たらないでしょ?そこで二人の出番なの」
「冒険者は、どこが出るんです?」
「”氷雪の鷹”と”放浪の旅路”ね」
”放浪”かぁ。あそこは勧誘の圧がすごいから苦手なんだよね。
『あの、けしからん奴らか』
ベルジュが眉間に皺を寄せるような表情で、嫌そうに呟く。激しく同意だ。
「そうそう、”放浪”が、今回はセルフィちゃんが着いてきて欲しいって言ってね。いつも”氷雪”の方に居るから、たまには自分達の方へ来て欲しいって。流石に二回目ともなると、今回は断れなかったわ」
火竜と言う、私にとって未知の敵との戦闘の上に、慣れていない”放浪”との同行はきつい。
「断れない……ですよね?」
「そうね。今回やりすごしても、国の方からも何回でも指名が来るかも。国外にでも行かない限り、流石に私も断れないわね」
うっ、逃げたら、お尋ね者になってしまうではないか。ひどすぎる。
「一週間後には出発するから、準備しておいてネ。準備資金はそこに置いていくわね!」
組織の末端である私には、結局は命令に逆らえないのである。
ギルド長は足音軽く部屋から出て行ってしまったが、私は死刑宣告を受けた罪人のような足取りで、下の階の仕事場に降りる。
結局、討伐に行く事になってしまった。
『お前の組織の長は、随分と暴君なのだな』
「そだね……転職しようかな」
『お前は、他の仕事が出来るのか?』
「飲食業とか?」
『そうは言っても、この街に居る限りは、隠れるのは無理だと思うぞ』
ぐぅ。
今回はあまりに大所帯なので、その中で自分の分だけ炊事をする訳にいかない。せめて、ドライフルーツを混ぜた、シリアルバーを作って持って行くのが関の山だ。配給される固形食糧は、味を犠牲にしてカロリーが高いものなので、食べるのに一苦労するのだ。それなら、自分で作っていくに限る。
あとは快眠の為の枕と下に敷くクッションだ。せめて疲れを最低限にしたい。
流石にテントくらいはサーリャさんと一緒だと思うが、日中は”放浪”と行動しなければいけない。歩調を合わせてくれるかさえ分からない。流石に途中までは馬車を使ってくれるだろうが、竜の行動範囲に入る少し手前で徒歩に変更だろう。不安しかない。
出発一日前には休みを貰えるので、それまでは通常通り仕事だ。なので、必要になるものは前日に揃える事にする。
私がショックを受けつつ、ふらふらと窓口に座ると、隣のアリスさんがギョッとする。
「セルフィ、顔色わっる!またギルド長に無理言われたの?」
「いつもの話ですね……はは」
私が口から魂を飛ばしながら言うと、アリスさんは眉間に皺をよせる。
「最近、外部の仕事が多くない?ギルド長って、セルフィの”解析”が強いからって、重い仕事任せすぎでしょ」
それには、深く頷きたい。
しかし、大っぴらに言えない事だが、残念なことに私の装備の能力がバージョンアップしてしまったので、不本意ながら”か弱い女の子”では無くなってしまったのだ。
それも、ギルド長が仕事を押し付けてくる一因だろう。
「もっと、イージーモードで生きるつもりだったんですけどねぇ」
私は、ため息を吐くしかなかった。
準備期間内に少しづつ片付けねば、一日なんてあっという間に過ぎる。
あとは、季節は春に差し掛かってきているとは言え、まだ朝は寒いので、上着を新調せねば。
私は頭の中で予定を組みながら、げんなりした。




