126 乙女のルートは……
明日もお昼更新です。
私が更衣室でメモ用紙を見ながらため息を吐いていると、後ろからアリスさんが覗いてくる。
「帰りの時間に、裏で待ってる……ふーん、ストーカーで憲兵に突き出してやろうかしら。それとも果たし状なの?」
アリスさんが不穏な事を言うので、びっくりしてしまう。
「アリスさんは、イクリスさんのファンじゃなかったんですか?」
「女の子を泣かせる男は、全員悪者よ。ファンもクソも無いわね」
まず、私は泣いていないし、過激すぎる。
アリスさんがそんな事を言っている時に、ベルジュが合いの手を入れる。
『まあ、こいつの有用性が分からないのでは仕方無いな。何よりワシの有能さが分かっていない所もダメだ』
ベルジュはベルジュで自分基準である。どこまでもぶれないな、君。
とにかく、あちらが話が有るのなら、逃げていても仕方ない。女は度胸だ。
『女は愛嬌だと、本で読んだぞ?』
フッ、古いな今時の女の子は、強いのだ。知識は常にアップデートすべきだよ。
この間は逃げちゃったけど!
着替えてから従業員出口でドアを開けると、少し離れた所にイクリスさんが身の置き所が無いようにソワソワと待っていた。
「すみません、遅くなりまして」
「いや、いいよ。それより……ごめん、あたりが少し強いよね?」
「流石に、これまで通りと言うのは難しいかと」
「怒ってはいないんだ?」
「そうですね、過信した私がいけなかっただけですから、他の人のせいにするほど愚かでは無いですよ」
こういう言い方は卑怯だと思うが、どういう表現を使っていいのか分からない。恋愛経験値ゼロなのだから。もっと言い方あるよな、とも思うが上手く説明出来なかった。
「すみません、可愛い言い方でなくて。これからも仕事で指名されて同行するかも知れませんけど、その時は普通に接せられると思います。今はまだちょっと……」
今の私には、これで精一杯だ。昨日の今日では、私も割り切れない。
「ごめん。俺も、もう少し考えてみる。怒っていない事だけ分かれば、今はそれだけで良いよ。家まで送っても大丈夫?」
「ベルジュが居るので平気ですよ」
「……そう」
私はイクリスさんの横を通り過ぎる。あー、いやだ。今の私ってば可愛くなさすぎる!!
でも、送って貰っても、帰り道が気まずすぎるでしょ!これは可愛い可愛くないの問題ではない。
『思い悩むだけ、時間の無駄だと思うがな』
ベルジュは思想に耽ってるかのように、肩で足をぶらぶらとする。
「世の中、割り切れる問題だけじゃないんだよ」
「ぬう」
そう
「兎には分からないと思うけどね」
そうやってボケてみると、ベルジュがポフポフと地団太を踏んでいる。このネタで、あと百年はイジれるな。
聖ノエルが過ぎると、春が近付いてくる。この国の春は長いので、そう言う意味でもノエルの夜は特別なのだ。私には別の意味で特別になってしまったけど。
んーっ!
私は大きく伸びをする。気持ちの切り替えには、酒が有効だとアリスさんが言っていた。私は行きつけの”夜霧のワルツ”に足を向ける。この間はカクテル一杯で撃沈したので、半分くらいならいけるだろう。私はそんな意味の無い自信と共に店に足を運ぶ。
カランカラーン
ドアベルが軽快な音を発し、店の中の喧騒に足を踏み入れる。
「カウンター席でいいかい?」
「はい、お願いします」
おかみさんとは顔なじみなので、スムーズに席に通してくれた。
「今日は、いつもの女の子と一緒じゃないんだねぇ」
「彼女、今日は映画なんですよね」
今日アリスさんは、映画のイケメンを見に映画館に寄っている。(内容は話半分だそうだ)。彼女は不思議な事に、食事に連れて来てイケメントークをを聞かせることは有っても、映画や観劇に私を突き合わせる事は無い。まあ、入場料も高いし、拘束時間も長いからね……。
よって、今日は私も一人なのである。
私は一人なので、急激にお酒が進まないようにチビチビの少しずつ飲む。付け合わせはオリーブの実やナッツだ。
しかし、話し相手が居ない為に飲む間隔がどうしても短くなる。
よし、半分まで飲んだからここまでで止めよう、と思った時には体がかなり熱くなり、くらりとした。
半分でコレ!?ここまで弱いとは、自分でも知らなかった。
「セルフィちゃん、大丈夫?」
おかみさんも慌てた様子で聞いてくるが、若干音が遠い。吐きそうという訳では無いけど、ふわふわする。
「誰かに来てもらった方が良いわね、アリスちゃんに頼もうかしら」
「まだ歩けるから大丈夫です……アリスさん今日は居ないですし、呼ぶのは難しいかもです。少しだけ休んで良いですか」
「もちろんよ」
おかみさんは私の目の前に私の前にお冷を置き、「平気になるまで居ても良いわよ」と言ってくれた。
世の中がぼんやりして見える。ぼーっとすること一時間。ようやくお酒が抜けだした頃に、ようやく店を出る事が出来た。前回で学習して半分にしたのに、ここまでだとは。
私は星空を見ながら、火照った体で家路を辿る。
しかし、この日のふわふわから一転、次の日にはギルド長から爆弾が落とされた




