123 恋愛上級者
いつもと比べれば、ちょっと長いです。
明日はお昼頃更新です。
それ以降は、私は仕事をし、”氷雪”は近場のダンジョンに行ったりして、それぞれ過ごしていた。
冒険者とギルド嬢となると、やはり会う時間と言うのが取りにくい。
中級冒険者でも、そこまで遠出をしないパーティーも居るけれど、なにせ”氷雪”は押しも押されぬSランクパーティーだ。国からもギルドからも案件を持ち込まれる。この街にも居たり居なかったりだ。
単なる遠距離恋愛なら手紙でやり取り位は出来るけれど、冒険者ではダンジョンの奥にいると、当然だが連絡など取れない。今現在何をしているか、気を揉むしかないのだ。
最近は、その事ばかりが頭でぐるぐるしている。
付き合うって、良い事ばっかりじゃないんだね。
窓口に座り、冒険者の死角で私が心の中でため息を吐くと、目ざといアリスさんに、見つかってしまった。
「セルフィぃ、いくら憂鬱でもため息はダメだよー」
「え、私って口に出てましたか?」
「出て無いけど、恋愛上級者のアリスさんには分かっちゃうのよ」
「上級者……ちなみに、お付き合いした男性の数は……」
「0人よ!でも雑誌とかお芝居で散々見たわ。男女の仲で待つのはツラいって事をね」
恋愛上級者と言うから、私が知らないだけで、さぞかし今までリアル恋愛を経験をしてきたのかと思ったら違った。もっとも、アリスさんなら、その間の時間すら他の事をしてて楽しんでそうだけど。
「切り替えないと、冒険者との破局の9割はすれ違い生活が原因だよ!」
知りたくなかった、そんな事。
「でも、セルフィならダンジョンに付いて行けるんじゃない?」
アリスさんの言う事は、ここ最近の”氷雪”の指名依頼に、私もよく付いて行っているのは周知の事実である。けれど、寂しいから冒険者になると言うのも、不純だ。
「冒険者かあ」
私が1人ごちると、ベルジュは退屈に一票入れてくる。
『ワシも街に居ても、宝の持ち腐れだわ。戦場に居て、こそ輝けるというモノよ』
ベルジュは最近のダンジョンの同行に、しっかり味を占めている。窓口に居ても、もう窓口嬢に手を出すとどうなるかは知れ渡っているので、ベルジュは退屈になってしまったのだ。
毎朝毎朝、今日はダンジョンや討伐に行かないかと聞いてくる。
君は、誕生日を待つ子供か。
私が仕事を順当にこなしていると、ギルドの入り口が騒がしくなってくる。”氷雪”が帰って来たのだ。こちらに気付いたイクリスさんが、ひらりと手を振ってくるので、私も小さく振り返した。
「何だかんだ言って、お熱いんだよね」
アリスさんがカウンターに肘をつき、眉根をギュっと寄せている。
「はは……そうですかね」
イクリスさんはギルド長と何かしらやり取りをし、上の階に行った。おそらく、応接室だろう。
今回の依頼の報酬だと思う。高難易度の依頼は報酬も高額なので、いらない諍いを起こさない為に、応接室でやりとりをする。
30分くらいすると、”氷雪”が二階から降りてくる。イクリスさんは、こちらに真っすぐに来て、終業時間を聞いてくる。
「何時に終わる?」
「定時です」
「分かった、後で迎えに来るね」
それだけの会話なのに、アリスさんは「フゥ~~~~!!」とか言って、口に手をやり目はウルウルで、感極まった様子だ。私達は、観劇の俳優では無いのだが。
イクリスさんはそれだけ言うと他のメンバーと去っていく。それを見届けたアリスさんは、私の袖をグイグイグイグイと引っ張ってくる。何事かと思って耳を寄せると、ひそひそ声で鼻息荒く言ってくる。
「課金したら、この続きはどこで見れるのかしら!?」
「………………………………見れないです」
何を言っているのか、分からない。課金ってなんだろう。
仕事をしっかりと終わらせ、更衣室で私服に着替え、従業員出口から出ると。近くの木の下に、イクリスさんが待っていた。清潔感の有る、白のブラウスに少し厚手のロングコート。茶色いブーツとスッキリとした恰好をしていた。
「お待たせしました」
「別に待ってないけど……足寒そうだね」
私はボアのショートコートにショーパン、ショートブーツと、確かに男の人から見ると寒そうかもしれない。
「いえ、厚手のタイツ履いてるから意外に寒くないですよ。今日は何が食べたいですか?」
「最近作ってもらってるばっかりだから、”夜霧のワルツ”に行こう」
二人で会う時は、休日はどちらかの家に寄って、私がご飯を作る事が多い。非番の日以外は簡単な物しか作れないが、食後にまったりと雑談するくらいの余裕は有る。
その他は、私の行きつけや、イクリスさんの行きつけの店に寄るのがここ最近のスタイルだ。
店に入り、各自飲み物を頼み、何皿か頼んでシェアする。こういう付き合いにも慣れて来たものだ。話は自然と今日帰って来た、依頼の話になる。
「今回は街道のウェアウルフ退治でしたね」
「ウェアウルフ自体は強くないんだけど、すごく数がいて……。ボスが居たんだけど、体が半端なく大きいのに、素早くて……」
私は、ふんふんと相槌を打ちながら料理を堪能する。
最近はベルジュも心得たもので、せいぜいドリンクのマドラーを一心不乱にかき混ぜるくらいで大人しくしている。
呪われたアーティファクトも進歩するんだと、感心してしまう。
「でも、やっぱりセルフィさんが居たらって皆思ってるよ」
「え」
「あ、いや、ご飯目当てとかじゃなくて、もう居るのが当たり前になりつつあると言うか……」
「そうですか」
私は、それきり口を噤んでしまう。そう、それこそ私がグルグルしている原因だ。イクリスさんは私の意思を汲んでくれているし、強制はしていない。本当にパーティー内の会話で出ただけだろう。
それでも悩みは尽きないのだ。
食事が終わったら家まで送ってもらって、当たり前のように扉の前でハグをして別れる。
「そろそろ付き合い方を決めないとな……」
私は独り言を言った。
『お前は、優柔不断だな』
「兎には分からない問題なんだよ」
久しぶりに兎と言われたベルジュはキーキーと言っているが、放っておいて寝る準備をする。
ノエルの夜まで、あと三日。




