122 後の祭りは本当の祭りになる
明日は土曜なので、昼~夕方の更新になります。
街の人に討伐したことを伝えると、その夜は島中が大騒ぎになった。
貿易に使われていた海域が、また使えるようになったのだ。人々の生活に直にかかわっているので、それはもうお祭り騒ぎにもなるだろう。
領主さんのような人も出て来て、イクリスさんに何度も頭を下げている。
私はその輪から外れて、石で出来た低い垣根に腰を掛けている。
『お前は、あそこに混ざらなくて良いのか』
「うーん、仲間かと言われると微妙だからね。今回少しは役に立てたかと思うんだけど、怒られちゃったしなぁ」
『今回ばかりは、お前が居なければ、二度目の敗走だったと思うが?』
「事前の準備の事も有るから、そればっかりは分からないね。もしかしたら余計な事だったかも知れないし」
私は垣根の上に体育座りしている膝に顎を乗せて、遠巻きに”氷雪”を見ていた。隣のベルジュは石段に座って、足をぶらぶらさせている。そうしてしばらく見ていると、接待のつもりか、奇麗どころがイクリスさんに近づいて腕を取る。
流石に私もムッとして生垣に立つが、あの集団に突っ込んでいく勇気はない。
だが、イクリスさんは、手で断りを入れながら人々の隙間を縫ってこちらに歩いてきた。
「そんな所に立ったら危ないよ」
私の脇に手を入れて支えて地面に下す。
「私は猫じゃないので、抱えなくても自分で降ります」
「猫だったら、事故らない為に部屋から出さなくても一緒に居られるんだけどね」
私は腕を組んで体を逸らせて、視線だけイクリスさんを見る。
「たまにしか帰って来ない飼い主の事は、認識しなくなるかも知れないですよ?」
うっ。
心に刺さったのか、イクリスさんは胸を押さえると、ため息を吐く。
「ほら、行こう?接待は放っておいていいから、美味しい物の屋台くらい出てるよ」
先ほどとは違い、優しく手を引く。やっぱり、さっきはかなり怒ってたんだな。無謀に思える事をしたけど、あの時は、あれがベストだったという気持ちは譲れない。
しかし、私は嫌な気持ちを引きずってしまって、顔を上げる気になれずに足元ばかりを見ていた。いかんいかん、嫉妬なんて重すぎる。気を取り直して私も手を握り返す。イクリスさんは一瞬ビクッとしたが、そのまま前を向き直して歩き続ける。
その後は、りんご飴を食べたり、焼いたトウモロコシを食べ歩きをする。食べ終わると、街の小高い丘に登って風に当たる事にした。季節はそろそろ年末にさしかかり、じきにノエルが近付いてきていた。
「セルフィさんは、ノエルの辺りは実家に帰るの?」
「今年は帰りませんね。家族は長い旅行に行くらしいので、実家に帰っても誰も居ないですし、仕事の関係も有るので」
「そうなんだ、だったら、あの」
イクリスさんは、そこで口を噤んでしまった。私は続きを待つ。
「ノエルの夜を、一緒に過ごしてくれないかな」
口を噤んだり開けたりを繰り返すが、勢いを付けて、一息に言い切る。
「有難うございます。私の方からは何となく聞きづらかったので」
「それじゃあ?」
「私も、一緒に過ごしたいですよ」
私は、そこでようやく笑えた。
「あまりにも言ってくれなかったら、私の方から言っちゃうところでしたよ」
「それだったら格好つかなくなってたね。先に言えて良かった」
イクリスさんは笑いながら頬を指でかくので、声をたてて笑ってしまった。
空の星は目に染みる程満天で。
二人の距離が近付いたと思える夜だった。
*一方の”氷雪の鷹”*
「相変わらず仲が良いわね……このままイクリスがセリフィちゃんを、パーティーに誘ってくれないかしら」
「自分も頼みたくは有るが……どうだろうな」
「僕は入ってもらいたいですけどね。以前よりも体力ついてきてますし、何より戦力になってますもん」
”氷雪”のその他がこそこそ裏で話しているのも知らずに、二人はロマンチックに冬の星空を眺めている。
「仮に、まだ体力が付いていないと言っても、その辺の街の人よりは付いてますよ。あれからずっとジョギングを欠かしてないそうですし」
「そうよねぇ……あとはイクリスとセルフィちゃん次第だけど」
サーリャはチラリと二人を見る。
「何より、依頼をこなしている間、二人が離れ離れなのよね。あまり良くないと思うわ」
パーティー内を恋愛禁止にしてる所も有るが、”氷雪”ではそんな規則はない。そもそも、お互いがお互いを異性としては意識していないからこそ成り立ってきた部分が有る。
しかし、イクリスとセルフィに限ってはそういう心配もないかと思われる。
よって、きちんと仕事さえすれば、二人の事を咎める気は全く無いのだ。
「見ていてじれったいですよね。イクリスさんってもっと肉食系なのかと思いました」
「セイカって、たまに聖職者らしからぬ発言をするわよね」
「本心ですからね」
自分達からしてみたら、ダンジョンで揃いの装備を手にした仲だ。ダンジョンマスターでさえ認めているでは無いか。季節が巡る間、いくつのダンジョンや依頼もこなしてきた。
「ただ、イクリスがセルフィ嬢にそれを望むかが問題だな」
ガイアスは二人の背中を見ながら言う。
寒い中二人は身を寄せ合い、星空を見ていた。
三人は、それぞれ重いため息を吐いた。




