121 脊髄反射
明日は土曜日なので、昼~夕くらいに更新します。
グワッとシーサーペントの口が開き、目の前の敵を飲み込まんとするように開く。
そして、その口の先には、イクリスさんの姿がある。
そこで私の体が、脊髄反射で勝手に動いた。
景色はスローモーションのように動き、波さえも止まったかのようだ。
意味が有るのか無いのかも分からないまま、飛び込んで行って、殆ど体当たりをするようにイクリスさんの体を突き飛ばす。彼はこちらへ驚愕の目を向けているが、勝手に動いたものは仕方が無い。後の祭りは踊ってやり過ごそうでは無いか。
シーサーペントの口は、バクン!と空振りをし、余計に「ギャー!!」と濁った声を出している。かなり、癪に障ったようだ。
次は私に向けて頭突きをしてきたが、ベルジュのシールドによって弾かれた。セイカさんによって、更に、すかさずシールド魔法をかけ直される、
「サーリャ、もう一度、氷魔法と雷魔法を頼む!」
「無理を言うわね!」
イクリスさんとサーリャさんの阿吽の呼吸で、魔法の隙間をイクリスさんは縫うようにジグザクと頭に向かってゆく。
はて。この局面にあって、私は尚の事、何かを忘れている気がする。私は鈍ってしまった頭をフル回転しつつ、頭を抱えてしまった。……ん?
あああああ、指輪!指輪の存在を忘れてた!
ダンジョン産の指輪が有るじゃないか!
私はイクリスさんの方へ、死ぬまでにもう出せないくらいの速さでダッシュした。心臓がドクンドクン言っているが、それさえも音が遠く感じた。
「ガイアスさん、ヘイトお願いします!」
回り込みながら大きな声を出して、ようやくエラの後ろに辿り着く。
「セルフィさん、危ないって!」
イクリスさんの悲鳴に似た声が掛かるが、そんな場合では無い。
「ベルジュ、シールドお願い」
『言われんでもやるわ』
この指輪は、今の所は近距離でしか使えない。
私はベルジュを信じる事にして、指輪を掲げる。
「えい!」
刹那、豪雨のような雷が、幾重にも渦となりエラの内側を直撃する。シーサーペントの体が傾いだことで、サーリャさんが魔法で作った氷の上に頭が投げ出された。
ドォォォン!
その間に一斉に攻撃をする。ガイアスさんだけは正面で注意深く警戒しているが、後の三人は総攻撃だ。私はもう息が上がってしまったので、後ろに下がっておく。
集中攻撃によって、エラはズタボロになり、もうちぎれそうになっていた。
「”断罪”」
セイカさんが呪文を唱えると、縦一閃、光が走りエラを切断した。
そこへイクリスさんは剣を突き刺すと、サーペイントは、脳に直接響くような”キーン”とした叫びを残し、息絶えた。
やがて、サーリャさんの氷が溶けていくと、シーサーペントの体は静かに沈んで行った。
「終わったな……」
セイカさんが呟いた頃には、シーサーペントの体は完全に見えなくなっていた。
もう魔法が切れたのか、今更ながら手がぶるぶると震えてきて、私は水面にへたり込む。
「セルフィさん!!」
セイカさんが駆け寄って来たと思うと、しゃがんで私の指を見る。傷をつけた指は、まだ血が滲んでいた。
「もうしないでほしいって言いましたよね?」
「いえ、仕様上、そういう武器なので……」
そう言うと、セイカさんは苦い顔をしたが、何も言わないまま回復魔法をかけてくれた。
一歩前に居たイクリスさんは振り返って私を立たせると、額を肩に乗せてぼそっと言う。
「寿命が縮んだ……」
そんな染み入るような雰囲気なのに、ベルジュがイクリスさんの髪に登り、髪の毛をぎゅいぎゅい引っ張る。
『こやつの助けで倒せたのであろうが』
「そうだけども」
イクリスさんは、拗ねたようにかぶりを振る。
「そうよ、セルフィちゃんのおかげでも有るけど、肝が冷えたわ」
残りの二人も、うんうんと頷いている。
「でも、”氷雪”のメンバー内だって、誰かに何か有っても心配しますよね?私だけが特別なんてことは無いと思います」
うっ
私の言葉に、誰も何も言えなくなった。
素人の私の事を心配してくれるのは分かるが、結構善戦したと思うんだけどな。
とにもかくにも討伐が済んだので、私達は島の方へ向かって歩き出した。早く街に着きたいなと思いつつ、また飛竜便に乗るかと思うと気が重くなる。絶対睡眠魔法をかけてもらって乗ろう。絶対だ。
私がヨロヨロと歩き出すと、イクリスさんがぎゅっと手を握ってくる。いつもと違って痛いくらいだ。やはり相当心配させてしまったらしい。横顔が厳しい。
戻ったら、吊し上げ会議でも始まるのだろうか。
私は戻るのがちょっとだけ憂鬱になった。




