119 飛竜と小鹿
明日もお昼更新です
鳥の声と共に目が覚める。頭はぼーっとし、何回も寝返りを打ったので、髪の毛も、ぐしゃぐしゃだ。
トーストにベーコンと目玉焼きを乗せて、はふはふと食べる。更に小さいサラダを食べ、インスタントのコーンスープを飲み、息を吐く。冒険者よりは小食だが、私は激しい戦闘を行う訳ではないので、これくらいで大丈夫だろう。
多分、これ以上食べると、飛竜の上で吐く。
女の子の矜持として、それだけは避けたい。
丁度、家を出ようとした所で、チャイムが鳴ったので小窓を覗くと、イクリスさんが立っていた。
「ごめんね、迎えに来ちゃった。眠れた?」
「いえ、丁度家を出ようとしていた所なので……流石に、あまり眠れはしなかったですね」
「そっか。島に着いたら一晩休むから、夜にセイカに眠らせてもらえば良いよ」
魔力を使わせるのは気が引けるが、足手まとい度が上がるよりは良いだろう。
素直に睡眠魔法をかけてもらおう。
「じゃあ、行こうか」
重くも無いマジックバッグをスマートに持たれてしまって、私はベルジュと”支配の王笏”と指輪という軽装だ。そして、この所もう当たり前になったかのように手を繋がれる。歩く速度を私に合わせてくれるので、心遣いに胸がぎゅっとなる。
そんな私の心などとは裏腹に、思ったより飛竜便乗り場に着いてしまった。
「やぁーっぱり、二人揃ってきたわね」
サーリャさんが、繋いだ手を呆れたように見る。
『まったく、鬱陶しいものだな』
ベルジュが私の肩で、”やれやれ”とばかりに肩を竦めている。竦める肩も殆ど無い癖に、生意気である。
「もう飛行時間だ。早く乗ろう」
ガイアスさんの声に合わせて、”氷雪”の四人と私の計五人で飛竜便の籠に乗る。飛竜は大きく一声鳴くと、大きくゆっくりと羽ばたき始めた。
どんどん高度が上がってゆき、風と共にスピードが出てきて籠が揺れる。うわっ、飛竜ってこんなにスリリングなの!?こ、ここここわいっ!味わった事のない浮遊感に加えて空気の薄さに私はすっかりクラクラして、思わずイクリスさんの服をぎゅっと掴む。
「ああ……飛竜便は初めて?」
私がコクコクコクコク頷くと、イクリスさんが服を握っている手を自分の手に移させて、手を繋ぎ直してくれた。温かい手に包まれて、少しだけ落ち着いてくる。
「あ」
違う方向を見ていたセイカさんが、こちらを向く。
「鎮静魔法かければ良かっ……必要無いみたいですね」
私とイクリスさんの繋いだ手を見て、途中でトーンダウンした。私は思わずイクリスさんの方を見ると、彼は涼しい顔をしていた。彼の方だけ余裕しゃくしゃくで悔しい。
『これから戦いが有ると言うのに、そちらの方の緊張感は無くなったのか』
ベルジュは私の肩で、首をコテンと傾ける。それはそれ、これはこれだろう。
飛竜便に乗る事1時間。問題の海域に近い島が見えて来た。飛竜がゆっくり羽ばたいて地面に降りる。
「つ、着いた……」
籠から地面に降り立つも、体がふわふわぐるぐるとし、生まれたての小鹿のようになって籠の縁に掴まる。他の4人を見ると、文字通り地に足がついており、私だけが小鹿だ。
『お前だけ、人外になっておるな』
ベルジュの痛いツッコミに言葉も返せないが、癪に障ったので頭を軽く圧縮しておく。
『何をするのだ!』
「人間、言わなくて良い事って有るもんよ」
『ワシはニンゲンではないからな』
私達とベルジュがボケツッコミをしていると、セイカさんが来てくれて、気の毒そうに言う。
「それ、微妙に状態異常では無いので出来ないんですよね。恐怖でも麻痺とも毒とも違うので……」
「せめて10分下さい。それまでに何とかします」
グロッキーになってる私に、イクリスさんがスタスタと近づいてくるので、私は身構えてしまった。
この場合、以前と同じことが起こりそうだからだ。
そして予想通り私を抱きかかえると、重さを感じていないかのように、軽い足取りで歩く。
「まあ……、その方がセルフィちゃんに負担が無いから仕方ないわね」
サーリャさんが、ため息を吐く。
め、面目無い。
そして、恥ずかしくない訳は無いので両手で顔を覆う。
人に見せるものじゃないでしょ。それについては何も言わないので、”氷雪の鷹”ってよく出来てると思う。
今現在、そのまんまお荷物だからね。
「今日は、この島の宿屋に泊まるから、各自ゆっくりしてくれ」
それよりも、早く着いてくれ。
結局それから10分くらい歩いてる内に足は復活したが、港町の宿屋に着くまで降ろしてもらえなかった。ベルジュは呆れているのか半目になっていたが、何も言わなかった。以前は、私にイクセルさんが近付いただけで、げしげしと殴っていたので、進歩したと思う。




