118 手放しでは喜べない
少し短いです。明日もお昼更新です。
「何とか人数分揃ったな……」
ガイアスさんが静かに言うが、実際に探してみると、中々大変な物であった。
市場に早々出回っている物では無いので、数を揃えるのは、文字通り街中探し回る事になってしまったのだ。メジャーでは有るが、数が無いのだ。
「これで、水の上は歩けますね。あまり水深が深い場所に行ったら、リヴァイアサンに下から突き上げ食らっちゃいますけど」
「前みたいに、逆上して陸まで追って来てくれたらいいんだが」
こ、こわい。逆上して襲ってくるって、普段よりも更に凶暴になってるって事じゃないか。私はブルッと体を震わせる。討伐依頼が出る程の魔物なのに、更にとなると、冷や汗ものだ。
「それじゃあ、準備をして二日後に飛竜便の乗り場に集合だ。今日は解散で」
イクリスさんが言うと、皆が頷いて各々の家の方へ帰る。
それを確認すると、イクリスさんは自然に手を繋いでくる。季節はそろそろ春とは言え、空気は冷たいのだが、イクリスさんの手は温かかった。
「家まで送るよ、明日はゆっくり休んでね」
確かに大事を取って、明後日だと言われた。明日、私は仕事なので、丸々空いている訳では無い。
うーん。
「今日、ご飯作りに行って良いですか?」
「それは嬉しいけど……休まなくて平気?」
「明日は仕事なので、逆に明日仕事から帰ってから、のんびりします。何が食べたいですか」
「うーん、エビフライ?」
「分かりました」
そうして、夕方の市場へ繰り出し、一緒に買い物をして、静かにその日は終わった。
明日は仕事なので、早目にイクセルさんの家を出て、自宅に戻る。
いつも通りにハグをしてから別れ、シャワーを浴びて気持ち良くベッドに戻る。
明後日の事は明後日に考えればいいのだ。
次の日出勤すると、アリスさんに見つかり次第に通路の奥に連れ込まれ、いきなり壁ドンを食らった。
「ア、アリスさん?」
「聞いたわよ、結局シーサーペントの討伐にセルフィも一緒に行くって!」
多分シーサーペントじゃないのだが、アリスさんは、怒っているかのように強い口調で責め立てるように言う。
「”氷雪の鷹”さえ一回戻って来たんでしょ?そんな所にセルフィが行く事無いよ。イクリスさんも、止めなかったワケ?」
アリスさんが、こんなに真剣なのは、初めてだった。いつもはミーハーで、どこか捉えどころが無い人なのに、今はちょっと怖い。
「確かに、今までは殆どが、上からの命令でした。でも、今回は自分から志願したんです。不安は有りますが、少しでも助けになれる部分が有るって、自分を信じてます」
「セルフィ……」
「でも、心配してくれて有難うございます。きっと大丈夫ですから」
「…………」
私はアリスさんの横をすり抜け更衣室に向かって、着替えてから窓口に出る。
業務はいつも通り、滞りなく進む。
横でアリスさんがぐっと口を引き結んでいたが、業務自体はきちんと進んでいる。何かを言いたそうでは有ったが、結局声を掛けてくる事は無かった。
多分、今までの殆どの依頼は”氷雪”が居たから心配はしていなかったけれど、今回は一回、敗走している。一般人の私には、荷が勝ちすぎてると心配してくれているんだろう。友人が危険な場所に普通はそう思うだろう。
私も大っぴらに「絶対に出来ます!」と断言できるわけでは無いが、《切り取りの匣》は、使える人間が限られている。何故かこの国では、鑑定科の室長、考古学科の課長、私くらいにしか適性が無い。それほど貴重な物を、鑑定科室長は貸し出してくれた訳だ。
壊さないようにしないと。
もし壊したら、何年働いても弁償出来ないだろう。
少し、冷や汗が出た。
しかし、使えるアーティファクト増えたなぁ。私は遠い目をしてしまう。ベルジュが以前「アーティファクトに適性が有る」と言っていたのだが、魔力が多い事に関係は有るのだろうか。
使える物は、多い方が良いに決まっている。今の私は、自分のありったけの力を使うだけだ。
この日は何事も無く仕事を終えられたので、早目に帰宅してシャワーを浴びて軽くご飯をとった後に布団に潜り込む。不安と緊張で、胸がドキドキして眠れない。何回も寝返りを打つ内に、ようやく寝落ちる事が出来た。
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