112 お家に帰ろ
そうして、私にしてみると長い時間をかけて馬車に揺られて、街に帰って来た。
マジッグバッグを手に入れてからと言うもの、クッションや枕を入れて、何とか快眠にしようと努力している。しかし、貴族の馬車のようにサスペンションが有る訳でも無く、揺れはダイレクトにお尻と頭に響く。私は始終グロッキーな感じで、セイカさんの回復魔法によって生かされていた。
お尻が痛いなどとは恥ずかしくて言えないので、近い部位の腰と言ってある。 奇麗な顔をした男の子(実年齢24)にお尻を治療させるとか、嫌すぎるでしょ。
何とか街に付いて、クッションなどをマジッグバッグに仕舞い、よろよろと降りようとしたら、イクリスさんがエスコートしてくれた。あまりにも同じ姿勢を取っていたので、体がバキバキだ。
久しぶりと言える整備された道に足をつき、ホッとする。これよこれ、帰って来た~って感じがする。
『人間とは弱い生き物だな。ワシを見習うが良いぞ』
キミ、ずっと鞄に座ってる上に、絶対に尻とか痛くならないもんね……。
私は腹が立ったので、ベルジュの背中をぎゅむっと押した。
『ギュブッ』
ベルジュが変な声を出す。
「ようやく街に帰って来たから、ご飯食べに行きたいわね。道中は殆どセルフィちゃんに頼ってたもの。
ーーーーとは言え、私達もそのままお店に入れる恰好じゃないし、今日は解散して、明日のお昼に噴水の所へ集合ね」
集合はいいのだが、私には聞かねばならない事が有る。そろそろと手を上げると、私はサーリャさんに問いかける。
「あのー、そのお店って、ドレスコードとか有りますか」
「いやーねー、そんなに敷居の高い店じゃないわよ」
サーリャさんはニッコニコだが、「氷雪」の「そんなに」が私のソレとは絶対に違っている。明日は、どちらでも良いように、普段よりちょいお洒落目にして行こう。
「じゃあ、今日は解散だな」
「また明日会いましょう」
それぞれに挨拶をして、その場を離れる。私も自分の家の方へ足を向けると、スッと適度な距離で横に来て、イクリスさんが「送って行くよ」と言う。
今回のダンジョンの話をしながら帰ると、あっと言う間に家へ着いてしまった。
「イクリスさん、コーヒー飲んでいきますか?」
私がそう言うと、イクリスさんはズザッと飛びのく。
「いや、今日の俺はダンジョン帰りで汚れてるから、人の家に上がり込むのはちょっと……」
確かに、そうだ。私もこの汚れた服装でイクリスさんと対峙していたくはない。最低でもシャワーを浴びたいが、その間待ってて下さいなどと出来るわけが無い。
「そうですね、私も汚れたままイクリスさんの隣に居るのは自分の匂いとか気になっちゃいますし、明日にしましょうか」
「うん。じゃあ、明日迎えに来るから」
「あ、明日は早目に早めに来てくれますか?お茶を、飲んで行って欲しいので」
「分かった」
ドアの前で別れて、私は自分の部屋に入った。
服を全部脱いで、ランドリーボックスにシュートして、速攻シャワーを浴びる。さっきの私って、もしかして臭ってた!?だからイクリスさんが遠慮してたりしたんだったりして。
もしそうなら、乙女心が傷つく。
いかんいかん、明日に清潔な香りをさせていけば、リカバリーできる筈だ。
きっと。
服を決めるのは明日にして、髪の毛を乾かした私は速・寝落ちした。おやすみ3秒と言ったところである。
この際、お腹が空いている事なんて、関係ナイナイ。起きたらマジックバッグからパンでも出して、食べればいいのだ。
そんな考えをしてる途中で、泥のように眠りに入った。
ぐぅ~。
当たり前と言えば当たり前にお腹が減って目が覚める。時間は朝の四時で、まだ陽が昇り切ってもいない。私はマジックバッグからパンと卵を出し、スクランブルエッグを作って、サンドイッチにした。昼食は皆と摂るから軽くでいいか。
小腹が満たされたので、今日着ていく服を物色していく。カジュアル過ぎず、フォーマル過ぎず……難しい。私は白いブラウスにノースリーブのストライプ模様の入った膝丈のワンピースを着て、W釦のフィッシュテールケープを併せる。うん、なかなか良いのではないだろうか。
ケープは後で着るとして、イクリスさんが来る前にクッキーでも準備しておくか。……と言っても、手作りではないんだけど。
一応、全く作らなくなると腕が落ちるので、まめに作るようにはしている。自分で作る料理が美味しくないとかだと普段の私が泣いちゃうからね。
ピンポーン
そうして私がコーヒーを淹れる準備をしていると、丁度チャイムが鳴った。




