111 自分のスタンス
明日も昼更新です。
「これ、嵌めないで」
「えっ、私のですよね?」
イクリスさんが指輪を持った手を上に上げてしまうと、私には当然届かなくて、ぴょんぴょんジャンプをする事になってしまった。それを見て、ベルジュが半眼になりながら、呆れたように言う。
『その辺のしょぼい指輪は、こやつを守ってはくれぬぞ。観念して、その指輪を渡すが良い』
ベルジュの言葉に、イクリスさんが「はぁ」とため息を吐く。
「せめて右手の薬指に嵌めないでね。あと、左手の薬指も俺が予約しておきたいから、それまではこれ嵌めてて」
そう言うと、左手の中指に指輪を嵌める。ブカブカなのですが?と思っていると、指輪はしゅるしゅると指に合わせて縮む。
「おー」
不思議なものだ。流石は古代文明の指輪。私は、色んな角度で指輪を見る。埋め込まれた小さな宝石は角度によって、虹色の光を放っている。如何にもな感じだ。
「一番最初の指輪は、俺が買ってあげたかったんだけど」
イクリスさんが、そうぼやく。指輪を送るって結構重いんじゃないだろうか。先の事まで考えてくれているのかとドキドキする。右手の薬指は、恋人募集中とか聞くが、それを避けろと言う事は、だ。
「これで目的を果たしたな、この部屋を出てから少し休もう。部屋の中では、いつまたキメラが復活するかも分からぬ」
ガイアスさんが淡々と言うのを聞いて、私もハッとして皆同様、荷物を持って早々に部屋を出る。部屋を出た所で後ろを見ると、すでにキマイラが復活していた。
あっぶなっ。
「これで、それぞれ武器がグレードアップしたな。次から戦闘が少し楽になる」
イクリスさんが感心しながら剣を見る。その刀身は仄かに輝き、持っているイクリスさんの手までをも、照らしている。他の人も自分の武器を確かめているが、同じように仄かに輝いている。一方で、セイカさんは聖なる書物をパラパラとめくっていた。
「何が書いてあるんですか?」
「古代語ですね。それもかなり古い時代の。文字列自体は見た事が有るので、時間をかければ解読出来ると思います」
聖なる書物は中身を知っていないと、きちんと発動しないそうだ。しばらく今の杖を使って、或る程度階読出来れば、そちらに武器を変えるそうだ。
「地上に出たら解読作業ですね」
セイカさんがため息を吐く。しかし、見てみると、他の武器にも私の指輪に付いている宝石と同じ物が付いていた。シリーズ物と言った所か。
「キマイラはちょっと大変だったけど、実りは有ったわね。今までとは段違いに魔力の通りが良いわ」
サーリャさんが感動しながら杖を見ている。他の二人も似たものだ。私は自分の指輪を、もっと詳しく見る。
”解析”
・古代最大文明、キャペル帝国のアーティファクト
魔力を2倍に底上げし、雷の魔法が発動できるようになる。(着用時に限る)
「すごいね……」
これで、私にも魔法が使えちゃう?雷魔法に限るけど……。ベルジュは指輪を見る為に手首まで降りてきて、珍しく興奮しながら指輪をを見てウゥムと唸る。
『これは、かなり良い物だな。体外に魔力を放てない者でも、魔法が使えるようになる。お前のようなヤツの為の指輪だ』
私は、今までは使えなかった魔法が使えるようになったという事で、わくわくして試し打ちをしてみる事にした。
右手を上に向けて、特に細かい事を考えずに力を放出する。
「えい!」
ドカン!ガラガラガラ!
予想もしたよりも、強い雷が手の平から出る。ただ、距離が全く出ていない。精々3mと言った所だ。
「ベルジュ、こんな程度なのかな、射程距離が短いね」
『”支配の王笏”と同じだ。練習しなければ真価は引き出せない。そもそも王笏の力すら、まだ扱いきれていないのだからな』
えっ、私ってば、まだ伸びしろが有るって事?
私は思わずガッツポーズをする。
ポテンシャルが秘められてるぞ!
ハッ……ダメだ、冒険者になりかけている。
今の私は、冒険者証を付けて街から飛び出る彼らと変わりない。
冒険者が悪いわけでは無いのだが、私が冒険者になるのは危険が過ぎる。そんな覚悟は無い。
私が喜んだり落ち込んだりしてると、後ろからイクリスさんが、おずおずといった感じで話しかけてくる。確かに、今の私は不審すぎたね。
「百面相してるけど、大丈夫?」
「あ、ええ。ちょっと自分の未来を憂えただけですので、ご心配なく」
最近は私のスタンスがブッレブレなので、一度ちゃんと考えを纏めないといけないな。
何は無くとも、街に帰ってからだ。




