10 閑話1 若者は礼儀を知れと年寄り(推定)は言いたい
9&10 同時投稿です
『おい、おかしいとは思わぬか』
古代の願望器にして、ベルジュと名前をつけられた兎の呪物は言う。
「何が?」
そう返事をするのはこの部屋の主たる、セルフィ・ミストレスだ。
ニンゲンの望みを叶える代わりに破滅させるつもりだったのが、自分の願いを叶える権利をやる代わりに守れという望みを叶えさせるという、とんでも理論をかまされて自分が守護についている少女。
それが今や、ソファーに寝転んで雑誌を読みながら紅茶を時々飲んでいる。嘆かわしい。こんなニンゲンが自分の契約者なのか。
ベルジュに脳みそは無いのだが頭痛を感じて頭をかかえたが、気を取り直して言う。
『おぬしが寝ている間に地べたに転がしておくとは何事だ。ワシは偉大なるアーティファクトなるぞ!』
「そうは言われても。神棚とか作ればいいの?ここ賃貸なので、壁にそんなもの作れないよ。古い考えを捨てて、現実を見てください。そんな事したら、大家さんに怒られて私が宿無しになっちゃう」
契約者たる少女は呆れた目で見てくる。
『ぐぬぅぅ』
この家に来て以来、昼間はギルドに一緒についていくが、夜は机のペン立てに寄りかからせているだけだ。敬服もしなければ、尊重もされていない。数多の血で形作られ、恐れ敬われていた自分がぬいぐるみ以下の扱いを受けている事に、到底我慢がならなかった。
「わがままだなぁ。扶養手当も出ていのに、権利だけ主張されても」
『ワシは飯を必要としていないのだから、扶養はしておらんじゃろ……』
全く、ため息を吐きたいのは自分の方だ。
『過去に愚かなニンゲンが、どれだけ自分を渇望したか。おぬしは分かっておらぬな。恐れ、崇め奉り、下にも置かない待遇だったぞ』
「はいはい、年寄りの昔話は若者には嫌われますよ。あと、地べたには置いてないです。机の上です」
これである。
思わず肩を落として机に手をついていると、少女はむくりと起き上がってこちらをじっと見た。そして何かを閃いたらしく、いそいそと外出準備をする。
『む。外出するならワシを連れていけ』
「はいはい」
いつも通り肩にひょいと乗……ろうとしたが、腰のベルトにくくりつけられた。相変わらずぞんざいな扱いだ。
少女が歩く事、20分ほどで商店街と言う所へ着いた。ここは色々な食べ物や雑貨が売られ、古代のニンゲンより自由な暮らしをしている事が伺える。ここへは、このニンゲンが食べる食材を買いに来る時に何度も来ていた。
『おい、今日は何か食べ物を買うのではないのか?いつもと方向が違うが』
「違う物を買いに行くからね」
そこから更に10分。少女は玩具店についた。
『ははっ、お主はまだこんな物で遊ぶのか。子供だな』
ベルトにぶら下がりながら笑うと、少女の雰囲気がさっと固くなった。冷気を感じて、ぶるりとする。
「ぺしゃんこにしたら、中から何が出てくるのかな?アーティファクトの人形ってどうやって作ってるのか中身が気になるね」
アーティファクトをぺしゃんこにするなどと、聞いた事が無い。なんと恐ろしい事を言うのか。ニンゲンのくせに発言が物騒すぎる。
さして自分の残酷さを気にせずに、少女は鼻歌を歌い歌いながら店内に入っていく。
「これとこれと…これを配達してもらえますか?」
何やら店の主人とやりとりをしていると、代金を払ってその店の買い物は終わったらしい。玩具を手に取っている訳でもなかったらしいし、首をひねるばかりである。
「さて、時間潰すのにご飯でも買いますかね~。」
その後は、パン屋へふらふら、野菜を売っている店にふらふら、しまいには甘味を売っている店へふらふら。その内に日が暮れて来た。
「そろそろ帰るかな。もう来る頃だろうし」
そうして、買い物をした大量の食材を抱えると、ようやく帰路についた。
ピンポン♪
食材を片付けていると、チャイムが鳴って、ドアを開けて何かを受け取っていた。大きな荷物を抱えて部屋の真ん中のテーブルに置くと、得意げに紐をほどいていく。
「じゃじゃーん!」
箱の中身は、ドールハウスとベッドであった。
『ワシは、子供の遊ぶ人形では無い!!』
どんどん足で机を踏みしめ、一瞬でキレるが少女はどこ吹く風だ。
「いやー、一戸建てなんて羨ましい!!ベッドも買っておきましたよ!ここ、電気もつくんだよ、すごいね!」
もう、どこから正すべきなのか分からない。とりあえず、ドールハウスとやらは使わない。ベルジェはマスコットの形をしていても、子供の遊ぶ玩具では無い。風呂やテーブルがあって、どうすると言うのか。
だがベッドだけは悪くない。
自分は睡眠をとるわけでは無いが、このニンゲンは空が暗いうちは休眠するので、自分もあちこち飛び回るわけにいかない。一度夜中に部屋をあちこち見て回っていたら、安眠妨害だと枕を投げられた。
だからその間の自分専用の場所が欲しかったのだ。
『祭壇ではないが……』
「文句でも?」
『いや、なんでもないぞ』
まあ、机に転がされるよりはマシだ。こうしてベルジュは夜に使うベッドという名の安息の地を確保した。
アーティファクトの中身は、流石に綿ではないでしょうね
明日は土曜日なので、夜に来ます




