101 ドレス選びは体力と気力
明日は昼更新に戻ります。
ガイアスさんがノックをすると、部屋の中から入室を許可する返事が有った。
扉を潜ると、そこには少女のような若々しい女性がソファに座っていた。この女性がスタンフォード家の奥様か。しっとりしたブルネットをまとめ上げて、後ろでしっかりめにシニヨンにしている。瞳は優しいブルーだ。
「兄の嫁で、このスタンフォード家の女主人であるリュール義姉上だ」
「いらっしゃい、女の子のお客様は大歓迎よ。うちは男所帯で女性が居ないの」
そう言って柔らかに笑う彼女に、ガイアスさんが私を紹介してくれる。
「彼女は冒険者ギルドで働いている、セルフィ・ミストレス嬢です。この度は舞踏会へ着ていくドレスを義姉上に見立てていただきたいと思いまして」
「ガイアス、あなたもようやくエスコートする女性が見つかったのね」
「いえ、そうではなく。仕事で仮面舞踏会へ行かねばならないのですが、ドレスに詳しくないので、こうして義姉上を頼って来たのです」
ガイアスさんは、そんな夫人に慣れているらしく、軽く受け流した。
「あら、そうなの。ミストレスさんと言ったかしら。正式にこの子とパートナーにならない?」
「義姉上、彼女には交際相手が居ます」
「あら、そうなの……まあ、いいわ!ドレスなら沢山有るから、試してみましょう!」
そうして、あれよあれよと言う間に夫人のドレスルームへ連れて行かされる。 ガイアスさんと別れて部屋に入ると大量にメイドが居て、夫人と相談しだした。
「やはり若い子だから、ピンクに……」
「奥方様、こちらの若草色も若い令嬢にお似合いかと」
「ああ、でも駄目ね、デイドレスではないんだもの。落ち着いたワインカラーが良いわね」
目の前でどんどん話が決まっていく。私にドレスの良し悪しは分からないので、夫人に全部お任せだ。
「宝石は貸すとして……靴は流石にフィット感が合わないわ。こっちは既製品を買うしかないわね」
そう決定づけて、扉の外のガイアスさんを呼ぶ。
「セルフィさんてば、見違えたでしょう、どう?」
「美しいですね。流石、義姉上です」
ガイアスさんのは、社交辞令だと分かっていても照れる。
「靴を選びたいから、今すぐに商会を呼びなさい」
私がモダモダしていると、夫人からガイアスさんに命令が飛ぶ。
「今からですか」
「今からよ、この招待状の日付まで時間が無いじゃないの」
「そうですね、では使用人に呼んでこさせましょう」
商人まで呼んでいただけるとは。夫人は私を見て、ニコッと笑う。
「あ、一応言っておくけど、宝石以外はあげるわ。私も何着もいっぺんに着る程、体が無いもの」
そうして、商人が来るまでに、デイドレスまで選ばれそうになって、必死に辞退申し上げた。ドレスが有っても着ていく場所が無いです。
「ようやく決まりましたね、貴族っていつもあんなに大変なんですか?」
家に送ってもらう道すがら、ガイアスさんにボヤいてみる。冒険者と貴族の二足の草鞋を履いているガイアスさんを尊敬するばかりだ。
「いや、女性はデザイナーを呼んで、デザインを選んだら型紙を起こす所から始めるから、もっと時間がかかる」
「ぐう」
あれ以上に大変だとは、貴族の生活も思ったより大変である。結局荷物一式はガイアスさんの実家に置いておいて、舞踏会の時は準備をお願いして、一緒に馬車で行く事になった。
1人でドレスは着れないしね……はは。
ドレスを選んでいる時に、メイドさんの一人に奇麗な宝石の付いたリボンを結んでもらって、ご機嫌なベルジュがツッコんでくる。ちなみに夫人にも大絶賛されて、そのまま持ち帰る事を許されてしまった。
ますます可愛い兎マスコットになってきている。こんな格好の呪われたアーティファクト有る?
『ニンゲンなぞ皮一枚剥げば皆同じだと言うのに、何故洒落た格好などするのだ?』
それ、今お高いリボンを付けて喜んでいる君に言われたくないね。
「それはそうと」
馬車のはす向かいに座って静かにしていたガイアスさんが突然口を挟む。会話に割り込むのはガイアスさんとしては珍しい。
「イクリスには、この事を言ってあるのだろうか。いくら仕事とは言え、心中穏やかではないと思うぞ」
な、なるほど。確かに私の立場でも、自分以外の相手と舞踏会などに行かれると、パートナーも居る事だし、ちょっとはジェラるかも知れない。
「なんか、言い訳考えてみます」
「イクリスの家の住所を教えておくから、自分が言うより、セルフィ嬢が言う方が良いと思うぞ」
「そうですね……」
かくして、初めてのお宅訪問が、仕事の釈明になってしまう事が決まった。
申し訳ない気持ちでいっぱいである。




