100 突撃・お宅訪問
102話で希釈された恋愛が出てきます。今しばらくお待ちくださいませ。
(めんどくさい人は飛ばしてください)
その冒険者は3日後、元冒険者であり、現冒険者ギルド職員なカルルさんとユーグさんに連れて来られた。
「ヒート・アシェット、C級冒険者……と言う事で合ってるかしら?」
「は、はい、合っています」
「じゃあ、この宝石を冒険者の鑑定に持ち込んだ意図は?」
ここはギルドの会議室。簡素な机と椅子があるだけの、尋問室のような部屋である。部屋の内装も相まって、ギルド長が一見タチの悪い詰問を行ってるように見えない事も無いが、この宝石を持ち込んだ彼が今は問題な訳だ。
「こ、これには、ちょっとした理由が有るんです」
ギルド長の圧に、タジタジしながらも口を開いた。
話は、こうだ。
アシェット氏は、元・貴族だが、冒険者になりたいと実家で揉めて勘当になったらしい。彼の身分は冒険者になったけれど、親友である男爵家の子息と、たまに身分を隠し下町で一緒に飲む事も有ったとか。
ところが、ある時から、その親友の様子が変わって来た。目がぎらぎらとしたかと思うとふわふわとし、あまり話が通じなくなってきたらしい。会う頻度がぐっと減ってしまい、最後には、とある子爵家で行われる集まりに誘われた。
自分の身分は、もう貴族では無いのだから行けないと言うと、彼はこの宝石を渡してきて、これを館の入り口で見せれば中に入る事が出来ると言い置いて、それ以降は連絡が付かなくなってしまった。
「これを売ることが出来たらそれはそれで良いし、何かが分かれば親友を助けられると思ったんです。ですから、こちらに持ち込んだんです」
ふーむー。
その親友さんを助けたいけれど、自分一人では難しい。もしこの宝石の意味が分かれば、と文字通り試金石になったという事だ。利用されるのは正直言って面倒だが事実問題として、この件は貴族の中でも問題になってきている。
「連絡先だけ置いていって、帰っていいわよ」
ギルド長は案外簡単に彼を解放した。
「あれだけで開放しちゃって良かったんですか?」
私が首を傾げながら聞くと、ギルド長も気難し気に唸った。
「この件を騎士団長に相談したのだけど、騎士が貴族に介入するのは難しいらしいわよ。でも、犠牲者は多いし蔓延しているからどうにかしたいってワケ」
「そうなんですか」
次の瞬間、ギルド長がニヤリと笑みを浮かべた。
うっ、嫌な予感!!
「ここに問題と思われる貴族の家が書かれているわ。仮面を被って行く場所だし、みんな頭がハッキリしていないから、庶民の所作にも気づかないわよ。ハイ、招待状2枚。残りの人員は潜伏させて、場所が分かったら一斉摘発よ」
「え、これって誰と行けって言うんですか!?」
「そうねぇ。イクリスさんか、ガイアスさんかしら?」
ううーん……これは貴族に籍が有るガイアスさんかなぁ。貴族の方はへべれけでも、入り口の兵士とかは素面だろうし。そうすると、貴族の所作に詳しくて、フォローしてくれそうな方はガイアスさんかな。
「はぁ……聞いてみます」
次の日、ガイアスさんの家にメッセンジャーを送ってみる。家名は聞いていたので住所は平気なのだが、庶民の間で使われているメッセンジャーだと門前払いをされる可能性も有る。そうでない事を祈っていたが、次の日にガイアスさんがギルドの裏から少し離れた所に、馬車を用意してくれた。
1人で乗り込もうとしてタップに足を掛けたが、スムーズにエスコートされてしまった。貴族、スゴイ。
「簡単にメッセージを聞いたが、詳しい話は顔を会わせないといけないと思ったのだ」
確かに、メッセンジャーに簡単に言づけて終わりに出来る話では無い。
「だから、申し訳ないが我が家に来て話をさせて欲しい」
頷いて道すがら簡単に説明していると馬車が止まり、ガイアスさんの御実家の門を潜る。そこから見える家の大きさが半端なく大きく、言葉も出ない。レッサー・ドラゴン何匹分かな?
館の扉の前には予め使用人が待ち受けており、思わずタジタジと怯んでしまった。
「セルフィ嬢、固くならないでくれ。気軽にしてもらって構わない」
そうは言っても使用人が左右にずらっと並んでいてですね、私の靴でカーペットが汚れないか気になってしまう。
執事さんらしき人に先導されて、私の部屋が4つくらい入ってしまうほどの大きさの応接室に通された。ソファに座った所、絶妙なタイミングで紅茶が出てきて芳しい香りで部屋が満たされる。
ガイアスさんが片手をあげて人払いをするのを見届けたのを見届けてから、昨日の話を詳しく説明する。
「ふむ……確かに貴族邸に入るのなら自分が良いだろうな」
ガイアスさんが深く頷いているが、私は或る事に気が付いてしまった。潜入するにしてもドレスが無いと、だめなのだ。私服で行く訳にいくまい。
「ドレスっていくらするんですか?今から用意出来るんですかね」
既製品を選ぶにしても、大衆小説で良くあるじゃないか「庶民に売るものはないわ!」的なヤツが。かといって、貴族の家に行くのにペラペラの衣装で行ける筈はなく。
私が頭を悩ませていると、角砂糖を細かく砕き、一粒ずつをカップに入れると言う地味な遊びをしていたベルジュが事も無げに言う。
『こやつの家から借りれば良かろう』
おぉ、何と命知らずな。貴族様なお宅のドレスを私が貸してもらえるわけ無いでしょうが。
しかし、ガイアスさんの意見は私と異なった。
「確かに。義姉上のドレスを借りればいい。ーーーおそらくは、お下がりになったものは持ち帰らせられるだろうが」
「それはどういう……」
「兄上は義姉上に贈り物をするのが好きなのだが、量が量なので、困っていらっしゃるのだ。それでも兄上は買ってくるのだが……。義姉上も一回着たドレスを着る前に次のドレスが贈られると言って困っている。なので、聞いてみるといい」
そんな真似を私にしろと申すか……。しかし、考えてみると、同じランクの物を着ないとつり合いが取れなくて怪しまれるだろう。ガイアスさんは早々に扉の向こうで控えていた執事を呼ぶと、義理のお姉さんに予定を聞きに行かせた。
貴族に会う緊張で、冷や汗が止まらない。
ベルジュは朝焼け色の目を細くすると、『本当に胆力が無い奴だな……』と諦めたように呟く。同情されたかのような態度が虚しい。
さほど時間がかからずに、執事さんが訪問の是の返事を取り付けて来た。
100話……未知の世界へ来ました。思えば遠くへ来たものだ。一人お祭りスタイル。
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