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僕の幼なじみは今夜も知らない誰かに抱かれる(R15版)  作者: 碗古田わん


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八、下野薫

挿絵(By みてみん)

 それが夢だとわかったのは、もう何度も同じ夢を見ていたからだった。

 薄暗い部屋。

 そこにはポツンとベッドが一つ置かれている。

 その上では、加藤(かとう)小春(こはる)が塚田(つかだ)純希(じゅんき)の知らない中年に抱かれていた。


   ♢♦♢♦♢♦


 そこで純希はハッと目を覚ました。

 すると、目の前にスヤスヤと寝ている小春の顔が目に入った。

(夢か……)

 純希はホッと胸を撫で下ろした。

(しばらく見てなかったのに……)

 小春が仕(・)事(・)を始めた当初は、小春が知らない誰かに抱かれる夢を頻繁に見ていた。

 だが、慣れてきたのか、最近はそんな悪夢にうなされることもなくなっていた。

(昨日、あんな動画を見たせいだ……)

 多分、それで正解だろう。

(しっかりしろ!)

 純希は自分の精神(メンタル)に叱咤激励した。

(とにかく、下野とは一度話さないといけないな)

 そんなことを考えていると、

「うんんんっ……純希?」

 小春が目を覚ました。

「おはよう、小春」

 さっきまでの懸念は全て頭の外に蹴り出して、純希は笑顔で挨拶した。

「うん……おはよう、純希」

 小春はまだ寝ぼけていて、唇をねだった。

「ちゅっ……」

 それに純希は軽いキスで応えてから、起き上がった。

「今何時?」

 眠い目を擦りながら、小春は聞いた。

「まだ六時半」

 枕元に置いていたスマホを見て、純希は応えた。

「帰る?」

 小春は、制服を着始めた純希をぼんやりと見ていた。

「着替えたいからね」

「んんっ……わかった」

 それに頷いてから、小春も起き上がると、グッと伸びをした。

「じゃあ、またあとで」

 そう言い残して、純希は小春の部屋をあとにした。

 すぐ隣の自宅のドアを開けて、玄関に入る。

 すると、物音で気付いた母、塚田(つかだ)希美(のぞみ)がエプロンで手を拭きながらダイニングから現れた。

「おかえりなさい」

「ただいま」

 挨拶を交わしてから純希は玄関を上がった。

「コハちゃん、大変なの?」

 そのまま部屋に入ろうとした純希に、希美は聞いた。

 母には、小春が心配だから今日は泊まる、とだけしか伝えていない。

「もう落ち着いたから、大丈夫」

 純希は断言した。

 ここでそうしておかないと、あとでいろいろ詮索されかねないと思ったからだ。

「それならいいけど……」

 それを察して、希美もそれ以上は聞くべきではないと判断した。

 ちなみに、両親は純希と小春が深(・)い(・)仲(・)にあることを知らない。

 だが、希美は薄々感づいてはいた。

 それもあって、純希が小春の部屋に泊まることを了承したのだ。

 希美も女(・)な(・)の(・)で(・)、人肌恋しい夜があることを知っていた。

「洗濯物、あとで出しておくね」

 それだけ言って、純希は今度こそ自分の部屋に入った。

 とりあえず、一端服を全部脱ぐ。

 それからクロゼットから新しい下着とワイシャツ、それに靴下を出した。

 まだまだ暑いので、肌着類は毎日交換しないと匂いが心配なのだ。

 新しい下着を履いてTシャツを着る。

 それからワイシャツを着て、制服のズボンを穿く。

 リュックの中身を今日の授業用に入れ替える。

 そして、純希は洗濯物をまとめて持って、部屋を出た。

 洗濯物をランドリーケースに入れたタイミングで、ピンポーンとインターフォンが鳴った。

 小春がやって来たのだ。

 こうして、塚田家の朝が始まった。


 朝食を終えた純希と小春はいつもの時間に部屋を出た。

 だが、登校中はいつもと違っていた。

 二人を見て、コソコソと話す生徒の集団をいくつも見かけたからだ。

(昨日のこと、噂になってるなぁ)

 純希はなにやら後ろめたいものを感じた。

 しかし、当の小春はそんな光景も気にせず、胸を張って歩いている。

「度胸あるなぁ」

 言ってから、純希はしまった、と思った。

 考えていることがつい口に出てしまったのだ。

「堂々としてればいいんだよ」

 その意味を察して、小春は力説した。

「あたしはなにもしてない……あたしはなにもしてない……」

 そして、口の中で繰り返す。

 その目がイッてるのを見て純希は、

(やっぱ精神的にきてるなぁ)

 と、心の中で冷や汗笑いをした。

 様々な視線に晒されながら、純希と小春はようやく校門へと到着した。

 下駄箱で上履きに履き替えようとする。

「あれ?」

 そこで純希は、上履きの上に手紙が乗っているのに気付いた。

「どうした?」

 先に上履きに履き替えた小春が、寄ってきた。

「手紙が入ってる」

 純希は下駄箱の中から手紙を取りだした。

 それは白い封筒で、紋章を象った封緘シールで封がされていた。

「ラブレター?」

 小春が冗談交じりに茶化す。

(誰よ、あ(・)た(・)し(・)の(・)純希にラブレターなんか書く奴は?)

 しかし、内心は穏やかでなかった。

(ラブレターにしては、色気がなさ過ぎる……)

 嫌な予感がして、純希はその場で封を切った。

「やっぱり……」

 案の定、中には昨日の動画スクリーンショット(SS)と、白い便せんに、放課後、屋上で待っています、と記されていた。

 差出人の名前は、ない。

「下野かな?」

 横から覗いていた小春が呟いた。

「その可能性は高いね」

 純希は率直な感想を述べる。

「でも、なんで、純希?」

「うーん」

 首を傾げる小春に、純希は唸った。

 自分が小春と幼なじみだから、がもっとも正しい答えなのだろうが、それでもこんな手紙を送りつける意味はわからなかった。

「とりあえず、行ってみようと思う」

 純希は即決した。

(どっちにしろ、下野とは話さなきゃいけないと思ってたし)

 すると小春が、

「あたしもついていっていい?」

 と聞いてきた。

 小春はまだ、告白の可能性もゼロではないと思っていたのだ。

「いや……こういう場合は一人で行った方がいいだろう」

「そぉ?」

 純希の拒否に小春は納得できなかった。

「なら、こっそり隠れてるから」

 なので、小春は食い下がった。

「うーん」

 純希は考え込んだ。

(駄目って言っても、勝手に来そうだしなぁ……)

「見つからないようにね」

 結局、諦めた純希は小春のお(・)願(・)い(・)を了承した。


 そして、放課後。

 純希は言われたとおり屋上の重い扉を開けた。

 そこには、黒髪を両サイドに三つ編みにして、切れ長な目に眼鏡を掛け、ほっそりとした輪郭をした少女が立っていた。

 下野(しもの)薫(かおる)だ。

(やっぱり下野か……)

 純希は、心の中で呟いた。

「こんにちは、塚田」

 薫は無表情で挨拶した。

「クラスが変わったからは初めてだね」

 純希と薫は、一年生の時、同じクラスだった。

 そのときも学級委員を務めて、その指導力でクラスをまとめていた。

「この手紙は下野?」

 純希は手に持っていた封筒を薫に見せた。

「うん」

 と、薫は頷いた。

「どうして、こんなものを僕に?」

 続けて純希は聞いた。

「塚田には、本当の事、知っていてほしかったから」

 薫は真剣な目で純希を見詰めた。

「塚田は、それをフェイク動画って言ったけど、間違えなく本物だから」

「どうして、わかるの?」

「それは……」

 純希の問いに、薫は言い淀んだ。

 しかし、意を決すると口を開いた。

「それ撮ったの、わたしのパパなの」

(やっぱり……)

 想定通りの展開に、純希は改めて小春の事(・)務(・)所(・)の情報収集能力に舌を巻いた。

「加藤はズルイ奴なんだよ」

 薫は眉をつり上げた。

「塚田とつき合ってるのに、他の男と寝てお金をもらってるんだよ」

 全身がワナワナと震えている。

「それって、酷くない?」

 それでも怒りを押し殺しながら、純希に訴えかけた。

「…………下野は二つ勘違いしている」

 短い沈黙の後、純希は諭すように言った。

「僕は小春とはつき合ってない」

 す(・)る(・)関係にはあるけれど、とは言わなかった。

「そんなの嘘でしょ?」

 薫は問いかけた。

 少なくともクラスの大半は、二人はつき合っていると思っているのを薫は知っていた。

「いや、本当だよ」

 しかし、純希はキッパリと否定した。

「じゃあ、ただの幼なじみなの?」

「うん」

 信じられないようなものを見る目の薫に、純希は頷いて見せた。

「あと一つ」

 純希は真面目顔で言った。

「僕は、小春の仕(・)事(・)のことを知っている」

「えっ?」

 純希の言葉に薫は絶句した。

「僕は小春が他の誰かと寝ていることを承知で一緒にいるんだ」

 薫に真意が伝わるように、純希ははっきりとした口調で言った。

「嘘……」

 薫の顔が見る見るうちに蒼ざめていく。

「嘘じゃない」

 断言した純希を見て、薫は顔を俯かせた。

 コンクリートの床にポツポツと涙のシミがつく。

(泣かせちゃったか?)

 純希が内心、焦ったとき、

「そんなの不潔よ!」

 薫は感情を爆発させた。

「パパもあたしと同い年の加藤を買うし、塚田もそれを承知で幼なじみやってるの!?」

 涙をまき散らしながら絶叫する薫に、純希はコクッと頷いた。

「パパのことは嫌いだからどうでもいいけど、塚田は加藤に騙されていると思ってた!」

「騙されてないよ」

 泣き叫ぶ薫に、純希は冷静に応えた。

「嫌い……」

 薫は今にも消えそうな声で呟いた。

「塚田なんて大嫌い!!」

 純希に言い放った薫は、そのまま駆け出した。

 そして、開けっぱなしだった屋上の出入り口から、校内に入る。

 その陰には小春が隠れていたのだが、薫は気付かずに階段を駆け下りた。

 涙を残して。

「ふーっ……」

 純希は長い息を吐いた。

 女子を泣かしてしまった罪悪感は半端なかったが、今はそれより問題が解決しそうなことへの安堵が大きかった。

「振られちゃったね」

 すると、近づいてきた小春がニコニコと笑みを浮かべながら言った。

「もともと、下野のことはそういう風には見てないよ」

 それを聞いた純希は真顔で返す。

「でも、あたしと幼なじみじゃなきゃ、もしかしたら彼女ができてたかもしれないよ?」

「好きでも無い相手を彼女にするほど、酔狂じゃないよ」

「ふーん」

 うんざりそうな純希を小春はニマニマと見ていたが、内心はいろいろな意味でホッとしていた。


 その日の夕方。

「つまり、下野茂の娘は、塚田君とコハとの仲を引き裂きたくて、一連の騒ぎを起こした、と?」

「はい」

 剣(つるぎ)銀治郎(ぎんじろう)の言葉に純希は頷いた。

 場所は新横浜の事(・)務(・)所(・)の奥の控え室だ。

 小春は今日起きたことを報告するために来ていた。

 純希も当事者なので同行したのだ。

「話を聞く限りではこれ以上、状況が悪化することも無いだろう」

 銀治郎は、いつもの固い喋りを崩さずに言った。

「代表には問題は解決したので、コハの復帰を進言しよう」

「よかった」

 銀治郎の言葉に、小春は胸をなで下ろした。

「ちなみに、下野の父親はどうなりましたか?」

 純希は、気になっていたことを聞いた。

「規約違反で、アカウントを凍結した」

 これは控えめな言い方だった。

 本当はバックドアを使って、専用アプリを強制削除したのだ。

 もちろん、バックドアは残したままで。

「もう我々とは関われない」

「動画は?」

 純希はさらに聞いた。

「下野茂とその娘の動画は、こちらで完全に削除させてもらった」

 動画は、下野家のPCにも転送されていたが、それもバックドアを拡散させて侵入(レイド)し、削除した。

「娘が逆恨みで動画を流出させることも無いだろう」

 そこまで言って銀治郎は口調を緩めた。

「まぁ……噂は残るかもしれないが……」

「それぐらいへっちゃらだよ」

 小春はガッツポーズをした。

「頼もしいな」

 その姿に銀治郎は滅多に見せない笑顔を零した。

(これで、一件落着……かな?)

 そして、純希は肩の荷が下りた気分になった。

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