↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の幼なじみは今夜も知らない誰かに抱かれる(R15版)  作者: 碗古田わん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/41

三十九、目覚め

挿絵(By みてみん)

 それは大型連休(ゴールデンウィーク)も終わった五月の中旬のことだった。

 新横浜のビジネス街を抜けた先にある総合病院。

 その一室で、加藤(かとう)昌美(まさみ)は眠り続けていた。

 事故で頭を強く打って意識を失ってから、既に一年が経過しようとしていた。

 当初負った怪我も治り、今現在、身体はどこにも異常がないのだが、意識だけが戻らないのだ。

 すると、点滴を打たれた腕の指先がピクッと動いた。

 続いて目を閉じた眉が揺れる。

 そして、ゆっくりと目が開いた。

「ああぁ~、よく寝た~」

 気分爽快な昌美は、おっとりと呟いた。

「あれ~?」

 そして、ワンテンポ遅れて自分の異常に気付く。

 口には酸素呼吸器がつけられ、腕には点滴の針が刺さっている。

「ここは~?」

 周りを見渡すと見慣れない風景で、すぐ横にはベッドサイドモニターが置いてあった。

「病院~?」

「……加藤さん!?」

 ちょうどそこへ病室に入ってきた看護師が、驚きの声を上げる。

「はい~」

 昌美はおっとりと応えた。

「目が覚めたんですね!」

 その言葉に看護師は慌てた。

「今、すぐ先生を呼んできます!」

 そして、泡を食って病室を後にする。

「はい~」

 おっとりと微笑んだ昌美は、もう一度、病室内を見渡した。

 それから疑問を口にする。

「わたし~、どうしてこんなところに寝てるんだろう~?」


 その頃、加藤(かとう)小春(こはる)は仕(・)事(・)の真っ最中だった。


 ♢♦♢♦♢♦


「はぁ……はぁ……はぁ……」

 小春は荒い息でグッタリと敬吾に身を預けた。

「はぁ……はぁ……今日も……はぁ……しっかりイッたね……はぁ……」

 息を整えながら、敬吾はニッコリ微笑んだ。

「はい……」

 小春ははにかんだ。

 そこで、小春の仕(・)事(・)用のスマホが振動した。

 それを小春は訝しんだ。

 仕(・)事(・)中(・)、連絡が入ることはまずなかったからだ。

 小春は出ようかどうしようか迷った。

「出てあげなさい」

 その様子を敏感に感じ取った敬吾が、柔らかく即した。

「失礼します」

 頭を下げてから、小春はスマホを取った。

 発信者は剣(つるぎ)銀治郎(ぎんじろう)だった。

「小夜子です」

 スマホに出た小春は、源氏名を名乗った。

『小春か?』

 いつも冷徹な銀治郎の声に焦りが混じっているのを感じて、小春はますます訝しんだ。

『姐さんが、目を覚ました』

「えっ!?」

 銀治郎の言葉に、小春は驚きの声を上げた。

『今日の仕事は中止にする』

 頭の中がグルグルして、顔面蒼白になった。

『富山様に代わってもらえるか?』

「お母さんが目を覚ましたそうです……」

 意識が飛びそうになるのを辛うじて堪えながら、小春は敬吾に状況を説明した。

「うちのボディガードがお話があるそうです」

 そして、震える声とともに、スマホを敬吾に渡した。

「富山です」

 銀治郎と敬吾が大人の会話をしている間に、小春は急いで服を着た。

「お話はわかりました」

 二人の通話はすぐに終わった。

 敬吾からスマホを渡された小春は、再び耳に当てた。

『撤収が終わったら、ロビーに降りてくれ』

 小春の答えも待たず、銀治郎は通話を終了させた。

 銀治郎も焦っているのだ、と小春は感じた。

「申し訳ありません」

 それで少し落ち着きを取り戻した小春は、敬吾に頭を下げた。

「気にしなくていいよ」

 服を着ながら、敬吾は微笑んだ。

「今は日和さんのことが大事だ」

 そこで敬吾は、母の源氏名を口にした。

「どっちにしろ、私は一回しか出せないしね」

 ネクタイを締めながら、敬吾は笑った。

「料金も全額払い戻ししてくれるそうなので、逆に悪いぐらいだよ」

「ありがとうございます」

 敬吾の懐の深さに感謝しながら、小春はもう一度、深々と頭を下げた。


 ホテルを出たルセデスAMG・GT63SEパフォーマンス4ドアクーペは、事務所には戻らず、直接、病院へと向かった。

 病院へ着くと、夜間入り口から中に入る。

「お母さん!」

 そして小春は、病室に飛び込んだ。

「コハちゃん~」

 小春を見るなり、昌美はおっとりと微笑んだ。

「お母さん!」

 本当に目覚めていた母に、小春は涙ながらに抱きついた。

 昌美に取り付けられていた酸素呼吸器とベッドサイドモニターは既に取り外され、点滴だけが残っていた。

「よしよし~、一人にしちゃってごめんね~」

 自分の胸に顔を埋める小春の頭を愛おしそうに撫でながら、昌美はおっとりと謝った。

「わたしが眠ってる間は~、伸郎君のお世話になってたんだって~?」

 それから、おっとりと聞く。

「うん……」

 昌美から離れた小春は、涙を手で拭いながら答えた。

「お母さんが寝ている間は、あたしが仕(・)事(・)をしてたんだよ」

 それから小春は、なんでもないような口調で、サラリと言った。

「えっ~?」

 だが、それを聞いた昌美の顔色が変わる。

「コハちゃんが~、仕(・)事(・)を~?」

 珍しくうろたえながら、昌美は聞き返した。

「うん……あたし、お母さんの仕(・)事(・)を継いだんだよ」

 そんな母の心情には気付かず、小春は胸を張った。

 それを聞いた昌美は黙って俯いてしまう。

「お母さん?」

 そこで初めて、小春は昌美の異変に気付いた。

「どうして~……」

 昌美は細い声で呟いた。

「?」

 それが何を意味するかわからず、小春は首を傾げた。

「どうして~、そんなことしたの~!?」

 顔を上げた昌美はありったけの声で怒鳴った。

「えっ……だって……」

 まさか怒られると思わなかったので、小春は戸惑った。

「借金も返さないといけないし……お母さんの治療費も払わなきゃだし……生活もあるし……」

 母の剣幕に小春はしどろもどろになった。

 昌美が怒ることは滅多にない。

 記憶する限り、一度もないと言ってもいい。

 それで小春はことの重大さを理解した。

「伸郎君は~、支援してくれなかったの~?」

「してくれるって言ったけど……」

 昌美の詰問に、小春は歯切れ悪く答えた。

「でも、お母さんだって断ったじゃん!」

 そして、逆ギレする。

「借金返済だって、代(・)表(・)が肩代わりしてくれるって言ったのを断ったから、あたしも断ったんだよ!」

 小春は声を張り上げて怒った。

「それは~、わたしがもう汚れてたからだよ~」

 そんな娘に、昌美は反論した。

「でも~、コハちゃんは違ったでしょ~?」

 それから、強く聞いた。

「それは……」

 その問いに、小春は言葉を詰まらせた。

「今すぐ~、やめなさい~」

 おっとりと、それでもハッキリとした口調で、昌美は言った。

「嫌っ!」

 しかし、小春は首を横に振った。

「お母さん、目覚めてもすぐに仕(・)事(・)に戻れる訳じゃないでしょ!?」

 その一言が、小春の怒りの火に油を注いだ。

「ちゃんと歩けるようになるのに、半年は必要って聞いたよ!」

 それは病院に行く途中で銀治郎から聞いた情報だった。

「それまで誰が入院費や生活費を稼ぐの!?」

 怒りの収まらない小春は、手を広げて抗議した。

「わたしが復帰できるまで~、伸郎君に支援を頼んであげる~」

「それじゃあ、今までの苦労はなんだったの!?」

 母の矛盾した考えに、小春はさらに怒った。

「~……」

 それを聞いた昌美は黙り込んだ。

「純ちゃんは~、このこと知ってるの~?」

 それから矛先を変える。

 小春が塚田(つかだ)純希(じゅんき)を好きなことは昌美も知っていた。

 深い関係にあることも。

 小春が仕(・)事(・)を始める前に使っていた避妊具(コンドーム)は、昌美が提供したものだった。

「知ってるよ」

 小春はふてくされ気味に答えた。

「純ちゃんは~、嫌がってないの~?」

「それは……」

 母の問いに小春は言葉に詰まった。

 表面的には嫌がってない。

 けれど、内心はわからない。

「今でもし(・)て(・)る(・)んでしょ~?」

 昌美はおっとりと聞いた。

「し(・)て(・)る(・)よ」

 それに小春は正直に答えた。

「きっと純ちゃんは~、やめて欲しいって思ってるよ~」

「あたしはね」

 純希の話題を持ち出され、怒りが冷めた小春は、静かに言った。

「こんな仕(・)事(・)をしてるから、純希に好きになってもらうことはもう諦めてるんだ」

 まるで歌うように。

「だから、純希の存在は仕(・)事(・)を辞める理由にはならないよ」

 寂しく。

 そんな娘の覚悟に昌美は、なにも言えなくなってしまった。

「と、に、か、く」

 そこで自分が言いすぎたことに気付いた小春は、気を取り直して宣言した。

「あたし、仕(・)事(・)を辞めるつもりないから」

「お母さん~、許さないわよ~」

 昌美も昌美で、引くつもりはなかった。

「二人とも、今日はそれぐらいにしておいたほうがいい」

 そこで、それまで話を傍観していた銀治郎が口を開いた。

「もう夜も遅い」

 銀治郎は諭した。

「これ以上の言い争いは、他の病室の迷惑になる」

「でも、銀兄ぃ……」

 それに小春は不満の声を上げた。

「姐さんも、目覚めたばかりだから、まだいろいろい混乱しているだろう」

 だが、銀治郎は取り合わなかった。

「コハも少し頭を冷やした方がいい」

「そうね~」

 銀治郎の言葉に、昌美は頷いた。

「わかった」

 口では言ったが、小春は全然納得していなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。