三十八、初出勤
翌朝。
塚田純希、加藤小春、それに下野薫と野上沙弓は、いつものようにエントランスで待ち合わせた。
「メッセで見たと思うけど……」
沙弓の顔を見た小春は開口一番で告げた。
「例の件、OKになったから」
それに沙弓はコクッと頷いた。
未読のメッセは朝早く、既読になっていた。
「よかっ……た」
沙弓は笑みを零した。
(本当に切羽詰まってたんだなぁ)
それを見た純希は、心の中で冷や汗笑いした。
「例の件って?」
一人話について行けない薫が、聞く。
「さゆを仕事に引き込もうって話」
「えっ!?」
小春の言葉に薫は驚きの声を上げた。
「どうして、そんな話になったの!?」
そして、小春に詰め寄る。
「僕が説明するよ」
それを見た純希が間に入った。
純希はことの成り行きをかいつまんで、薫に説明した。
「そうなんだ……」
話を聞き終えた薫は神妙な顔になった。
やはり薫も思うところがあるらしい。
「さゆちゃんは、それでいいの?」
なので、沙弓に念を押した。
沙弓はコクッと頷いた。
「本人がいいって言うなら、いいけど……」
それでも薫は、納得しきれてないようだった。
思いは純希と同じなのだ。
「お母さんにはバレないの?」
なので、薫は最後の抵抗を試みた。
「さゆのお母さんは毎晩、帰りが遅いから大丈夫だと思う」
その問いには小春が答えた。
「万が一、早く変えてきたときは、あたしの部屋で勉強してることにするから」
「それだと、いざ、部屋に乗り込まれたときにマズくない?」
薫の指摘に純希と小春は、あっ、となった。
二人ともそこまでは考えていなかった。
「仕方ないなぁ」
薫は頭を振った。
「わたしの家に来ていることにすれば?」
そして、ため息混じりで提案する。
「わたしなら、平日の夜は家にいるし、なんとか誤魔化せるでしょう?」
その言葉は渡りに船だった。
「そうだね……お願いしてもいいかな?」
「うん」
純希の問いに薫は頷いた。
「ありがとうございま……す」
沙弓も頭を下げる。
「いいのよ」
その顔は本当に済まなそうだったから、薫は意識して笑みを作った。
「わたしも仕事仲間だし」
「え……っ?」
薫は何気なく言ったつもりだったが、沙弓は小さく驚いた。
「言ってなかったの?」
それを見て逆に薫の方が驚いた。
「そういえば、言ってなかったね……」
頭を掻いた小春は、引きつった。
「わたしもね、加藤と同じ仕事しているの」
呆れたように小春を見てから、薫は微笑んだ。
「なにか困ったことがあったら、遠慮なく相談してね」
その言葉に、沙弓はコクッと頷いた。
放課後になり、小春は沙弓とともに事務所に向かった。
そこで沙弓は事務所の代表と面談した。
小春も同席したかったが、剣銀治郎に止められてしまった。
自分のことではないのに、やきもきしながら待機室で待っていると、面談を終えた沙弓が入ってきた。
「どうだった?」
結果が気になった小春は、食い気味に聞いた。
「雇ってくれる……って」
沙弓の答えに、小春はホッと胸を撫で下ろした。
「ただし、色々条件付きだがな」
あとから入ってきた銀治郎が補足する。
曰く、
仕事で稼いだ金は、事務所が作る隠し口座に入れること。
帰りが遅くならないように、仕事の時間を調整すること。
他にも、細かい約束事が決められていた。
小春と薫の例があるとは言え、ここまで幼い娘を預かるのは初めてなので、事務所も慎重に事を運んだのだ。
「それで、ボディーガードは誰がつくの?」
「私が引き受けることことになった」
小春の問いには、一番後に入ってきた男性が答えた。
年の頃なら四十ぐらい。
長身で細身の身体をした落ちついた雰囲気をしたイケおじだった。
「宇門さん!」
事務所のボディガードではナンバーツーに座る宇門金芳、だ。
「意外かね?」
驚く小春に、金芳は柔らかく微笑んだ。
「ううん」
小春は首を横に振った。
「宇門さんがボディガードにつくなら安心だよ!」
それから、喜ぶ。
「では、沙弓さん、向こうで基本的な情報を登録しよう」
金芳の言葉に沙弓はコクッと頷いた。
そのまま控え室を出た沙弓と金芳は、応接室へと向かった。
小春はそれを見送りながら、ホッとしていた。
話し合いの結果、沙弓の源氏名は、『遠藤さゆ』に決まった。
本来、源氏名と本名は離すものなのだが、沙弓が自分の事を『さゆ』と呼ぶため、それがそのまま採用されることになった。
遠藤も、両親が結婚していたときの名字だ。
沙弓は頭が弱いため、あまり手の込んだことはできないだろうということで決まった。
所属学校は、私立女子学園中学に決まった。
そして、デビューは来週の月曜日になった。
日曜の夜、小春はベッドにモグリながら、専用アプリで予約状況を注視していた。
自分の、ではない。
沙弓の相手が誰になるか気になっていたのだ。
沙弓が今週デビューすることは、土曜日の段階で告知されていた。
そして、深夜の十二時。
専用アプリの沙弓のページに予約項目が追加された瞬間に、沙弓の予約はあっという間に埋まってしまった。
「凄っ……」
小春は思わず呻いた。
小春自身のページもこれぐらい瞬殺だったのだが、久々に予約合戦を見て小春はあらためて驚いた。
「さゆのデビュー戦の相手は誰かな?」
スマホをタップして、画面を切り替える。
専用アプリのスタッフアカウントでは、自分だけでなく他の娘の予約状況を確認できるようになっていた。
「ああっ……」
その名前には見覚えがあった。
宮野友彦。
自分より年上の娘にゴミ扱いされると愚痴をこぼしていた男性だ。
「この人なら、大丈夫そうかな?」
自分としたときのことを思い出して、小春は独りごちった。
翌朝、純希たちは、いつものように一緒に登校した。
沙弓はいつにも増して濃い色香を発していた。
(今日のさゆは、凄いな……)
純希は心配した。
「今朝、ひとりでしなかったの?」
同じく心配になった小春が、沙弓に囁く。
「したけ……ど……」
それに沙弓は頬を朱色に染めた。
「今日のことが楽しみすぎ……て……」
全然、満足できなかったのだ。
それを聞いた小春は冷や汗笑いした。
「とにかく、今日は誰の誘いにも乗っちゃ駄目だからね」
それから、念を押す。
沙弓はコクッと頷いた。
そして、放課後になった。
小春は校門で沙弓と待ち合わせて、事務所へと向かった。
私鉄を乗り継いで新横浜まで来る。
そして、ほんの数分歩いて事務所の入るビルに辿り着いた。
事務所に入ると、既に金芳が待機していた。
「じゃあ、着替えよ」
小春が声を掛けると、沙弓はコクッと頷いた。
与えられたロッカーの前に立った沙弓は、ドラを開けるとまずブレザーを脱いだ。
それをハンガーに掛けてしまい、次にジャンパースカートの左肩のホックを外す。
そして、左脇のファスナーを下ろすと、足から抜いた。
それもハンガーに掛けて、ブラウスのボタンを外す。
ブラウスを脱いで、ハンガーに掛けると、ブラ透けよけのキャミソールを脱ぐ。
事前に小春から、着ない方が客受けがいいと聞かされていたからだ。
これで沙弓を包むのは、紫のブラと水色のストライプ柄のショーツのみとなった。
「それ、自前?」
同じく下着姿だけになった小春が、沙弓に聞いた。
沙弓はコクッと頷いた。
「下着も言えば、買ってもらえるから、白とか用意した方がいいよ」
沙弓の答えに、小春はアドバイスした。
小春も今日は朝から、最近新調してもらった白のブラとセットのショーツを着ている。
「……?」
だが、沙弓は意味がわからず、首を傾げた。
「おじさんたちは、あたしたちに白を求めることが多いんだよ」
「そうなんだ……どうしよ……う……」
それを聞いた沙弓はオロオロした。
「今日のところはそれでも大丈夫だと思うよ」
しまった、と思った小春は慌ててフォローする。
そんな小春の言葉に、沙弓は安心して、コクッと頷いた。
それから、ロッカーの中から制服を取り出す。
紺のセーラー服だ。
それを頭から被り、左脇のファスナーを下ろす。
次に同じく紺のプリッツスカートを取り出すと、それを履いて左脇のファスナーを上げた。
(破壊力抜群だなぁ)
既に専用アプリの紹介ページで写真は見ていたが、色香を全身に発する沙弓に小春は冷や汗笑いした。
着替えが終わり、小道具の学生カバンを持って沙弓は、小春とともに更衣室を出た。
「準備できまし……た」
そして、待機していた金芳に声を掛ける。
「では、行こうか」
ソファーから立ち上がった金芳は優しい笑みで告げた。
沙弓はコクッと頷いた。
そのまま事務所を出た沙弓と金芳は、エレベーターで地下駐車場まで下りた。
そこで黒いメルセデスAMGGLEに乗り込むと東京に向かって出発した。
「今日のお客様は、宮野様だ」
GLEが首都高速に乗ったところで、金芳は口を開いた。
「常連様なので、女性の扱いには慣れている」
沙弓は金芳の説明をジッと聞いていた。
「なので、わからないときは身を委ねても問題ない」
その言葉に沙弓はコクッと頷いた。
そうしているうちに、GLEはホテルに到着した。
ロビーでチェックインを済ませた金芳は、キーカードを沙弓に渡す。
「一人で大丈夫かな?」
すると沙弓は不安そうな顔で金芳を見る。
「なら、一緒に部屋まで行こう」
その視線を感じて、金芳は優しく応えた。
沙弓は緊張を緩めて、コクッと頷いた。
二人は、エレベーターで部屋のある階まで上がった。
物珍しそうにキョロキョロと周りを見ながら、沙弓は金芳の後をついて行った。
「ここだよ」
目的の部屋の前で金芳は立ち止まった。
「ここにキーカードをタッチして」
金芳に言われたとおり、沙弓はキーカードをタッチした。
ガチャッとドアのロックが解除される。
「あとはわかるかね?」
金芳の問いに沙弓はコクッと頷いた。
「それでは、私は車の中で待つとしよう」
そう言ってから、金芳は念を押した。
「最初に説明したとおり、なにかあったらすぐ連絡を」
沙弓はコクッと頷いた。
部屋に入った沙弓は、灯りをつけてから学生カバンとともにソファーに座った。
(いよいよだ……)
沙弓は緊張した。
元々人見知りなので、仕方ない。
だが、その一方で期待もあった。
この熱りを冷ましてくれる相手であることを祈って。
今は、見ず知らずの相手と会うことよりも、その方の気持ちが勝った。
期待と不安が入り交じって、沙弓の鼓動は自然と早くなった。
すると、ドアがノックされた。
「暗号解読コード……は?」
ドアに近づいた沙弓は、あらかじめ教えられた合い言葉を口にする。
「ベーターツー」
返事はすぐに返ってきた。
「正解で……す」
その答えに沙弓はドアを開けた。
そこには友彦が立っていた。
「こんばんは、さゆちゃん」
「こんばん……は」
友彦はできるだけ優しく微笑んだが、緊張マックスの沙弓は危うく噛みそうになった。
(凄い色香だ……)
沙弓を見た友彦は思った。
一目見てわかるぐらい、沙弓は色香をダダ漏れさせていた。
「さっそくだけど、いいかな?」
それに当てられて友彦は、興奮した。
部屋に入ってすぐに、沙弓に尋ねる。
コクッと頷いた沙弓は、目を閉じて唇を突き出す。
その仕草さえ色っぽい。
我慢できずに、友彦も唇を重ねた。
「……じゅるじゅるくちゅくちゅ……くちゅじゅるじゅるれろれろ……じゅるれろれろ……じゅるちゅぱ……」
舌と舌を絡めて、二人はベロチューをした。
(あっ……気持ちいい……)
友彦の舌使いに、沙弓は感動した。
「……れろれろれろれろれろ……じゅるじゅるじゅるれろ……れろくちゅ……れろれろ……」
友彦とのディープキスに、沙弓はうっとりとした。
「……れろちゅぱれろ……じゅるくちゅくちゅ……くちゅじゅるじゅる……ちゅぱくちゅ……」
そして、貪るように舌を絡める。
「ちゅぱっ……」
そこで友彦は唇を離した。
沙弓は、物足りなそうな顔で上目遣いに友彦を見た。
「続きはベッド、ね?」
友彦の言葉に、沙弓はコクッと頷いた。
♢♦♢♦♢♦
結局、ベッドで二回戦、風呂で一回戦して沙弓の今日の仕事は終わった。
そして、翌日。
朝、いつものように塚田家で朝食を取った純希、小春、薫はエントランスに下りた。
そこでは、沙弓が待っていた。
「おはよう、さゆ」
「おはよう、じゅんお兄ちゃん、こはお姉ちゃん、かおるお姉ちゃん」
まるで憑き物が落ちたようにすっきりとした沙弓を見て、純希はうまくいったことを悟った。
「どう? 気持ち良かった?」
そんな沙弓に、小春はこっそりと耳打ちした。
頬を朱色に染めながら、沙弓はコクッと頷いた。
「なら、よかった」
その答えに小春は笑みを零した。
「じゃあ、行こうか」
純希の誘いに、沙弓はコクッと頷いた。




