三十三、アプローチ
数日後。
一年C組の四時限目の授業は数学だった。
野上沙弓は、一見、真面目に授業を受けているように見えた。
しかし、頭の中はエロい妄想で溢れていた。
今、自分が発情していることが知られたらどうなってしまうだろう。
クラスの男子全員に一斉に襲いかかられるだろうか。
そして、次から次へと、開発されてしまうのだろうか。
想像するだけで、沙弓は身体が熱くなるのを感じた。
それは態度にも表れていた。
頬を朱色に染めて溜め息をついたり、シャーペンのトップカバーを唇に押しつけたり、何気に髪をかき上げたり、伸びをしたりと、動作がいちいちエロかった。
周りの男子生徒は、それをドギマギしながら盗み見ていた。
奇しくも、沙弓は自分が発情していることを周りにアピールしていた。
「野上って、エロいよなぁ」
弁当を食べながら、浅沼幸太は噂した。
「なんか、いつも発情中みたいなかんじだよなぁ」
同じく自分の席で弁当を食べていた石川誠也が同意する。
「押せばやらせてくれそう」
「それな!」
清川結の言葉に、幸太は指を指した。
「明日、日直一緒だろう?」
誠也の問いに、幸太は頷いた。
「そのとき、やらせてくださいってお願いしてみたら?」
「嫌だよ」
冗談とも本気とも取れる誠也の提案に、幸太は顔を顰めた。
「失敗したら、俺、女子の笑いものじゃん」
そして、肩をすくめる。
「確かに」
結は納得した。
「誰か、勇者が現れないかなぁ」
あくまで他人任せの幸太だった。
そして、翌日。
日直になった沙弓と幸太は、授業と授業の合間に黒板を消していた。
その途中で、肩と肩がぶつかる。
幸太はドキッとした。
「ごめんなさ……い」
頬を染めて、沙弓は謝った。
「は……ぁ……」
そのとき、沙弓は吐息を漏らした。
沙弓が発する甘い匂いに、幸太の頭はクラクラした。
(やりたい……)
Eカップの胸を黒板に押しつけながら字を消す沙弓を、幸太は純粋にエロいと思った。
――――やらせてくださいってお願いしてみたら?
誠也の言葉が頭に蘇る。
(言ってみるか?)
幸太は少し、その気になった。
放課後の教室には、沙弓と幸太だけが残っていた。
日直としての最後の仕事を熟すためだ。
自分の席に座った沙弓は、学級日誌をつけていた。
幸太はその前の席に座り、背もたれに腕を掛けている。
沙弓は相変わらず、甘い吐息を漏らしていた。
頬は高揚し、目も半目でトロンとしている。
男子と二人きりという状況も脳内妄想に拍車を掛けた。
今、突然、襲われたら、そう考えるだけで鼓動が早くなった。
一方、幸太もタイミングを見計らっていた。
そろそろ沙弓が日誌を書き終わる。
(言うなら、今がチャンスだ)
沙弓がシャーペンを机においたところで、幸太は口を開いた。
「野上……」
「……?」
呼びかけられて、沙弓は首を傾げた。
「その……なんだ……」
幸太は、慎重に言葉を選ぼうとした。
だが、気の利いた言葉など、この状況では頭に浮かばなかった。
「やらしてくれないか?」
結局はストレートに聞いてしまう。
その言葉に沙弓は狼狽した。
自分の頭の中が見透かされたと思ったからだ。
「どうし……て?」
なので、そう返すのが精一杯だった。
「その……なんていうか……」
沙弓の問いに、幸太は言葉を探した。
「野上って、欲求不満じゃないかと思って……」
しかし、見つからず、これまたストレートに言ってしまう。
「よくわかった……ね」
心を読まれて動揺した沙弓は、うっかり本音を言ってしまう。
「そりゃあ、あれだけ色気を振りまいてたらね」
「そっか……さゆ、色気を振りまいてたん……だ」
幸太が超能力者である可能性も考慮していた沙弓は、意外そうに言った。
「無自覚だったのかよ」
呆れ気味に、幸太は眉を顰めた。
「いい……よ」
沙弓は即決した。
普段の沙弓なら、まず人見知りしてしまっただろう。
しかし、今は性欲が勝っていた。
「本当!?」
「さゆを開発し……て」
歓喜する幸太に、沙弓はコクッと頷いた。
「じゃあ……」
幸太は席を立つと唇を突き出した。
同じく席を立った沙弓も唇を突き出す。
二人の唇が重なった。
「じゅるれろれろれろ……れろれろじゅるくちゅ……じゅるれろれろ……くちゅじゅるじゅる……」
すぐに沙弓は舌を入れると、幸太の舌に絡める。
「れろれろくちゅちゅぱ……じゅるれろれろ……ちゅぱじゅる……くちゅちゅぱ……」
それに驚きながらも、幸太は舌を絡め返した。
「れろれろじゅるじゅるちゅぱ……れろれろれろじゅる……じゅるじゅるじゅる……ちゅぱちゅぱ……」
淫靡な音が教室に響く。
それだけで、幸太は股間を大きくした。
「ちゅおぱっ……」
どちらともなく二人の唇が離れる。
「胸、触っていい?」
幸太の問いに、沙弓はコクッと頷いた。
♢♦♢♦♢♦
「気持ち良かったぜ」
行為を終えて、身なりを整えながら幸太は沙弓に言った。
それに沙弓はコクッと頷いた。
しかし、沙弓はする前よりも色香が増しているようだった。
脱童貞を果たした幸太は考えた。
そこから導かれる答えは……、
「もしかして、気持ち良くなかった?」
それにも沙弓はコクッと頷いた。
「本当か……」
幸太が床に座り込むと頭を抱えた。
「もう、俺とはしたくない?」
幸太の問いに、一瞬、躊躇してから、沙弓はコクッと頷いた。
「本当か……」
幸太は絶望した。
「ごめんね、浅沼……君」
うなだれる幸太に、沙弓は謝った。
「せっかく、誘ってくれたの……に……」
沙弓に気を使われて、幸太はますますヘコんだ。
「どこが悪かった?」
それでも幸太はあがいた。
「直せるところは直すから」
しばらくの沈黙。
「……浅沼君のは、小さいか……ら……」
そして、沙弓はこれまた遠慮がちに答えた。
「本当か……」
男として決定的なこと言われてしまい、幸太は本気で落ち込んだ。




