三十二、沙弓の本性
話は午前中まで遡る。
一年C組の教室ではオリエンテーションが行われていた。
自己紹介をして、新しくクラスメイトになった生徒たちとの親睦を深めたり、校則、施設利用法、礼拝や教諭の指導を通じて中学生としての生活基盤を学んだりした。
「はぁ……」
野上沙弓は、それをボーッと聞いていた。
さっきから鼓動が早くなり、股間がウズウズしていた。
目もトロンとして、シャーペンの頭を唇に押しつける姿もエロい。
発情しているのだ。
こうならないように、今朝、部屋を出る前に一人でしたのだが、あまり効果はなかった。
本当はいますぐにでもしたかったのだが、授業中なので辛うじて自粛した。
沙弓は無意識で髪を描きか上げた。
その仕草から色香が漂い、周りの男子生徒はドキドキした。
(家に帰るまで我慢できないなぁ……)
潤んだ瞳で沙弓はそんなことを考えていた。
「……なお、第一校舎は職員室と特別教室しかなくあとは空き教室だけなので、あまり近づくことはないだろう」
その昔、一学年が六から七あった時代の名残で、校内には多くの空き教室があった。
(空き教室……)
それを聞いた沙弓は、ピンときた。
オリエンテーションが終わり、あとは帰りの学活のみになった。
細かい注意事項があったため、学活は長引いた。
沙弓は、終わるのを今か今かと待ちわびていた。
「起立! 礼!」
日直の号令で帰りの学活は終わった。
そのタイミングで、沙弓は学生カバンを持つと、教室を飛び出した。
下駄箱へは行かず、渡り廊下を駆け抜けて、第一校舎に向かった。
「……?」
そこで沙弓は、同じく第一校舎に急ぎ足で向かう塚田純希を発見した。
(なんだろう?)
足を止めた沙弓は首を傾げた。
それから純希の後をこっそり追う。
しかし、沙弓には予感があった。
でなければ、ここで後をつけるような行為はしない。
案の定、純希は空き教室へと入った。
ピシャリと閉められた教室のドアをソッと開ける。
「!?」
中を覗くと、純希と小春がディープキスしていた。
沙弓はドキドキした。
キスが終わり、小春がショーツを脱いで、机の上に上がる。
それを見た沙弓は、ソッとスカートの中に手を伸ばした。
♢♦♢♦♢♦
沙弓は脱力すると、教室のドアに寄りかかった。
”ガタン!”
ドアが鳴る。
しかし、絶頂の余韻で呆けていた沙弓は、それには気付かなかった。
ガラッとドアが開けられ、仁王立ちする小春が現れた。
そこで沙弓は、ようやく自分がどこにいるかを思い出した。
「さゆ!?」
純希の声が聞こえた。
「じゅんお兄ちゃん……こはお姉ちゃ……ん……」
呂律の回らない口調で、沙弓は呟いた。
「見てたの?」
小春の問いに、沙弓はコクッと頷いた。
「さゆ……これは……」
狼狽しながらも、純希はなんとか誤魔化そうとした。
「知ってる……よ」
しかし、誤魔化しきれなかった。
「じゅんお兄ちゃんは、こはお姉ちゃんを開発してたんだよ……ね?」
沙弓の言葉に、純希と小春は、えっ? となった。
「さゆも、じゅんお兄ちゃんに開発してもらいた……い」
「はっ!?」
沙弓は哀願したが、純希にはトンデモ発言にしか聞こえなかった。
「さゆは、経験あるの?」
固まってしまった純希に代わり、小春が聞く。
「ある……よ」
それに沙弓はコクッと頷いた。
「さゆは、ずっとお義兄ちゃんに開発してもらってた……の」
「えっ?」
その言葉に純希は石化から回復した。
「でも……それを義父とママに知られて、もう会えなくなっちゃった……の」
沙弓は哀しそうな顔になった。
「じゃあ、さゆの両親が離婚したのって……?」
「さゆのせいなの」
純希の問いかけに、沙弓はシュンとなった。
「さゆはお義兄ちゃんから引き離されて、開発された身体だけが残った……の」
歌うように、沙弓は言った。
「それでね……なにもしてないとすぐに開発して欲しくなる……の」
まるで哀しげな譚歌のように。
「だから、じゅんお兄ちゃんにさゆを開発して欲しい……の」
「開発って……」
懇願する沙弓に、純希は困惑した。
「要するに、身体が疼くから純希としたい、と?」
小春は語尾に怒気を込めて聞いた。
「こはお姉ちゃん……怖……い」
それを見た沙弓は、泣きそうな顔になった。
「あっ、ごめん」
それで小春は、自分が冷静さを欠いていたことに気付いた。
「純希?」
なので、小春はそこか先を純希に任せることにした。
自分だと、どうしても私情が入ってしまうからだ。
「ごめん、さゆ」
純希は本当に済まなそうな顔をして謝った。
「僕はもう、小春以外とはしないって決めてるんだ」
「そう、なん……だ」
落胆した沙弓は、捨てられた子犬ような目で純希を見詰めた。
それを見た純希は、ウッとなった。
「純希」
そんな純希を、小春は肘で小突いた。
「わかってるよ」
流さそうになるのを、純希は必死になって堪えた。
「さゆ、わかってると思うけど、今日のことは……」
小春は沙弓に言い聞かせた。
「う……ん」
それに沙弓はコクッと頷いた。
(本当にわかってるのかなぁ?)
だが、まだボーッとしている沙弓を見て、小春は心の中で溜め息をついた。




