三十一、再会
新学期が始まって、二日が過ぎた。
その日、市立瀬渓東中学では、新入生を迎え入れる入学式が行われることになっていた。
塚田純希と下野薫は、受付として駆り出されていた。
一般の生徒は午前中で授業が終わり、既に下校している。
しかし、入学式は午後から行われるので、純希と薫は弁当持参し教室で昼食を済ませていた。
まだ入学式まで時間があったので、受付は閑散としていた。
とそこへ、女子生徒が一人でやって来た。
背中まである長い髪を横だけ左右に括って、ほっそりとした顔に垂れ気味の大きな目に愛らしい唇をした美少女だ。
身長はさほど高くなく、年相応だが、唯一、胸だけは年齢に相応しくない大きさをしていた。
ロリ巨乳なのだ。
純希は思わず、その胸に目を奪われた。
「お名前は?」
それを気にしながらも、薫は女子生徒に問いかけた。
「野上沙弓で……す」
その名前を聞いた純希は、えっ? となった。
「さゆ?」
思わず聞き返した純希に、沙弓はビクッとなった。
「僕だよ、純希」
「じゅんお兄ちゃ……ん……?」
半信半疑で、沙弓は尋ねた。
「やっぱり、さゆだ!」
純希は喜んだ。
「こっちに戻ってきてたんだ」
「う……ん」
歓喜する純希に、沙弓はコクッと頷いた。
「今日は小百合おばさんは?」
沙弓が一人だったので、純希は聞いてみた。
普通、入学式には保護者も参加するからだ。
「お仕……事」
沙弓はたどたどしい口調で答えた。
そのしゃべり方さえ、純希は懐かしく思った。
「ちょっと、塚田」
そこで、薫から横槍が入った。
「あっ、そうだった」
見るといつの間にか新一年生の列が出来上がっていた。
純希は慌てて、野上沙弓の欄を探して、チェックを入れる。
(あれ?)
そこで純希は首を傾げた。
その間に薫は、沙弓の大きな胸にリボンをつけた。
「体育館は入って校舎を抜けた左手にあるから」
「う……ん」
純希の説明に、沙弓はコクッと頷いた。
沙弓を見送ってから、純希と薫は精力的に列を捌いた。
それは入学式が始まる直前まで続いた。
「ふーっ」
ようやく一段落して、純希は息を吐いた。
「さっきの娘は誰?」
そのタイミングで薫は、列を捌いている間、ずっと気になっていたことを聞いてみた。
「昔、マンションに住んでいた幼なじみだよ」
純希は笑顔で説明した。
「お母さんが再婚して、引っ越したんだけど……」
そこまで言って、純希は言葉を濁した。
「けど?」
薫は続きを即した。
「名字が旧姓のままだったなぁ……」
それがなにを意味しているかを察して、純希は目を伏せた。
「離婚して戻ってきた、とか?」
しかし、薫は純希が躊躇した言葉をズバリと言い当てる。
「そうなのかも……」
なので、純希も頷くしかなかった。
「確か、マンションはおばあさんが住んでいたはず」
純希はとりあえずそんなことを口にした。
「でも、おばあさんは病気で長期入院中、って聞いたんだけどなぁ」
だが、頭の整理が追いつかず、とりとめない話になってしまった。
「そうなんだ……」
薫的にも、純希の新しい幼なじみのことは気になったが、これ以上は情報を得られないとわかっていたので、話を広げることはしなかった。
(今晩、母さんにでも聞いてみよ)
そう思いながら、純希は薫とともに撤収の準備にかかった。
「うん、知ってるわよ」
純希の問いに、母、塚田希美はあっさり答えた。
夕食時、塚田家のダイニングでの話だ。
「なんでも、再婚がうまくいかなかったみたい」
希美は、自分の子供にこういう話をしていいものか躊躇しながらも教えてくれた。
「そうなんだ……」
純希も希美のそんな空気を感じ取って、神妙な顔になった。
「じゃあ、部屋は前のところ?」
「うん、そうらしいわね」
純希の様子を気にしつつ、希美は応えた。
「野上のおばあちゃんが今、入院中でずっと空き部屋になっていたから、そこに戻ったみたいよ」
野上家の部屋はマンションの一階にあった。
(やっぱり……)
ここまではだいたい予想通りだった。
「さゆちゃんのお母さんは、離婚を機に転職したみたい」
だが、そこから先は予想を超えていた。
「だから、忙しくて、あまり家にも帰れてないみたいよ」
「それで、入学式にも来てなかったのか……」
これで謎が一つ解けた。
娘の晴れ舞台に顔を出さないのはなんでだろうと、疑問だったからだ。
「さゆちゃん、いつも一人みたいだから、よければ気に掛けてあげて」
「うん」
希美の優しいお願いに、純希は頷いた。
『へぇー、さゆ、戻ってきてたんだぁ』
スマホの向こうで、加藤小春は感嘆の声を上げた。
時刻は深夜。
純希と小春はメッセの通話機能で話していた。
「懐かしいね」
既に部屋着に着替えていた小春は、感慨深げに言った。
『昔は、じゅんお兄ちゃん、こはお姉ちゃん、って、いつも後ろにくっついてきてたよね』
「そうだったね」
昔を思い出して、純希も懐かしんだ。
「でも、今は一人なんだ……」
小春は考え込んだ。
『よければ、小春も気に掛けてあげて』
「もちろん!」
純希の言葉を小春は快諾した。
翌朝の登校時間。
いつものように純希と小春と薫は、塚田家で朝食を取ってからマンションを出た。
「あれ?」
そこで純希は、前を歩く沙弓を発見した。
「さゆ!」
純希が声を掛けると沙弓は振り返った。
そして、純希の顔を見て嬉しそうな顔をする。
それから沙弓は、小春の顔を見詰めた。
「……こはお姉ちゃ……ん?」
「さゆ!」
突進した小春は、そのまま沙弓を抱きしめた。
「こはお姉ちゃ……ん」
沙弓は姉のような存在のハグに笑顔を零した。
「懐かしいなぁ、この抱き心地」
沙弓の柔らかな身体を小春は堪能した。
沙弓は全体的にムチムチしているが、特に胸は最後に会った二年前でも周りに比べて大かったが、今はさらにボリュームを増していた。
「帰ってきたなら、そう言ってよ」
ハグを解いた小春は、笑顔で話し掛けた。
「ごめんなさ……い」
しかし、沙弓はシュンとなって謝った。
「あっ!」
それ見た小春は慌てた。
「別に怒ってる訳じゃないからね」
とりあえず、フォローする。
「本……当?」
上目遣いで沙弓は聞いた。
「うん! だから気にしないで」
それでようやく沙弓はホッとした顔をした。
(そう言えば、こういう性格だった)
そんな沙弓を小春は懐かしく思った。
「おはよう、さゆ」
二人の悶着が終わったのを見計らって、純希は意識して笑顔を作り挨拶した。
「おはよう、じゅんお兄ちゃ……ん」
それに沙弓も笑顔で返す。
「おはよう」
続いて、薫が声を掛ける。
しかし、沙弓は無言のまま小春の後ろに隠れてしまった。
怖がられているのだ。
その態度に、薫はショックを受けた。
「さゆは人見知りなんだ」
ことの成り行きに苦笑いしながら、純希は説明した。
「この女子は、下野薫」
それから、薫を紹介する。
「僕らの友達で、同じマンションに住んでいるだ」
それを聞いた沙弓は、ようやく小春の後ろから出てきた。
「野上沙弓で……す」
それでも緊張しながら、沙弓は挨拶した。
「うん、よろしくね」
薫もまた意識してフレンドリーな笑みを浮かべた。
そのまま四人は、一緒に登校することになった。
「さゆは、クラスは何組になったの?」
「一年C……組」
「もう友達は……」
と言い掛けて、小春は言葉を止めた。
「できてないみたいね」
沙弓の顔が曇ったからだ。
「僕と委員長は三年A組で、小春はD組だから、なにかあったら言いに来て」
それを不憫に思った純希は優しく声を掛けた。
「ちょっと、塚田」
そこで薫が口を挟んだ。
「一年生が、三年生の教室に気軽に来れる訳ないでしょ」
そして、駄目出しをする。
「スマホは持ってる?」
薫は先ほどの教訓からできるだけ優しく語りかけた。
「入学のお祝いに買ってもらった」
沙弓はまだ少し怯えながら答えた。
「なら、メッセのIDを交換しましょう」
それにコクッと頷いた沙弓は、ジャンパースカートのポケットからスマホを取り出した。
「あたしたちも」
純希に目配りしてから、小春もポケットからスマホを取り出す。
頷いた純希もそれに続いた。
そして、四人はメッセのIDを交換した。
「ついでにこの四人でグループ作るか」
素早くスマホを操作して、純希はグループを作った。
「……」
しかし、まだ慣れていない沙弓は、操作に苦戦する。
「ここを……こうだよ」
それを横から見た純希は、優しくフォローした。
「ありがと……う」
沙弓ははにかみながら、お礼を言った。
「あっ……時間」
そこで薫がスマホの時計を見て、慌てた。
「急ごう」
純希はゆっくり走り始めた。
「さゆも」
そして、沙弓に声を掛ける。
コクッと頷いた沙弓は、純希たちの後を追った。
その日の四時限目の途中、純希のスマホが揺れた。
純希は真面目に授業を受けていたが、こっそりスマホをポケットから取り出すと、机の下で画面を見た。
送信者は小春で、一言、『ムラムラする』と書かれていた。
それを見た純希は冷や汗笑いをした。
それから、『もうすぐ学校が終わるから、それまで我慢できない?』と返信する。
すぐに既読が点き、『できない』と即レスが返ってきた。
(あっ……これは駄目なパターンだ)
純希はすぐに諦めた。
こうなると、小春は止まらないのを経験上知っていたからだ。
なので、『トイレと空き教室、どっちがいい?』と聞いた。
これまた即レスで、『空き教室』と返ってくる。
(もう三日してないもんなぁ)
そんなことを思いながら純希は、『じゃあ、いつものところで待ってる』と返信した。
すると小春から、猫が了解を敬礼するスタンプが返ってきた。
それを見て、純希はまたもや冷や汗笑いした。
今日もまだ新学期が始まって間もないので、午前中で授業は終わりだった。
帰りの学活も終わり、机の横にぶら下がったリュックを背負った純希は、教室を後にしようとしていた。
「塚田」
それを薫が止めた。
えっ? となって足を止めた純希は、後ろを振り返った。
「今日は、加藤の迎えを待たないの?」
「えーっと……」
薫の言葉に、不意を突かれた純希は、咄嗟に言葉が出ない。
「?」
それを薫は疑問に思った。
「小春は仕事があるんで、先に帰ったんだ」
ようやく回復した純希はそんなでまかせを言った。
「こんな時間から?」
「そうみたい」
首を傾げた薫に、純希は内心、ヒヤヒヤしながら誤魔化した。
「そうなんだ」
それが通じて、薫は納得した。
純希は、ホッとしようとした。
「じゃあ、一緒に帰らない?」
「えっ?」
しかし、薫の一言でまたもや不意を突かれる。
「生徒会は?」
今度は素早く回復した純希は、聞いた。
「今日はないよ」
(マズい……)
薫の答えに純希は焦った。
「僕も用事はあって、急いで帰らないといけないんだ」
なので、純希は一気に捲し立てた。
「一緒に帰るのは、また今度ね」
そして、薫の答えを聞く前に教室を飛び出す。
「……?」
残された薫は、鳩が豆鉄砲を食ったよう顔をしていた。
そのまま走って、純希は第一校舎の空き教室まで来た。
「遅いよ」
そこでは小春が、ムッとして待っていた。
「ごめん」
それに純希は素直に謝った。
「帰り際に委員長に捕まった」
「委員長に?」
純希の言葉に、小春は眉を跳ね上げさせた。
「バレなかったの?」
それから、一番大事なことを聞いた。
「誤魔化してきたから、大丈夫だと思う」
ちょっと強引に話を切り上げた自覚はあったが、まさか小春とするとは思わないだろうと純希は踏んでいた。
「じゃあ、しよっ」
その言葉に安心した小春は、純希に抱きついて甘えた。
「うん」
頷いた純希は、小春の顎を持つ。
小春は既に目をトロンとさせて、息も荒かった。
(出来上がってるなぁ)
思いながら、純希は自分の唇を小春の唇に重ねた。
「……くちゅじゅるじゅるじゅるじゅる……くちゅくちゅちゅぱ……じゅるじゅるじゅるじゅる……れろれろちゅぱ……」
純希と小春は、キスをしてすぐに舌を絡める。
「……れろれろちゅぱじゅる……じゅるじゅるじゅるじゅるじゅるじゅる……ちゅぱじゅる……じゅるくちゅ……」
それだけで、小春は背筋にゾクゾクとした快感が走る。
「ちゅぽっ……」
小春は唇を離した。
「もう我慢できない……」
そして、蕩け顔でおねだりする。
「頂戴……」
スカートの中に手を入れた小春は、ショーツだけを下ろした。
「うん」
それ見た純希も、ズボンのベルトを緩めた。
♢♦♢♦♢♦
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
行為が終わり、純希と小春は荒い息でぐったりとしていた。
”ガタン!”
そこで教室のドアが鳴った。
(見られた!?)
慌てた純希は、ボクサーパンツと制服のズボンを上げる。
それよりも早く、机の上から飛び出した小春が、教室のドアを開ける。
そこには、呆けた顔で、スカートの裾を乱した沙弓が座っていた。
「さゆ!?」
純希は驚きのあまり声を上げた。
「じゅんお兄ちゃん……こはお姉ちゃ……ん……」
それに沙弓は呂律の回らない口調で答えた。
目に焦点もまだ合っていない。
「見てたの?」
小春の問いに沙弓はコクッと頷いた。
「さゆ……これは……」
純希はなんとか誤魔化そうとした。
同世代の女子の中には、性的知識に疎い娘も多いからだ。
沙弓もきっとその一人であることに賭けたのだ。
「知ってる……よ」
しかし、純希の予想に反して、沙弓は言った。
「じゅんお兄ちゃんは、こはお姉ちゃんを開発してたんだよ……ね?」
沙弓の言葉に、純希と小春は、えっ? となった。
「さゆも、じゅんお兄ちゃんに開発してもらいた……い」
「はっ!?」
沙弓のトンデモ発言に純希は言葉を失った。




