三十、進級
寒い冬が終わり、桜咲く春が訪れた。
塚田純希は、進級して三年生になった。
もちろん、加藤小春や下野薫も一緒だ。
新学期が始まり、純希たちはいつものように一緒に登校した。
「今年こそ、純希と一緒のクラスになりたいなぁ」
フッと小春が呟いた。
小春は一年、二年と、純希とはクラスが別だったので、未だに一緒のクラスにはなれていない。
「そうだね」
それがわかっているから、純希も頷いた。
「わ、わたしも!」
すると、薫も、慌てて名乗り出る。
「委員長は、一年の時、一緒だったじゃん」
それを聞いた小春が、剥れる。
「そうだけど……」
そう言われて、薫は語尾を弱めた。
(もし、この三人が一緒になったら、いろいろ大変そうだなぁ)
そのやり取りに、純希は心の中で冷や汗笑いした。
学校に着き、下駄箱で上履きに履き替えてから、三人はクラス表が張られた掲示板へと向かった。
掲示板の周りには既に多くの生徒が集まっていた。
人波を掻き分けて、純希、小春、薫は最前列へと出た。
「えーっと……」
掲示板を見た純希は、自分の名前を探した。
と、A組に名前を発見する。
「あっ! 同じだ!!」
同じくA組に二人の名前を発見した薫が歓喜の声を上げる。
「小春は?」
「……D組」
純希の問いに小春はムッスリと答えた。
それを聞いた純希は、あちゃーと思った。
「委員長だけ、ズルイ」
やりきれない思いで、小春は薫に八つ当たりした。
「日頃の行いのおかげね」
それに薫は、意に介さない様子で勝ち誇った。
「そうがっかりしない!」
そこで、小春を背中から抱きしめる女子がいた。
親友の山野美都子だ。
「あたしがまた一緒だから」
不機嫌な小春を、美都子は慰めた。
「みっちゃん……」
小春は美都子に泣きついた。
そんな小春を美都子はよしよしする。
もちろん、茶番である。
「今年も同じクラスだね」
それを冷や汗笑いで見ていた純希に、内田弥一が声を掛けた。
「卒業までよろしくね」
純希は笑顔で応えた。
始業式も終わり、三年A組では、各係を決めるホームルームが行われていた。
「まず、委員長だが……」
クラス担任の大塚大介の言葉に、クラス全員の視線が一箇所に向いた。
そこには、薫が座っていた。
視線を感じた薫は、ウンザリそうな顔をした。
「……わたしがやります」
それから頭を振りながら、席を立つ。
「では、後は任せた」
前に出た薫に、大介は教壇を譲った。
「委員長に選ばれた、下野薫です」
教壇に立った薫は、まず自己紹介した。
本当はいらないのだろうが、薫の生真面目な性格がそれを許さなかった。
「時間もないので、早速、他の係を決めましょう」
クラス全体を見回しながら、薫は話を進めた。
「まず、副委員長ですが、立候補はいますか?」
その問いに、クラスがシーンと静まりかえった。
「いませんね」
口では冷静さを保っていたが、薫は内心、小躍りした。
「では、わたしが指名させてもらいます」
そして、教室の真ん中付近に座った男子を見る。
「塚田」
「えっ?」
不意を突かれて、純希はびっくりしたように薫を見た。
「やってくれない?」
その問いに、純希は思案した。
周りは、期待の目で純希を見ている。
裏を返せば、面倒ごとを押しつけようとする打算で満ちていた。
非情に断りづらい状況だ。
「わかったよ……」
そんな空気を読んで、純希は席を立った。
そのまま教壇まで歩く。
「じゃあ、黒板、お願いね」
思惑通りことが進んで、薫は上機嫌だった。
(面倒なことになったぁ……)
チョークを持ちながら、純希はこのあとの展開を懸念した。
今日は午前中だけなので、すぐに放課後がやって来た。
小春は、少し遠くなった純希のクラスに足を運んだ。
「純希、帰ろっ!」
教室の出入り口から中を覗いた小春は、純希の姿を発見すると元気に声を掛けた。
すると、純希はリュックを持たずに小春のところにやってくる。
「ごめん!」
そして、顔の前で手を合わせた。
「これから学級委員会かがあるから、一緒に帰れない」
「学級委員会……?」
謝る純希に小春は首を傾げた。
「純希、学級委員になったの!?」
遅れてことの重大さに気付いた小春は、思わず声を上げた。
「副委員長だけどね」
その驚きように、純希は冷や汗笑いした。
「ん……?」
それを聞いた小春は、ピンときた。
「もしかして、委員長は……?」
「…………下野」
小春の問いかけに、純希は言いにくそうに答えた。
「委員長!」
それを聞いた小春は怒りの形相で、教室に入った。
そのまま、薫の席へと向かう。
「図ったわね!」
「なんのことかしら?」
眉をつり上げた小春に、薫は何食わぬ顔で対応した。
「そろそろ委員会の時間だから、行くね」
そして、なにか言いたそうな小春を無視して、ノートと筆記用具を持つと席を立った。
「塚田」
「う、うん……」
薫の声に、純希は小春を気にしつつ、ぎこちなく頷いた。
純希は、小春に手でごめんと拝んでから、薫とともに教室を出た。
「……!」
一人残された小春は、怒り心頭で立ち尽くした。
委員会も無事終わって、純希は下校した。
薫は生徒会に顔を出すので、一緒には帰らなかった。
(昼飯抜きで、大変だな)
委員長になることは急遽決まったことなので、弁当は持参していなかったのだ。
それを考慮して、委員会は早めに終わったのだが、それでも校舎を出たのは午後二時を回っていた。
校門を出て純希は小春に、『終わった』とメッセを送った。
すると、すぐに既読がついて、『待ってる』と返信が来る。
純希は足早でマンションに急いだ。
途中、コンビニに寄っておにぎりを買った。
母には、委員会があると聞いた時点で、昼食はいらないと連絡してあった。
マンションに着き、純希は自宅には寄らずに真っ直ぐに加藤家の部屋に向かった。
合い鍵を使って、部屋に入る。
「いらっしゃい」
玄関に人の気配を感じて、長袖のTシャツに綿混のショートパンツという部屋着姿の小春がリビングから顔を出した。
「お邪魔します」
玄関を上がった純希はそのままリビングに入る。
「飯、食べてもいい?」
ソファーの上の小春の隣に座りながら、純希は聞いた。
「お昼ご飯、まだだったの!?」
「急に副委員長に選ばれたからね」
驚く小春に、純希は肩を竦めた。
「委員長の陰謀でしょ?」
それを聞いた小春は、本気で怒った。
「せっかく、今日はいっぱいできると思ったのに」
小春はお冠だった。
「でも、一回ぐらいはできるから」
ポケットから取り出したスマホの時計を見ながら、純希は慰めた。
「それに春休み中、いっぱいしたし」
純希の言葉通り、春休み中は、小春の勉強を見るということを口実に加藤家に入り浸り、ただれた生活を送っていたのだ。
「だからだよぉ」
小春は唇を尖らせた。
「もう、一回だけじゃ満足できなくなっちゃった」
「なんか、小春、仕事始めてから貪欲になったよね」
純希は冷や汗笑いをするしかなかった。
「そうなんだよねぇ」
その言葉に小春は頷いた。
「純希としないと、お客様と三回しても、満足できないんだよねぇ」
「あははははは……」
平然と言う小春に、純希は乾いた笑いを漏らした。
「食べ終わった?」
純希がおにぎりを平らげるのを待って、小春は聞いた。
「うん」
純希は頷いた。
「じゃあ、あたしの部屋、行こっ?」
待ちきれないとばかりに小春は誘った。
「うん」
それに心の中で冷や汗笑いをしながら、純希は再び頷いた。
「♪~」
ウキウキ気分で小春は自分の部屋へと向かった。
純希がそれに続く。
部屋に入ると、二人はいつものように向かいあった。
瞳と瞳が見つめ合う。
そのまま純希と小春は唇を重ねた。
「……れろれろれろちゅぱ……れろれろちゅぱれろれろ……れろれろじゅる……くちゅじゅるじゅる……」
いきなり舌を絡める。
「……じゅるくちゅちゅぱ……れろじゅるじゅるれろれろ……ちゅぱれろれろ……れろれろじゅるじゅる……」
恍惚そうに顔を上気させて、小春は舌を貪った。
「ぷはっ……」
しばらくの間、そうしてから、二人はどちらともなく唇を離した。
「脱ごっ?」
笑顔で言った小春に、純希は頷いた。
小春はまず、長袖のTシャツを脱いだ。
薄いブルーのブラが露わになる。
続いて、綿混のショートパンツを脱ぐ。
これで身体を隠すのは、ブラと緑のタータンチェック柄のショーツのみとなった。
そして、背中に手を回して、ブラのホックを外す。
「なんか、最近、ブラがキツいんだよねぇ」
ブラの肩紐を老手から抜きながら、小春は独り言のように呟いた。
「成長したんじゃない?」
ワイシャツのボタンを外しながら、純希はその言葉を拾った。
「ブラ、買い換えないと駄目かなぁ?」
ショーツの横のゴムに指を掛けながら、小春は言った。
「うん……サイズが合わないのをつけるのは、良くないって聞くし……」
ワイシャツを脱ぎながら、純希は応えた。
「痛い出費だなぁ」
ショーツを下ろしながら小春はぼやいた。
自分用と仕事用、両方を買い換えるとなるとかなりの金額になる。
小春は仕事で稼いだ金の大半を借金返済に充てているので、生活は意外にカツカツなのだ。
「経費で落ちないの?」
インナーのTシャツを脱ぎながら、純希は聞いた。
「あっ……その手があったか」
小春の目から鱗が落ちた。
「今度、聞いてみよっ」
言いながら、小春はベッドに上がった。
「うん」
頷きながらボクサーパンツを脱いだ純希も、ベッドの上に上がった。
♢♦♢♦♢♦
「はぁ……はぁ……はぁ……」
行為が終わって、純希は荒い息で小春の横にゴロンと転がった。
「はぁ……はぁ……終わっちゃった……」
息を整えながら、小春は残念そうに呟いた。
「明日もできるから……」
そんな小春に冷や汗笑いしながら、純希は言った。
「明日は同伴なんだよねぇ」
「えっ?」
小春の言葉に、純希は小さく驚いた。
「同伴、再開したの?」
その話は知らなかったので、純希は聞いた。
「うん……さすがにもう大丈夫だろうって」
小春はもっと前から再開を希望していたが、最近になってようやく許可が下りたのだ。
「……じゃあ、明日はできないや」
それに純希は気まずそうに言った。
「どうして?」
小春は首を傾げた。
一学期の序盤はずっと午前授業なので、たとえ同伴を入れても昼からなら一回ぐらいはできるはずだった。
「午後は入学式の会場設置を頼まれてる」
「委員長?」
その言葉に、小春はジト目で聞いた。
明らかに不機嫌そうだった。
「いや……委員長は関係なくは……ないけど……各クラスのクラス委員が駆り出されるみたい」
それを敏感に感じ取ったから、純希はしどろもどろになった。
「やっぱ、委員長じゃん」
小春はあからさまにムッとした。
「ついでに言うと、明後日も入学式の手伝いで、午後の予定が詰まっている」
こんなことを言うと小春の機嫌がさらに悪くなることはわかっていたが、それでも、毒を食らわば皿まで、と純希は全てをぶちまけた。
「えーっ!」
案の定、小春は不満そうな声を上げた。
「あたし、明後日も同伴入れちゃってるよ」
「まぁ、まぁ」
純希は弱り果てながらも、小春を宥めた。
「明明後日の午後は空いてるから」
「我慢できるかなぁ……?」
仏頂面で、小春は自問した。
「そこをなんとか……ね?」
それに純希は、困り顔で応じるしかなかった。




