二十九、欲求不満
二月に入り、三年生はいよいよ受験シーズン本番になった。
そして、一、二年生にとっては、三年生を送る会――――三送会の季節になった。
下校時間になり、塚田純希と加藤小春は、いつものように一緒に帰っていた。
「ところで、三送会、純希のクラスはなにやるの?」
「合唱」
小春の問いに、純希は簡潔に答えた。
「B組と一緒だ」
被ったと思ったのだろう。
小春は、あちゃーという顔をした。
だが、合唱は三送会の定番演目であるため、被るのも珍しいことではない。
「明日から、放課後は練習だって」
純希は、珍しくウンザリそうに肩をすくめた。
歌うのが得意ではないのだ。
「B組も」
小春もまた憂鬱そうに答えた。
だが、小春の懸念は歌うことではない。
「これじゃあ、放課後できないね?」
小春は悪戯っぽく笑った。
これこそが小春の懸念材料だった。
「仕事、終わった後じゃ、駄目?」
純希は、真顔で聞いた。
それもまた純希を憂鬱にさせている材料だったからだ。
「いいけど……抜け出せる?」
「大丈夫だと思う」
既に深夜に抜け出すのはこのところ頻繁にやっている。
平気だと純希は踏んでいた。
「じゃあ、待ってる」
その言葉に小春はニッコリ微笑んだ。
翌日から純希と小春は、放課後は三送会の練習に追われた。
帰りもバラバラで、純希はそれを少し寂しく思った。
そして、深夜。
小春から『今、帰った』とメッセが届いた。
自分の部屋をこっそり抜け出した純希は、ダイニングとリビングに人気がないのを確認してから、玄関へと向かった。
玄関のロックを外して、ドアノブに手を掛ける。
そのとき、
「純ちゃん」
純希は背中から声を掛けられた。
慌てて振り返るとそこには、母、塚田希美が仁王立ちしていた。
「こんな時間にどこに行くの?」
笑みを浮かべて、希美は聞いた。
だが、目が笑っていない。
「ちょっと小春のところに……」
その威圧感に、純希はつい、本当のことを口走ってしまった。
「やめなさい」
それを希美は止めた。
希美が、純希の行動を真っ向から否定するのは珍しかった。
なので、純希も母の本気度を理解した。
「今から行ったら、二人とも寝不足になるでしょ?」
まるで二人がなにをしようとしているか、見透かしたように希美は言った。
「それはよくないわ」
「……わかったよ」
こうなると純希には諦めるという選択肢しか残されていなかった。
部屋の戻った純希は、『外出バレた』と小春にメッセを送った。
すると、『じゃあ、今日は無理だね』と返事が返ってくる。
『母さん、怒ってから、当分、無理かも』と純希は残念そうにメッセを送った。
『そっか……』『なら仕方ないね』と小春は返信した。
(希美ママが、怒ったのか……)
その事実に小春は神妙な顔をした。
翌朝。
いつも通り、純希と小春は下野薫を加え、さらに父、塚田純生と母、希美とともに朝食を取っていた。
だが、その風景に薫は違和感を覚えた。
純希は小春の希美に対する態度がどこかよそよそしかったからだ。
「純ちゃん、おかわりは?」
「いらない」
「コハちゃんは?」
「もうお腹いっぱい」
しかし、希美はそんな空気は気にならないようで、いつもように二人に対して優しく接していた。
それでようやく純希と小春は、緊張を解いた。
「……?」
それでまた、薫は首を傾げた。
朝食が終わり、純希と小春、それに薫は一緒に登校した。
「朝、様子が変じゃなかった?」
そこで薫は、思いきって聞いてみた。
「別に……」
その問いに純希は誤魔化した。
「なんでないよ」
同じく小春も誤魔化す。
「ふーん」
絶対、なにかあるな、とは思ったが、薫は敢えて聞かないことにした。
放課後になり、二年B組では合唱の練習が始まった。
実行委員が用意した音源をスマホで流して、クラスメイトたちは歌を練習した。
「♪~」
幼いソプラノとテノールが教室に響く。
(今日は純希とできないのか……)
歌いながら小春は思った。
気分が落ちた影響は歌声にも影響した。
いつも元気な小春の声が届かず、親友の山野美都子は首を傾げた。
「コハちゃん、なにかあった?」
練習の合間に美都子は聞いた。
「ううん、なんにもないよ」
それに小春は、笑って誤魔化した。
本当の理由は言えなかった。
美都子にも、純希はただの幼なじみとしか言っていないのだ。
「なら、いいけど……」
腑に落ちない顔をしていたが、美都子はそれで引き下がった。
(こんなことぐらいで、気落ちしたら駄目だ!)
小春は己に活を入れた。
(今までだって、一日ぐらい開くことはあったじゃん)
そして、自分に言い聞かせる。
小春は雑念を捨てて、歌うことに集中した。
その日の夜。
仕事から帰ってきた小春は、部屋着に着替えてから、『まだ起きてる?』と純希にメッセを飛ばした。
すると、すぐに既読がつき、『起きてるよ』と返信が来る。
『こっち来れそう?』と小春は期待を込めてメッセを送った。
しかし、純希からは、『母さん、リビングで起きてるから無理そう』と返事が返った来る。
小春は、ちぇっと指を鳴らす猫のキャラクターのスタンプを送る。
既読がついて、しばらくして純希から冷や汗笑いする犬のキャラクターのスタンプが送られてきた。
「しょうがない……今日はおとなしく寝ますか」
小春は純希に、『おやすみ』とメッセを送ってから、ベッドに入った。
翌日の朝。
小春はいつも通りの時間に塚田家を訪れた。
ダイニングで純生と希美に挨拶してから、希美に純希を起こすように言われたので、純希の部屋へと入る。
そこで小春は、純希の掛け布団をいきなり剥いだ。
するとパジャマ姿の純希が露わになる。
その股間は朝の生理現象で勃起していた。
(このまま入れたら、駄目かな……?)
小春の脳裏にそんな思いがよぎる。
「ん……」
そうしているうちに、純希が寒くて目を覚ます。
「……なにしてたの?」
寝ぼけ眼で、純希は聞いた。
「なんでもないよ」
それを小春は、笑って誤魔化した。
「ご飯だって、起きよ」
「うん……」
小春の誘いに、純希はなんとなく腑に落ちない物を感じながらも頷いた。
時間は瞬く間に過ぎ、放課後になった。
今日も二年B組では、合唱の練習が行われていた。
すると、隣の教室――――二年A組からも歌声が聞こえてくる。
(純希の声が聞こえる……)
重なる声の中に、小春はハッキリと純希の声を聴き分けた。
(いつもなら、純希としてる時間なのになぁ)
そう思うと小春はムラムラしてきた。
(駄目! 駄目! こんなところで発情してたら!)
小春は自分を叱咤激励した。
(今晩は、できるかな……?)
それでも小春は期待をした。
その日の夜。
小春は仕事中だった。
とは言え、ベッドで二回、風呂場で一回して、今は客である宮野友彦と一緒に湯船でまったりしていた。
「今日の小夜子ちゃん、凄かったね」
小春を上に載せた友彦は感嘆した。
「そうでしょうか……?」
小春は照れながらも、首を傾げた。
「この前よりも乱れてたね」
「恥ずかしいです……」
友彦の言葉に、小春は頬を朱色に染めた。
本当は自覚はあった。
純希とできないことへの欲求不満を友彦にぶつけたのだ。
しかし、結果は不発に終わった。
(足りない……)
身体は満たされても、心のは満たされない小春だった。
翌日の金曜日。
小春は、母のお見舞いがあるからと、練習を休んだ。
小春の母が入院中だということは、クラスメイトは知っていた。
『純希も一緒にどう?』と小春はメッセを送った。
あわよくば、またトイレでしようと思ったのだ。
すると、すぐに既読がついて、『練習あるから無理』とつれない返事が返ってきた。
それを見た小春は少しムッとした。
そんな小春の心を読んだように『明日になれば、いっぱいできるから』と追加で返信が来る。
それで小春は一応、納得した。
そして、土曜日。
土日は塚田家では朝食を取らないのが慣例になっていた。
なので、小春は昨晩の帰りに深夜営業しているスーパーに寄ってもらい食材を買い込んだ。
今日は、純希も一緒に朝食を取るように約束したので、その分も含めて小春は朝食を作っていた。
そうしているうちに、玄関で人の気配がする。
純希が来たのだ。
「おはよっ、純希!」
ダイニングに入った純希に小春は上機嫌で挨拶した。
「おはよう」
その勢いに冷や汗笑いしながらも、純希は挨拶を返した。
(あれ?)
そこで純希は首を傾げた。
服の面積が小さいのか、小春の着ているエプロンから服が出ていなかったからだ。
「今、並べるから待っててね」
そう言って小春は背中を向けた。
「ブッ!」
それで純希は吹いた。
小春はエプロン以外の服を纏っていなかったからだ。
「こ、小春!」
純希は慌てた。
「なに?」
しかし、小春は素知らぬ顔で振り向くと首を傾げる。
「それって……裸エプロン……」
「フフフ……」
驚愕する純希に小春はニヤリと笑った。
「エロい? ムラムラする?」
そして、エプロンの裾を持つと煽る。
「う、うん……」
それに純希は、ぎこちなく頷く。
「食べたら……ね?」
そんな純希の反応に、小春は意味深に微笑んだ。
「う、うん……」
またしても、純希はぎこちなく頷くことしかできなかった。
小春の作った朝食は、ウナギとニンニク焼きだった。
「朝から豪勢だね」
そのメニューに、純希は冷や汗笑いした。
「純希には精力つけてもらわないとね」
それに小春は、ニコニコと答えた。
(搾り取る気、満々だな)
純希は心の中で、またもや冷や汗笑いした。
朝食を済ませて、小春は洗い物を始めた。
リビングのソファーに座りながら、純希は丸見えになった小春のプリッとした臀部を気にした。
プルプルと揺れる臀部に、純希は我慢できなくなった。
ソファーを立った純希は、小春のところに向かった。
♢♦♢♦♢♦
「はぁ……はぁ……はぁ……」
行為が終わって、ダイニングに荒い息が響く。
「純希ぃ……」
小春は蕩け顔で甘えた声を出した。
「まだ、足りない?」
息を整えながら、純希は聞いた。
それに小春は、コクッと頷く。
「ベッド行く?」
純希の問いに、小春は首を横に振った。
「リビングがいい……」
段々ハッキリしてきた頭で、小春は答えた。
「じゃあ、行こう」
純希が手を差し伸べると、小春はまたコクッと頷いてシンクを下りた。
「純希も脱ごっ?」
リビングで小春は、エプロンを外しながら言った。
「うん」
頷いた純希は、スエットの上と長袖のTシャツを脱ぎ捨てる。
「純希は……少し萎んじゃったね」
小春は、純希の股間を見た。
「大きくしてくれる?」
「うん」
純希のお願いに、小春は笑顔で頷いた。
そして、純希をソファーに座らせると、その前にかがみ込んだ。
♢♦♢♦♢♦
ソファーの上で純希と小春はぐったりとした。
「はぁ……はぁ……気持ち良かった…………」
小春は満足そうに呟いた。
「はぁ……はぁ……はぁ……なら、よかった」
そんな小春を、純希は優しげな目で見た。
「でも、まだ終わりじゃないよ」
小春は瞳に炎を燃やした。
「来週もできないから、今日のうちにやり貯めておくんだから」
そして、力説する。
「……ほどほどにね」
純希は、冷や汗笑いした。
その言葉通り、汗を流そうと入った浴室で、
♢♦♢♦♢♦
映画を見ようと、座ったソファーの上で、
♢♦♢♦♢♦
昼飯の準備をしている小春の背中に立って、
♢♦♢♦♢♦
「今日、後ろからが多くない?」
と小春が言うので、
♢♦♢♦♢♦
毎週末の日課である小春の勉強を純希が見ているときも、
♢♦♢♦♢♦
もちろん、服を着ている時間などない。
二人は一日中、全裸で過ごした。
「いやー、したした」
夕方になり、ようやく落ち着いた小春は、純希とソファーで手を繋ぎながら座っていた。
「満足した?」
「もう大満足だよ!」
純希の問いに、小春は大喜びした。
身体も心も満たされて、小春はご満悦だった。
そんな小春を、純希は笑顔で見る。
本当は、既に体力的にキツかったのだが、朝食と昼食――――スッポン鍋だった――――のおかげでなんとか持ちこたえられた。
「なら、よかった」
満足そうな小春に、純希は使命を果たしたあとみたいにホッとした。




