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麗子様は好き勝手に生きてやる!  作者: 古芭白あきら
第4章 中等部のみぎり・前編

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第138話 麗子様は当て馬イケメンにも動かない。


 大鳳学園に平和が訪れた。


 藤浪グループが息を潜めているからだ。これまで虐げられてきた外部生の顔も明るい。それはとても良いことだ。


 だがしかし——


「おい、麗子様のお通りだぞ!」

「何してる、早く道を開けろ!」


 私が楓ちゃんと椿ちゃんを引き連れて歩けばこれだ。


 お願いだから普通にしてーな。これじゃ大名行列か財前教授の総回診みたいじゃないのさ。


 生徒ならず教師までも壁際へと避けて、ガクブルっとる。まるでモーゼが海を割ったかのようや。


 我の螺旋力でストームサージを引き起こしたのかもしれん。いよいよ我の縦巻きロールも気象を操れるとこまできたらしい。


 そうなのだ。


『清涼院麗子に逆らうと家ごと没落させられる』


 そんな私の悪評が学園中に広まったのだ。

 それはもう初等部から高等部に至るまで。


 そのせいで、ご覧の通り。

 みんなが私を避けていく。


 あっ、あれって藤浪グループの子達じゃない。別になんもせんから、そんな真っ青になって逃げなくても良いのに。


「ふっ、愚民どもめ」

「ようやく麗子様の偉大さが伝わりましたわねぇ」


 私の両脇を固める楓ちゃんと椿ちゃん、なしてそんなに誇らしげやねん。


「藤浪さんも麗子様に太刀打ちできないと悟ったようですね」

「これで藤浪グループも大人しくなりますわぁ」


 あたしゃ春日局(かすがのつぼね)か松島の局かい!

 大奥の権力争いじゃないんだからさぁ。


 『触れるな危険』の看板を背負ってる気分じゃ。


 高圧電流か猛獣なんか、あたしゃ。


 しかも、この対応は菊花会(クリザンテーム)のサロンでも——


「お、お、お、お待たせいたしました」


 コンシェルジュの眼鏡っ子お姉さんが真っ青になって震えておる。


 あー、茶器がカチャカチャ鳴っとる。そんな怯えんでも、我はなんもせーへんでぇ。


「そ、そ、それでは御用がありましたらお呼びください」


 ぺこっと頭を下げて逃げちゃった。可哀想だから、もう呼べんな。


 くっそー、いまの眼鏡っ子狙ってたのに。さゆりんとゆかりんが懐かしいぜ。まったく、どーしてみんな人畜無害な美少女を怖がるのかしら。くすん。


 まあだが、良かったこともある。


 滝川と早見が近寄ってこなくなったのだ。

 二人して私から離れたところで座っとる。


 滝川め、親の仇でも見るかのように私を睨みやがって。我が素敵にダンディな滝川のおじ様を殺すわけなかろう。初等部の頃に逆戻りやの。


 早見の方は何か言いたそうにチラチラと視線を寄越してくる。まあ、そんなの無視だ無視。もう、お前らとは関わらん。つーん。


 またボッチになってもーたな。だが、初めから滝川と早見からは距離を取りたかったんだし、これで良かったのだ。


 別に寂しくなんてないんだからね。くすん。


 そーよそーよ、あの二人は敵なんだから。やっと平穏な生活が送れるってもんじゃない。


 別に強がってなんてないんだからね!


 はー、平和だなぁ……


「どいつもこいつもツマンネー奴らばっかだな」


 ……平和とは長続きしないものらしい。


 チラッと声の主を見上げれば、不遜な笑みを浮かべたイケメンが私を見下ろしていた。ちょっと傲岸不遜な雰囲気を醸し出してる。


「清涼院もそう思わねぇか?」


 実際、不遜だ。何の断りもなく、どさっと私の前に座りやがったよ。


「さあ、私には分かりかねますわ」

「くくっ、有象無象に興味はないってか?」


 ツンっと澄まして塩対応したのに、何故かおかしそうに笑いやがったよ。冷たくされると喜ぶマゾか?


「あんた、なかなか傲岸不遜な女だな」


 おめぇほどじゃねぇよ。

 全く、失礼なやっちゃ。


 私は無言で紅茶を啜り、茶菓子に手を伸ばす。


 ほう、これはピエール・マルコリーニじゃないですか。


 大鳳学園中等部はここと契約していて、大鳳学園の校章を刻印したチョコを卸してくれている。もちろん、チョコも店とは違う超一流品。


 パクッとな——うむ、美味じゃ。


 ……と、無視を決め込んでいるのに、いけすかねぇイケメンが去ってくれん。むしろ、面白そうにニタニタ笑って私を観察しとる。


 厄介なヤツに目をつけられたなぁ。滝川や早見と同様、こいつとは関わりあいとーなかったんじゃが。


 ——『岩丹(いわに)賢吾(けんご)


 髪は短く刈り込んでいる。身長は滝川より高くがっちりした体で、スポーツマン系イケメンだ。一見すると爽やか脳筋キャラっぽいが、中身は皮肉屋で頭も良い。


 しかも、岩丹家は羽林家で清涼院、滝川、早見グループに次ぐ大きな会社を経営している。岩丹賢吾はそこの御曹司だ。


 顔良し、頭良し、家柄良し、寄付金多し。


 岩丹は中等部から大鳳に入学した外部生だが、菊花会(クリザンテーム)に加わるに十分な条件を揃えているってこった。


 ちっ、イケスカねぇヤローだぜ。


 こんな濃いイケメンが原作に登場していないわけがなく……まあつまり、コイツも君ジャスのネームドキャラってわけ。


 定期試験でトップテンに入っていたから、いるのは気づいていた。


 こいつは庶民派のヒロイン、茉莉ちゃんに興味を持って「ふっ、おもしれー女」とか言っちゃう痛いヤツなのだ。


 いわゆる茉莉ちゃんを巡って滝川と争い破れる当て馬君である。

 つまり、悪役お嬢様の清涼院麗子とは敵対関係なのだ……原作では。


 こいつは危険よ。滝川と早見と同じく要注意人物や!


 それにしても、今までサロンに顔を出さなかったくせに、いったいどんな風の吹き回しだ?


「滝川様や早見様も素敵ですけど……」

「ええ、岩丹様もワイルドで素敵ですわぁ」


 レアなイケメンのご登場に周囲の女子がキャーキャー騒いどる。それをチラッと見て岩丹が鼻を鳴らした。


「ふんっ、うぜぇ女どもだぜ」


 態度悪いぞ、お前。


 モテてるんだから、もっと喜べよ。


「その点、清涼院は俺を見ても騒がねぇよな」

「騒がれたいのなら、あちらへ行かれたらよろしいのではありませんの」


 あっち行け。しっしっ!


「清涼院は俺が嫌いみたいだな」

「好かれる要素があると?」

「たいていの女は俺に言い寄られれば喜ぶぜ」


 ちっ、これだからモテ男は嫌いなんだ。女子は自分に言い寄るもんだって勝手に思ってやがる。


 イケメンっていつもそうですね…!

 女の子をなんだと思ってるんですか!?


「私は嬉しくとも何ともありませんので他をあたってくださいまし」


 っていうか、はっきり言って迷惑なんじゃ。


 岩丹は他人を見下したとこのある自信家で、ちょっと不良っぽいとこがミステリアスだって人気のあったキャラなんだが……はっきり言って、私は生理的に受け付けん!


「やっぱ、清涼院は他の女とは違うな」


 なのに、どーして絡んでくるのよ。


「なあ、滝川や早見とケンカしたんだろ?」

「ケンカするほど仲は良くありませんわ」


 あいつらとは赤の他人や。


「くっくっく……なるほどな」


 岩丹は何がおかしいのやら、忍び笑いを漏らして一人納得しとる。私は至極当たり前のことを言ったにすぎないのにな。


「あの二人さえ歯牙にもかけてないってわけか」

「私はミーハーではありませんの」

「やっぱいいぜ、お前」


 岩丹がぎらついた目をして口の端を吊り上げた。


 ——ぞわっ!


 なんや?

 いま、スッゲェー悪寒が走ったぞ。


「清涼院、お前さ、俺の女になれよ」

「はぁ?」


 コイツ、なにをとち狂っとるねん。


「お前みたいないい女は中々いないからな」

「あら、あなたも中々お目が高いようですわね」


 なるほどなるほど、我の美貌に目が眩んで絡んできたんか。それは仕方がないな。なんせ我は絶世の美少女だからな。その眼力に敬意を評して、これまでの非礼は許そう。


「ああ、俺は滝川や早見よりいい男だぜ」

「そうですわね」


 岩丹は家格こそ羽林家と劣るが、飛ぶ鳥を落とす勢いの岩丹グループの御曹司ってとこはポイントが高い。


 岩丹賢吾本人を見てもスポーツ万能、成績優秀なイケメンだ。これは完全にスパダリじゃないですか。


 さすが少女漫画の当て馬君だ。

 大した好物件じゃないですか。


「じゃあ……」

「ですが、謹んでお断りいたしますわ」


 だが、断る!


「私、ひょいひょい男に靡く安い女じゃありませんの」

「なっ!?」


 岩丹絶句。


 おーほっほっほ、この清涼院麗子が最も好きな事の一つは、イケメンと思い込んでる奴に「NO」と断ってやる事よ。


 あー、気持ちいー。


 だいたい、好物件というなら、我がお兄様の方がもっと超好物件やからな。キサマ如きが我に粉をかけようなど烏滸がましい。


「それに、岩丹様は大きな勘違いをしておりますわ」

「俺が、勘違い?」


 こいつの審美眼も大したことないのぉ。


「私みたいな女は、中々ではなく他におりませんのよ」


 一昨日来やがれと突きつけられた岩丹は鳩が豆鉄砲を食ったような顔で固まった——


「くっくっくっ……あははは!」


 と思ったら、急に声を立てて笑い出しやがった。何がそんなにおかしいんや?


 しかも、まるで肉食獣が獲物を見つけたような目を向けて、岩丹が舌舐めずりまでしやがった。


 その表情はマンガで見覚えがあるぞ。


「ふっ、おもしれー女」


 おい、やめろ。その痛いセリフはヒロインに吐けや!


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