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16.おチビちゃんの挑戦その4-2

(やっぱいいな、サッカー)


 生で試合を観るのは久しぶりだった。

 おチビちゃんのチケットは、買ったら結構高いんじゃないかと思うくらいにいい席で、フィールド全体が間近ながら良く見渡せる。


「あっ、違うでしょっ。そこじゃなくて……」


 最初こそ小声で呟いていたおチビちゃんだったが。


「そこっ!そうそう、そこでパスっ……よしっ!……あぁもぅっ、詰めが甘いっ!」


 次第にヒートアップしてきたのか、周りの歓声に負けじと声を張り上げ始める。

 おチビちゃんは、サッカー好きなんだな。

 最初はそう思っただけだったが、その、選手への指示のような応援がものすごく的確であることに俺は気付いた。


「ナイスパスっ!」


 ホームチームの選手のスルーパスが通り、ボールが相手ゴールへと一気に運ばれる。

 おチビちゃんは目を輝かせ、手を叩いて大はしゃぎだ。

 その姿はまるで。


「なぁ、おチビちゃん。」

「なによっ?!……あぁぁっ、惜しい~っ!」


 思い切り蹴られたシュートは、惜しくもゴールポストに跳ね返されて、フィールド外に弾き飛ばされている。


「今、何か言ってた?」


 ひとしきり悔しがった後、思い出したように俺を見るおチビちゃんに、俺は尋ねた。


「お前もしかして、サッカー部のマネージャーとか、してた?」

「……なんで?」

「いや、なんとなく」

「……そう」


 それから間もなく試合はハーフタイムに入り、周りの人たちが動き始めた。

 おチビちゃんのテンションが明らかに下がっているのは、ハーフタイムに入ったからでは無いだろう。

 ぼんやりと、選手がいないピッチを眺めていたおチビちゃんが、ポツリと呟いた。


「ボールを追って走ってる高宮 漣の姿、ものすごくカッコ良かった」

「え……」

「初めて見た時、私、一目惚れしたの」


 おチビちゃんと俺は、違う中学の出身だ。

 いったい、いつサッカー中の俺の姿を見たと言うのか。


「練習試合の対戦相手だった。当たりよ、高宮 漣。私、サッカー部のマネージャーだった」


 そう言って、おチビちゃんは寂しそうに笑う。


「覚えてくれてたのかと思ったのに。やっぱり頭悪いのね、高宮 漣」


 知るか、そんなの。


 出来うる範囲で当時の記憶を探ってみたものの、俺の記憶の中にはおチビちゃんの姿は無かった。

 無かったのは、おチビちゃんの姿だけではない。

 サッカーバカだった俺が、練習とは言え、試合中に相手チームのマネージャーなんて、気にしている訳がないのだ。

 それなのに。

 置いていかれた子供みたいな顔しやがって。

 まるで、俺が悪者みたいじゃないか。


「小さ過ぎて見えなかったんだろ」

「……ほんっと失礼ねっ、高宮 漣!」


 おチビちゃんが、ムッとしたように俺を睨む。

 睨まれていい気はしないが、寂しそうな顔をされるよりは、よっぽどいい。

 などと思う俺は、きっと、どうかしている。


「サッカーやめたって聞いた時、ちょっと残念だなって思ったのよ。だって、私が一目惚れしたのは、ピッチの上の高宮 漣だったから。でも、思ったのよね。サッカーしてない高宮 漣て、どんな人なんだろうって。すごく興味が湧いたの」

「それで、ストーカー始めたのか」

「うん……ちがっ!違うわよっ!何度言ったらわか」

「で、どうだった?サッカーしてない俺は」


 サラッと聞いたつもりだった。

 だが、おチビちゃんが答えるまでの間が、やけに長く感じた。


「なんでもなさそうにしてたみたいだけど」


 言葉を選ぶように、おチビちゃんはゆっくり答える。


「でも、私には」


 ピーッ!


 後半戦の開始を告げる笛が鳴り響く。続いて起こる、大歓声。

 周りの音にかき消されておチビちゃんの声は聞こえなかったけど。


  寂しそうにしか、見えなかった。


 そう言ったように、俺には思えた。

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