第4話「11番人気の作戦会議」
第一章は初日に一挙公開
第二章からは、一日一話、朝七時公開です。
八月。新潟競馬場。
二歳新馬、芝千八百メートル。十二頭立て。モモジリビジン、十一番人気。
単勝、百三十倍を超えている。
(知ってた。知ってたけど、自分の単勝が百三十倍なのは心にくるな)
パドックを周回しながら、俺は作戦を最終確認していた。
新潟の外回り。最後の直線は六百五十メートルを超える。日本一長い直線だ。
普通はこう考える。「直線が長いなら、後ろから差す馬が有利だ」。
だが、それは罠だ。
(新馬戦は、みんな初めてのレースだ。騎手は全員、馬に無理をさせたくない。だからペースは遅くなる。ペースが遅ければ、前にいる馬は余力を残したまま直線に入れる)
つまり前だ。二番手で脱力して、直線を半分過ぎたところで抜け出す。
しかも俺は、このレースの結果を知っている。史実の俺は、二番手から勝っている。
(完璧だ。知識と史実の一致。勝利の方程式が、今ここに完成した)
――モモジリビジンが勝てたのはこのレースだけ、ここで負けたらこの先どうなるかわからない。ここは負けられないレース。ここさえ勝てば後は負けてもいいんだから。
「よーしモモジリ、今日は後ろでじっとして、直線で一気にぶち抜くぞ。新潟は直線が長いからな」
背中の喜城が、得意げに言った。
(だめそうな奴が、俺の背中に乗ってる!)
◇
ゲートが開いた。
喜城が手綱を引く。「後ろへ下がれ」の合図。
無視した。
「えっ、おい、ちょっと!?」
グイグイと前へ出る。一頭が逃げ、俺はそのすぐ後ろ。二番手。計画どおりだ。
『さあスタートしました二歳新馬戦! 二番手につけたのは十一番人気モモジリビジン! 騎手は必死に引いている! しかし抑えが効かない! 掛かっているー!』
ペースは遅い。予想どおり。道中はじっと我慢。三コーナー。四コーナー。
そして――直線。六百五十メートルの、果てしない緑。
(今だ! ここで仕掛ける!)
脚に力をこめる。人間だったころ、願いを込めて画面に叫んだイメージどおりに。美しく、力強く飛ぶ、あの馬のように。
……飛ばない。
というか、伸びない。
(あれ? あれあれ? ここで絶好の手応えで伸びる予定ですが?)
計算は完璧だった。ただし、俺の脚は一勝馬の脚だった。
逃げ馬を交わす。しかし、外から一頭、ぐんぐん迫ってくる。
(やばい来た来た来た! 粘れ粘れ! 俺粘ってくれ!)
肺が焼ける。脚が鉛のように重い。それでも、まだ終わっていない。
最後の瞬間、首を下げた。
そのままゴール板を、駆け抜けた。
◇
掲示板に、番号が点いた。
一着、七番。モモジリビジン。着差、クビ。
スタンドが、少しだけどよめいた。百三十倍だ。どよめかない方がおかしい。
胸の奥から、熱いものがせり上がってくる。
「俺だ!俺こそが――ウマム〇メ(本物)だーーーッ!!」
「ヒヒーーーン!!」
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