第10話「モテ方講座」
諸事情により、今日は二話公開です
師匠の特訓は、調教の合間の、ほんのわずかな時間に行われた。
「まずは目よ」
坂路のふもとで、師匠が言った。
「牡馬を見るときは、正面から見てはだめ。少しだけ顔をそらして、目の端で見るの。流し目よ」
(流し目……目の端で……)
俺は顔をそらし、目の端に力を込めた。
「……白目をむいているわ」
「えっ」
「白目しか見えない、気持ち悪いわ」
通りかかった田中さんが、悲鳴を上げた。
「モモ!? 目、どうしたの!? 獣医さーん!」
一時間後、俺は目薬を差されていた。
◇
「次は歩き方よ」
師匠は、優雅に一歩を踏み出してみせた。尻が、ゆるやかに左右に揺れる。
「お尻で語るの。あなた、せっかくいい形をしているのだから、使わないともったいないわ」
(尻で語る……)
俺は全力で尻を振った。前世の忘年会で、部長が余興にやっていたK-POPダンスを思い出しながら。
クイッ。クイッ。クイクイッ。
「…………」
師匠が、一歩後ずさった。
さっきまで遠巻きにこちらを見ていた牡馬たちが、一斉に目をそらした。一頭は、何も言わずに馬房へ帰っていった。
「……今のは、何?」
「色気です」
「宴会の匂いがしたわ。脂ぎった、中年の、宴会の匂い」
(なんでわかるんだ……!)
そこへ、大門先生が通りかかった。
「……モモの歩き方、おかしくないか? どこか痛めてる? 跛行かもしれない」
一時間後、俺は脚のレントゲンを撮られていた。
◇
「最後は、雰囲気よ」
三日目、師匠は腕を組む代わりに、首をかしげた。
「あなた、見た目は悪くないのよ。毛並みもいいし、目も大きいし、お尻なんて大したものだわ。なのに、なぜかしら。色気が、まったくないの」
「はあ」
「なんというか……中身が、おじさんなのよ」
(鋭い! この女王、鋭すぎる!)
「色気というのはね、内側から出るものなの。あなたの内側からは、なぜか加齢臭がするわ」
「加齢臭……」
「あと、シーシー言いながら、つまようじ使っていそうな気がするわ」
(やってた……! 毎日、昼飯の後に……! 歯茎からよく血がでて、それを経理課の皆に見せるのが好きだった。若林だけは笑ってたな。そういえば、あいつどうなったんだろ……)
その日の夕方も、俺は獣医に呼ばれた。何もしていないのに、田中さんが心配して呼んだのだ。
獣医の先生は、俺の顔をじっと見て言った。
「この子、最近よく呼ばれますね」
(俺もそう思います)
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