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セカンドシーズン ─好きな人を、真っ直ぐに。─ 〜第一章〜高1編〜  作者: 波方 真季


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第40話 リアコ実行委員会、引退!


そして後日、次のディンバードーナツにて。


いつもの席。

いつもの顔ぶれ。

なのに、どこか空気が落ち着かない。


「うわ〜!!まっじか!それ詰んでるね」


「もはや何か闇あるんじゃねーか説だな」


「なにそれ!闇かっこよ!」


「意味わかんねーよ!」


咲と蒼太の言葉に対して相変わらずの陽向。

それにすかさずツッコミを入れる朔也だった。


いつも通りの軽口。

なのに、その声の奥に微かに苛立ちが滲んでいた。


「だいたいお前あんなの聞かされて、実質失恋だろ!なんでノーダメージなんだよ!」


「えー?失恋かぁ…まぁ失恋っちゃ失恋だけど、私が直接振られたわけじゃないからなぁ〜」


「それじゃ実感湧かないよね」


陽向は、ストローを咥えたまま少し考えてからあっさりと言った。

その言葉は、あまりにも軽い。

それに咲は肩をすくめた。


蒼太の冷静な声が落ちる。


「まーでも手詰まりじゃね?もうこれ以上はどーこーしようがない。陽向の恋が今後実る見込みは無さそうだけど、陽向としては…それでも好きなんだろ?」


感情よりも状況を先に整理する。


「うん。まぁ別に最初から、どーしても付き合いたい!とか、絶対彼女になる!ってノリでもぶっちゃけないんだよね。」


そう言って両手で頬を包み、首を傾げる。

窓から差し込む夕焼けが、陽向の横顔を柔らかく染めた。


「先輩を好きでいる事そのものが、私の幸せなの♡」


その一言が、空気を変えた。


「それじゃだめなんだよっっっ!!!!」


朔也の声が、店内に響く。


「なんだよ朔也、急にでかい声張り上げて…」


蒼太の問いに、朔也は一瞬言葉を詰まらせた。


「あ…いや……だって、恋愛のゴールは両想いになって、付き合う事だろ!…俺は、そーゆー中途半端なんが気持ち悪いんだよ!…っなんでも物事は、白黒付けたいだけだ。」


吐き出すような言葉。

それは理屈であり、同時に自分自身への言い訳だった。


「まー…確かに今のままじゃ、陽向の人生初彼氏までの道のりは遠そうだよねぇ〜」


「そ、そーだよ!白黒つけれゃ気持ちもスカッとして、次の恋も出来んだろ!!」


咲が悪気なく笑うも、朔也は必死だった。


その瞬間。




「は?次の恋?あるわけないじゃん。先輩は一生私の推しであり、失恋しよーが振られよーが、推しは推しで推し続ける事には変わりありませんから。」




そのままチューッと、ストローを吸う陽向。


揺るがない宣言。

それは恋愛の言葉ではなく、信仰に近かった。


「…ぐ…っ…この…やろ…」


朔也の奥歯が、ギリ…と鳴る。


「お、おい朔也落ち着けよ、どーしたんだよ」


蒼太が慌てて止めに入る。


「人の…これまでの助太刀を…何だと思ってやがんだ…」


「陽向は一生独身かもね♡」


咲のひと言は、トドメを刺した。


バンッ


テーブルを叩く音が、短く響く。


「もういい!!お前が一生独り身だろうが!!今後どんだけ垢入りしようが!!俺は金輪際ノータッチだ!!もう知らねーからな!!」


「はぁ?別に最初から頼んでないから!!」


「お前のリアコ実行委員会は、これにて2度と引退だ!!!」


「あっそ!!どうぞご自由に!!清清するわ!!」


「バイト行く!!!」


朔也は椅子を引き、怒りをそのまま背中に乗せて、店を出ていった。

ドアベルが、やけに大きく鳴る。


「……なに怒ってんの?」


陽向は、キョトンとした顔で呟く。


「「………さぁ〜?」」


咲と蒼太の心は、見事な二重奏だった。


((…朔也………無念。))


「えっ…てか私もバイトじゃん!朔也に置いてかれたー!!!」


陽向は慌てて立ち上がり、慌ただしく朔也の背中を追いかけていった。


残された二人。


「朔也、だいぶこじらせてんな」


蒼太が、ぽつりと言う。


「本当、素直じゃないよね」


「え、咲もわかってんの?」


「当たり前じゃん。ずーっと気づいてるよ」


「歪んでるけどわかりやすいもんな」


「それな?でもそこツッコんじゃうと、100パー全否定するっしょ」


「だろうな 笑」


短い笑いが落ちた後、咲の表情がふと影を帯びた。


「陽向みたいに……好きな人を…真っ直ぐに好きって想えるの…羨ましいな」


蒼太の胸が、ざわりと揺れた。


「彼氏の事、好きじゃないの?」


「…………うーん……」


はっきりとしない咲の反応に、蒼太の心拍数は徐々に上がっていく。



──その間、やめてくんねーかな。



「この前また浮気されてさ、なんか疲れちゃった」


はぁ…と息をつく咲の表情は曇っている。


「でも最終的にまた許しちゃったから、好きなんだとは…思う」


そのひと言が蒼太の胸にちくりと痛みを伴った。


「……まぁ、好きならしゃーねぇな」


その言葉は咲へ向けたものだったけれど。

蒼太の中で、どこか自分自身へ対して言っていた。



────────。



12月中旬。

季節は、迷いなく本格的な冬へと足を踏み入れていた。


空はまだ白みきらず、吐く息だけがやけにくっきりと見える朝。

アスファルトは夜の冷えをそのまま閉じ込めたように冷たく、街全体が縮こまっている。


学校へ出発する朝。

朔也が鳴らしたインターホンで、自宅の玄関扉を開いて一歩外へ出た瞬間。

陽向は思わず肩をすくめ、悲鳴にも近い声を上げた。


「さぶっ!!やば!!はにわしよっ!!」


冷たい空気が、容赦なく太ももに噛みつく。

ミニスカートの隙間から侵入した冷気に、身体が反射的に拒否反応を示した。


踵を返して、ほとんど逃げるように玄関へ引き返す。


ボスッ。


スクールバッグが、掃き出し口横の椅子に投げ出される。

ファスナーを開ける音が、静かな玄関にやけに大きく響いた。


そして陽向はバッグの中からジャージのズボンを引っ張り出す。



玄関の扉は、全開。



そして——

何の躊躇もなく。


「…ちょ…おま——」


朔也が声を漏らした瞬間。

あろう事かミニスカートの下から片足をズボッとジャージズボンへ突っ込んだ。


「………っっっ!!!!」


思考が、一瞬真っ白になる。


反射的に視線を逸らそうとして、逆に逸らせなかった自分に気づいて、朔也は舌打ちを噛み殺した。


「おい!!玄関くらい閉めろよ!!」


慌てる朔也。

陽向は一瞬キョロキョロと周囲を見渡した。


「……別に誰も見てないよ?」


「俺がここにいんだろっっ!!」


思わず被せるように言ってしまった声は、自分でも驚くほど焦っていた。


陽向は一瞬だけ朔也の顔を見て、それから、ふっと口角を上げた。


「私のパンツなんて1ミリも価値ないんでしょ?」


朔也が以前、陽向に何気なく無神経に投げた言葉だった。

シレッとその言葉をほじくり返すように言いながら、陽向は何事もないようにミニスカートの中で器用にジャージを引き上げていく。

布が擦れる音すら、やけに生々しく聞こえた。


「………〜〜〜〜〜っっっ」


喉の奥で、言葉にならない感情が詰まる。


自分で陽向にそうは言ったものの、年頃の男子の目の前で着替える事になんの抵抗もない陽向に苛立ちを覚える。

そして、自分が“異性”という認識を全くされていないという事実を突きつけられる。


この完全なる“家族枠”。

安心で、安全で、境界線の内側感。



もう…どう覆したらいい………。



胸の奥に、冷たいものが溜まっていく。


玄関の外から吹き込む冬の風が、まるでその感情を嘲笑うみたいに、足元を撫でた。


「おしっ、行くかー」


朔也の複雑な心境を他所に、陽向はマイペースに自転車へ跨っていた。


何も気づいていない声。

何も残していない声。


陽向はもうマフラーを巻き直して、先を走る。

朔也は一瞬だけ、その背中を見つめてから無言で自転車へ跨った。


冷たい朝だった。

けれど、それ以上に——

胸の内が、ひどく冷えていた。



────────。



二学期終了直前。


年末が近づくにつれて、学校全体がどこか浮き足立ち、それでいて終わりを待つような静けさも孕んでいる。


綾真はその空気の中でひとり、一度折れた闘志を再び燃やしていた。


夏休み。

偶然が味方したあの日を、綾真は何度も思い返す。


部活終わり、体育館の熱気の中でばったり会った陽向。

たまたま水筒を忘れて外に出た、その一瞬の奇跡。

そこから始まった、ファミレスでの夜デート。


しかし、年末年始期間に部活動は無い。

図書室の解放も無い。

冬休みに学校に行く機会は、圧倒的にに少ない。


そんな中で、偶然頼りの会える可能性なんて──



限りなくゼロだ。




チャンスは、自分で掴みに行くしかない。


綾真は折れない、諦めない。




「レオ元気?」


いつもの休み時間の雑談中。

綾真は陽向にレオの話題を振って腹を括った。


「元気だよー!ワクチン終わって最近お散歩デビューもしたし、お座りとか、待てとか、色々マスターしたのー!もーちょーお利口なんだよーっ♡」


嬉しさがそのまま溢れ出たような笑顔。

言葉の端々に、レオへの愛情が滲んでいる。


綾真は胸の奥が、じんわりと温かくなるのを感じた。


嬉しそうにテンションを上げる陽向へ綾真は、その勢いのままにストレートシュートを投げ込んだ。


「まじかー!レオに会いたいなぁ〜」


「会いに来てよー!」


いや、軽っ!!


綾真の放ったシュートはあっさりゴールインした。


「冬休み中行っていい?」


「いいよーいつ来るー?」


そう言って、陽向はもうスマホを取り出している。

綾真を招き入れることに、何の躊躇もない。


(まじかよ……)


そして綾真は、ふと一つ気になったことを口にした。


「因みに修了式の日ってクリスマスだけど……星野はその日どーしてんの?」


陽向はあっさり答える。


「普通に家族と。うちママと2人だから、私が居ないとママがクリぼっち。」


その言葉に、胸が少し締めつけられる。


「星野って優しいんだな………」


思わず本音が漏れた。


(流石に彼氏でもないのに…クリスマス一緒には過ごせないか……)


一瞬、期待しかけた自分を、そっと引き戻す。


それでも。


会える。

冬休みに。

彼女の家で。


それだけで、十分すぎるほどだった。


その後も他愛もない会話を続けながら、気づけば約束はあっさりと形になっていた。

拍子抜けするほど簡単に、綾真は冬休みに陽向とのお家デートを取り付けた。


冬の始まりの冷たい空気の中で、綾真は、再び前を向く。







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