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セカンドシーズン ─好きな人を、真っ直ぐに。─ 〜第一章〜高1編〜  作者: 波方 真季


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第36話 ヒーローになる時、それは今!


その後も、綾真は凄まじい恋のパワーを発揮した。


クラス対抗リレーでは、バトンを遅れて受け取ったにもかかわらず、他クラスのアンカーを次々一気にぶち抜いて、校庭を切り裂くように駆け抜けて一位でゴール。


息を切らしながらも振り返ったその視線の先には、いつも歓声の中心で跳ねる陽向の姿があった。

自分を見てると思った瞬間、疲労なんて感覚はどこかへ吹き飛んだ。


他の競技でも、綾真は躍動した。

走って、跳んで、競って、勝って。

身体が悲鳴を上げる前に、気持ちのほうが前へ前へと引っ張っていく。


青、赤、黄、緑、紫。

五色のクラスが競い合う中。

一年二組の大健闘により、今年の体育祭は赤組が見事優勝を勝ち取った。


そして閉会式。


全校生徒から毎年一人選ばれる体育祭MVP。


夕方の校庭に少しだけ冷えた風が吹き抜ける中、呼ばれた名前は迷いなく——


鷹井綾真。


拍手と歓声が、どっと押し寄せる。

照れも、誇らしさも、全部まとめて受け止めながら、綾真は表彰台に立った。


胸の奥が、熱くなる。


完璧な舞台。

完璧な流れ。


これ以上ないという程の大ヒーローとして活躍を果たして、完璧な告白の土台を自らの力で作り上げたという確信が宿った。


本来であれば体育祭MVPから告白されるなど、女子としてはこんなにも嬉しい事は無い。


実際、この体育祭をきっかけに綾真の名前は一気に広まり、同学年だけでなく先輩女子からもファンが出来て黄色い声が飛ぶ。


そんな激アツともいえる波に乗りに乗っている綾真からの想いを知った陽向は、果たして心を動かされるのか。

陽向の胸がキュンと鳴り、恋の矢は大きく方向転換していくのか。




結果は今夜、全てが決まる。




────────。



そんな熱狂の一日が終わり、夜。


体育祭の打ち上げから帰宅しても、綾真の胸の高鳴りは収まらなかった。

シャワーを浴びても、ベッドに寝転んでも、身体の奥に残った熱が抜けない。


どんなシチュエーションで、どんな台詞で、どうやって告白しようかと思考を巡らせる。


体育祭が行われた今日は土曜日。


月曜日。

それが、次に会える日。


しかし…二日空いてしまうと、今日見せた活躍への熱気は霞んでしまわないだろうか。


しかも、これまでずっと友達としてあまりにも近かった距離。


直接会って言えば、照れさせてしまうかもしれない。

改めて彼氏彼女になる事に、彼女の中で現実味が追いつかなくなってしまうかもしれない。


考えれば考えるほど、不安ばかりが増えていく。


これまでずっとポジティブに走り続けてきた綾真だったが、いざ告白本番となると緊張してネガティブな事ばかりを考えてしまう。


頭の中はぐちゃぐちゃで、思考が絡まり、出口が見えなくなる。


そのうちに、余計な事を考える事を放棄した綾真はひとつの答えに辿り着いた。



いや、もう今すぐ付き合いたい。



障害物競走のゴールテープを切った後、減速する事も出来ずに陽向へ向かって一直線に走り抜けた綾真の想い。


体育祭の熱をそのままに、減速なんて出来るわけがない。

この熱は、冷まさせない。


今日付き合って、明日の日曜日はデートして、月曜日は一緒に手繋ぎ登校したい。




もうこの想いを、今すぐ伝えよう。




次に会えるのが月曜日だなんて、待てねぇよ。





綾真はスマホへ手を伸ばした。



”起きてる?”



ひとまず一旦、そのひと言だけのLINEを入れた。

予想外にもすぐに既読がついた瞬間、心臓が跳ね上がった。



“起きてるよー”


“寝かけてた”



ポン、ポン、と連続してメッセージが入ってきた。


タイミング…ミスったかな。


いや、寝かけてたという事は、彼女が今一番リラックス出来ている状態という事だ。


何か作業をしているわけでもない。

読書やゲームをしていたわけでもない。


全ての意識をこちらのとのやり取りに向けられて、尚且つ寛いでる時が一番自分の気持ちに素直になれる瞬間なのではないだろうか。



今しかない。



“疲れてる?”


“いやそーでも!綾真の方が疲れてるっしょ”


“全然”


“体力オバケかよ”



他愛もないやり取りが続く。

画面越しでも、彼女の声が聞こえる気がした。


綾真はタイミングを見計らう。


そして遂に切り込んだ。



“星野って、彼氏いんの?”



LINEはすぐに返ってくる。



“いないよー”



よしっ!

居ないことは予想してたが、改めてわかるとやっぱり嬉しかった。


なるべく構えさせない方がいい。

重くもしない。

緊張させず、雑談の延長みたいな感じで。


綾真は固唾を飲んで、勇気を振り絞った。





“だったら星野、俺と付き合わね?”






────────。





ポンッ


陽向の手元のスマホに、そのメッセージは入った。


すぐに開いて既読をつける。



“だったら星野、俺と付き合わね?”




「……………。」




陽向の指が止まった。






(………出た。罰ゲームだ。)





先ほどの体育祭の打ち上げで、男子の席でゲームをしていたのを確かに見た。


陽向は虐められていた中学時代に植えつけられていた。




男子が自分へ告白=罰ゲームという方程式。




その感覚は、根本から染みついている。

これにマジレスすると、スクショされてグループLINEに拡散される。

そこまでセットで根付いてる。


(うん。気にしないのが一番っ!)


寝よ。


そして陽向はそのままスマホをポイっと枕元へ投げて、すぐさま深い眠りについた。


こうして綾真の、体育祭へ命を燃やした一大決意の告白は、陽向の中の“日常の一部”として処理された。


その頃綾真。


「……………。」


スマホの画面は、静まり返ったままだった。


なぜ。


すぐに既読はついた。


これまで、LINEのラリーは軽かった。

テンポよくて、間が空いても一、ニ分。

スタンプ一つでも返ってきた。


それなのに。


なぜ。


なぜ、このタイミングで。


告白したこの瞬間で。



いきなり返信が途絶える?



“いいよ”


とか。


“よろしくお願いします”


とか。


そんな言葉が当たり前みたいに、すぐに返ってくるはず……


だった………


の……


に。




(……なぜだーーーーーーーーー!!!!!)




胸の奥で、叫びが暴れる。


え、まさか迷ってる?

悩んでる?

なにか考えてる?


いや、そんな時間いらなかっただろ。

だって俺たちは──


両想いを確信していた。


星野は絶対に俺の事が好きなはずだった。


俺の席にいつも来る。

文化祭で俺を探して攫いに来た。

二人きりのお家デートもした。

体育祭で俺が抱きしめたら、あんなに嬉しそうだった。


寝た?


いや、でも既読はついたし。


追いLINEする?

でもなんて?


“おーい”?

“寝た?”

“早く返事よこせ”?


いや、だせぇだろ!


どうしてなにも言わない。

無理なら無理って言ってくれ。

せめてYESなのかNOなのか、それだけでもハッキリしてくれ。


答えもわからない。

気持ちもわからない。

何を考えてるかもわからない。


こんなの最悪だ。


既読スルーだけは………


地獄だ。



────────。



そしてその後、追いLINEを入れる事も出来ないまま綾真は地獄のような週末を過ごした。


土曜の夜。

日曜の朝。

日曜の昼。

日曜の夜。


通知を見るたび、心臓が跳ねる。

陽向からの通知が鳴らないたび、胸が沈む。


時間だけが、容赦なく進んでいった。



そして、遂に月曜日を迎えた。



いつも通りの朝。

いつも通りの校舎。

いつも通りの教室。


机の並びも、黒板の文字も、ざわざわした空気も、何も変わらない。


「おはよー!」


その声が耳に入った瞬間、ドキッと心臓が跳ねた。


星野陽向。


友達と笑って、いつも通り挨拶して。

先週までと、何ひとつ変わらない顔。


星野も………


いつもと変わらない。


(…なんか気まずい………)


喉が、詰まる。


声をかけようとして、やっぱりやめる。

視線を合わせるのが、怖い。


そんなまま、時間だけが流れていった。


そして、授業と授業の合間。


不意に。




「綾真ー、のりあるー?」




「………っ!!??」


心臓が、跳ね上がった。


何事もなかったような声。

何事もなかったような距離。


封筒を片手に、陽向が当たり前みたいに綾真の目の前に立っていた。


「あ…っえ?あ、ある。あるけど…」


反射的に、机からのりを取り出して渡してしまう。

身体が勝手に動いた。

陽向はそのまま、綾真の机の横に腰を下ろし、封筒にのりを塗り始める。


あまりにもいつものように。

綾真の席に。

居座る。


……は?


こいつ…正気かよ……


綾真は思わず声を上げた。


「お前!既読スルーすんなよな!」


思ったより、強い声が出た。

陽向は、キョトンと目を瞬かせる。


「え?既読スルー?」


その反応に、綾真の頭が真っ白になる。


「え…?まさかLINEみてない…?」


「LINE?」


陽向は少し考えるように天井を見上げた。


半分寝ているような状態で交わしたLINEのラリー。

陽向の中であまりにも“日常の一部”として溶けたやり取りは、週末を挟んだ月曜日まで陽向の脳に刻まれているはずもなかった。


(…LINE…?綾真…?うーんと………)


そして、ピコン!と記憶の引き出しが開いた。


「あ!そーじゃん!綾真ひどい!お前人の事ネタにすんな!」


「は…?ネタ…?」


そして陽向は、少し怒ったように言った。


「綾真が私にあんな事言うなんて、ネタでしかないだろ!私と綾真だよ?ネタそのものだろ」


「………………。」




……あ。


……あぁ。




綾真の世界から、音が消えた。




「残念だったな!私は騙されないんだよーっ!」


ポン、と借りたのりを机に立てて。

陽向はいつもの無邪気な笑顔を見せて、立ち上がる。


その背中が、遠ざかる。

世界が、少し遅れて戻ってくる。


「…借りたら……」


綾真は震えながらも口を開く。




「ありがとうくらい言えーーーーー!!」




震える声で、ようやく言葉を絞り出す。


「あー!ごめーん!ありがとうー!!」


教室に響いた叫びに、陽向は振り返る。


軽い。

あまりにも、軽い。


ガーーーーーーーーーン。


だから…………

いつもいつも………

毎回毎回………



俺の勇気と決意をがえ"ぜぇ〜〜〜〜〜〜



心の中で大号泣する綾真だった。


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