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セカンドシーズン ─好きな人を、真っ直ぐに。─ 〜第一章〜高1編〜  作者: 波方 真季


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第26話 僕とデートして下さい

※X(旧Twitter)にてイラスト公開しました!

https://x.com/exbrrh2oof32785?s=21


改札前は、いつもより人が多かった。


地域一番の大きな駅。

日曜日のお洒落な街。

行き交う人の波は絶えず、待ち合わせの声、笑い声、アナウンス、電子音が重なり合って、空気は常に動いている。

それなのに。


陽向の世界だけが、やけに静かだった。


(………人多すぎ……)


改札の柱の影。

指定された待ち合わせ場所から、ほんの少しだけズレた場所に立ち、陽向は両手でバッグの持ち手をぎゅっと握りしめていた。


心臓が、忙しなく音を立てている。


スカートの裾を無意識に引っ張っては戻し、前髪を触っては整え直す。

鏡なんてないのに、何度も確認してしまう。


(変じゃないよね……?やりすぎじゃないよね……?)


昨日、朱里と選んだ“最強コーデ”。

鏡の前では、確かに「可愛い」と思えた。

でも今は、周囲のお洒落な女の人たちの中で、急に自信がぐらつく。


生徒会の仕事だし……

買い出しだし……

デートじゃないし……


自分に言い聞かせる言葉は、何度繰り返しても、胸の奥まで届かない。


──その時だった。


人の流れの向こう側。

改札を抜けてくる一人の姿が、ふいに視界に引っかかった。


背の高いシルエット。

落ち着いた色の服。

人混みの中でも、不思議と埋もれないキラキラ輝く存在感。



息が、止まる。



制服の時よりも、ずっと大人びて見える。

シャツの袖を軽くまくり、肩の力が抜けたラフな格好なのに、きちんとしている。


心臓が、激しく音を立てた。


(だーーーーーーっっっ!!!!かっこよすぎーーーーーーーーーっっっ!!!!)


見つけた瞬間、視線を逸らしたくなるのに、逸らせない。

近づいてくる。

確実に、こちらへ。


俊輔は改札を抜けてすぐ、きょろりと辺りを見回した。

待ち合わせの場所。

その視線が、迷うように人の流れをなぞる。


(……やばい…やばい…やばい…気づいてほしいけど……気づいてほしくない……)


矛盾した願いが、胸の中でぶつかる。


そして。


俊輔の視線が、ぴたりと止まった。

柱の影。

一歩引いた位置に立つ、陽向。



その瞬間──



俊輔の表情が、わずかに、でも確かに変わった。

目が、ほんの少しだけ見開かれる。

歩く速度が、無意識に緩む。


(…え……)


俊輔は、自分でも驚くほど心臓が跳ねた。


思っていた以上に、違った。


制服の時の、少し幼さの残る印象じゃない。

今日の彼女は──



柔らかい色の服に包まれて、緊張を隠しきれない目をして、でもちゃんと、ここに立っている。


「……星野さん」


呼ぶまで、数秒かかった。


「は、はいっ!」


陽向が反射的に返事をして、慌てて前に出る。

一歩踏み出しただけで、距離が一気に縮まる。


「……来てくれて、よかった」


最初に出たのは、そんな言葉だった。

褒め言葉でも、挨拶でもない。

ただの、安堵。

その声が、思っていたよりも柔らかくて、陽向の胸が、きゅっと鳴った。


「……おはようございます」


やっと絞り出した声は、少しだけ震えていた。


「おはよう」


俊輔はそう言ってから、改めて陽向を見た。

上から下まで、露骨に見るわけじゃない。

でも、一瞬、視線が揺れる。


俊輔の鼓動が高まる。


「……その……」


言葉を探すみたいに、ほんの一拍。


「…いつもと……雰囲気違うね……」


遅れて届いた、その一言。

胸の奥で、何かがほどけた。


「え!?変ですか!?」


今日のMAX100の自分が、先輩にとって正解なのか、不正解だったのか、ただそれだけが知りたかった。


「いや…!そういう意味じゃなくて…!」


俊輔は慌ててるように両手の平を向けて否定した。


「えっと…その…」


自分の頬が熱を持っているのが自分でわかる。

俊輔は、それを自覚すると更に声が小さくなる。


「…良い……って…….こ…と……」


「………っっっ!!!」


陽向の胸はドカンと弾けた。


「え!?本当!?真面目にガチですか!?」


俊輔は、眩しい陽向の嬉しそうな笑顔に言葉が詰まり、首を縦に頷く事しかできなかった。


「やったー!!!イエー!!」


陽向はガッツポーズをした。

そのあまりにも素直な態度に、夏休み前から何も変わらない彼女の雰囲気を感じ、俊輔の胸に一気に安堵が広がった。

俊輔は、小さく息を吐いて、いつもの穏やかな表情を取り戻す。


「そんなに嬉しい?」


「そりゃーもう!先輩と会うんで死ぬほど気合い入れてきましたから!!」


言葉があまりにストレート過ぎる。


「そっか。大成功だよ」


俊輔も釣られて思わず素直な気持ちをこぼしてしまう。


「いや!!でも先輩の私服がかっこよ過ぎて、私はぶっちゃけ見た瞬間、即死しましたけどね」


「大丈夫、生きてるよ」


「瞬時に生き返ったんですよ!先輩と今日を一緒に過ごすんで死んでる場合なわけないじゃないですか!」


「あはは、あの世からおかえりだね。」


並んで歩き出した瞬間。

肩と肩がほんの少しだけ近づいただけで、自然な会話をしながらも陽向の心臓は忙しく跳ねていた。


改札前の喧騒は変わらない。

人は行き交い続けている。


まるで、この半径一メートルだけ、時間の流れが違っているみたいだった。





駅前の喧騒を抜けると、街は一気に“買い物の顔”を見せ始めた。


文具店。

大型のホームセンター。

百円ショップ。

画材と装飾資材を扱う専門店。


俊輔は、事前にまとめたチェックリストを片手に、無駄のない足取りで店を回っていく。


「正門の案内看板、今年は色分けするって言ってましたよね」


「うん。クラス展示、ステージ、飲食系で色を分ける予定」


そんな会話を交わしながら、二人はカゴを満たしていく。


「廊下の掲示、今年は天井からも吊るす案が出てて」


「じゃあ、釣り糸とS字フック、多めに要りますね」


買い物は、思っていた以上に“仕事”だった。

値段を確認し、数量を揃え、予算内かを計算する。

軽いものは陽向が、重いものは俊輔が持つ。

自然と役割が分かれていく。


「“WELCOME”の大きな文字作るペーパーフラワー、結構カラフルで派手な方がいですかね?それか色味絞って、お洒落な雰囲気にします?」


「一年生が想像する“派手かな?”くらいが、文化祭だとちょうどいいよ。去年も結局それが一番写真撮られてた」


二人であれこれ話し合いながら、校内装飾のイメージデザインを固めていった。

こうして並んで、同じものを見て、同じ目的に向かって決めていく。

それだけのことなのに、距離が少しずつ縮んでいく感覚が確かにあった。


生徒会ブースの例年の企画は、スタンプラリー。

スタンプを揃えたゴール地点には、フォトスポットが設けられる。


「フォトスポットのバルーンは映える感じで…わー!先輩見て下さいこれ!バルーンの中にライト入ってるのめっちゃ可愛いー!え、てかこれちょー良くない?むしろ小さいライト買って可愛いバルーン買ってそん中に自分達でも入れられるくない?絶対キラキラしててクッソ映える!」


テンション上げて、いつものマシンガントーク。

楽しそうに、表情を煌めかせながら、言葉遣いがどんどん崩れていく。


その様子を、俊輔は黙って見ていた。

“推しの神様”という自分への壁が取り払われていく感覚に、俊輔の胸がほっこりと温められていく。

その変化が、嬉しかった。


「わー!撮影用小物いっぱいあるー!ハロウィンの時期だからめっちゃ種類豊富だね!」


陽向はカチューシャコーナーへと駆け寄っていく。


「ハロウィンらしく、かぼちゃとか?でも普通に猫耳とかちょー可愛いー!」


そして、さりげなく自分の頭に猫耳カチューシャをちょこんと乗せた。


「ねっ!可愛いくない?」


くるりと振り向いた、その瞬間。


「……っ」


トクン──


至近距離で振り向く陽向の無邪気な笑顔。

コンタクトの瞳が光を取り込みキラキラ輝く。

長いまつ毛が瞬きに揺れる。


心臓がハッキリと、音を立てた。


頬が急に熱くなる。


「……可愛い…」


猫耳の陽向から目が離せず、熱を持った視線のまま。

高鳴る胸の言葉が考えるより先に零れていた。


「……っ!」


俊輔の真っ直ぐな視線とそのひと言に、陽向は一瞬にして固まった。


「ギャー!!殺されたー!!」


「え?あ、ごめん…つい」


「もー!急に真顔でそんなマジレスしないで下さいよー!てか自分で聞いて自分で事故ったー!」


顔から耳まで真っ赤に染めて、慌てる様子の陽向につられて俊輔の顔まで赤くなる。


男の子に、こんなふうに真っ直ぐ“可愛い”なんて言われたの、人生で初めてだ。


女の子に、こんなふうに真っ直ぐ“可愛い”なんて言ったの、人生で初めてだ。



(……殺されたのは……僕も…なんだけど…)



まだ、俊輔の鼓動は鳴り止まない。





駅へ戻る道。

午前中の光が、街を明るく照らしている。

買い物袋が揺れるたび、今日ここまで一緒に過ごした時間を実感する。


生徒会の仕事として。

文化祭の準備として。

それ以上でも、それ以下でもないはずなのに。


並んで歩く距離が、自然に近い。


買い出しは、無事に終わった。

午前中の仕事は、きちんと完了した。


時刻は、十二時四十分。


買い出しを終え、駅前の人波に戻ってきたところで、俊輔がふと足を緩めた。


人の流れは相変わらず多く、ランチに向かう人たちの笑い声や、店先から漂う匂いが、昼の街を満たしている。

その雑踏の中で。


「星野さん、このあと午後って予定ある?」


何気ない問いかけ。

あまりにも自然で、業務連絡の延長みたいな口調。


「ないですよー」


反射的に答えた。

深く考える前に、言葉が先に出ていた。

俊輔は小さく頷いて、視線を駅の反対側へ向ける。


「駅の向こう側に、この街で一番大きい本屋があるから、僕このあとそこに寄るつもりなんだけど……」


「あ、そうなんですね!」


陽向は明るく返す。

声はいつも通りで、まるで何の意識もしていない様子。


一拍。

俊輔は、ほんの少しだけ言葉を探すように間を置いてから陽向を見た。


「……よかったら、一緒に行かない?」


一瞬、周囲の音が遠のいた。


(…え……?)


聞き間違いじゃない。

確かに、そう言った。

買い出しは、もう終わっている。

仕事としての理由は、もうない。

それなのに。


「は、はい!ぜひ!!」


戸惑いを噛み殺すみたいに、少しだけ声が弾んだ。

俊輔は、ほっとしたように微笑んだ。


「じゃあ、その前に…どこかでお昼食べてから行こうか」


「…え……」


一拍遅れて、脳が追いつく。


昼ごはん。

二人で。

休日。

私服。


お昼ごはんからの本屋さん。

生徒会の仕事は完全完了。

ここからは、プライベートタイムだ。


これは、もう。


——これは………


胸の奥で、警報が一斉に鳴り響く。

顔に熱が集まるのが、自分でもはっきり分かる。


「…これは………デートだ!!!」


思考より先に、口が動いていた。


気持ちが溢れ過ぎてしまった陽向。

いつものパニック症状で、自覚もなく思わず口からそのまんま飛び出してしまった。


「え…っあ…」


俊輔の動きが、一瞬止まる。


「そ、そっか…確かにそうだね…えーと…」


俊輔は、突然陽向から零れた心の声に、平静を装おうとするほど、心臓が暴れる。


どうして、ずっと。


こんなにこの子に動揺させられるんだろう。




今日の僕は、僕らしくない。




俊輔は小さく息を吸い、誤魔化すように咳払いを一つ。

そして、固唾を飲み込んで決意の言葉を振り絞る。





「……僕と………デートして下さい……」





今日の僕は、おかしい。




ズザーーーーーーーーーッッッッ



陽向の身体が、条件反射で後ろへ下がる。

久しぶりに発動した、全力の後退病。

しかし、ここは人で溢れる繁華街。


ドンッ


「キャ!」


「あ…っすいません!」


陽向は勢い良く通行人とぶつかった。


「大丈夫ですか!?本当ごめんなさい!」


「大丈夫です大丈夫です」


相手は苦笑しながら去っていった。

その背中を見送る間もなく。


「星野さん大丈夫!?」


俊輔は慌てて陽向へ駆け寄った。


「すみません…こんなところで…」


「いや、僕の方こそ急に変な事言ってごめん」


カァァァッと二人で同時に頬を染める。


二人同時に、頬が熱を持つ。

昼の光の下で、どうしようもなく誤魔化せない沈黙が落ちる。

一拍。

俊輔が、先に歩き出した。


「じゃ…行こうか」


「はい!」


短い返事。

でも、逃げなかった。


「苦手な食べ物とかある?」


俊輔の声は、変わらず穏やかだった。

どれだけ動揺しているかなんて、知らないみたいに。


「な、ないです!!」


即答。


「何でも食べます!!全部好きです!!」


勢い余って、言い切る。

俊輔は一瞬きょとんとしてから、思わず笑った。


「そんな即答されると逆に迷うな」


「す、すみません……!」


慌てて取り繕う陽向を見て、俊輔は少しだけ目を細めた。

それが、嫌じゃなかった。


並んで歩く。

昼の街。

次は、仕事じゃない時間。


陽向は一歩遅れて、その背中を追いながら、

ぎゅっとバッグの持ち手を握りしめた。


(……落ち着け……落ち着け……)


ただのご飯。

ただの本屋。


そう言い聞かせても、胸の奥の高鳴りはちっとも言うことを聞かなかった。


人波に溶け込みながら、二人の午後は静かに、でも確かに“文化祭準備”の枠を越えて動き始めていた。


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