耐久性
魔法。狂った博士や学者よりも先にあったもの。万物に平等に使える力。人にも、危険生物にも、勿論メカにも。
身体強化、はるか昔より使われる原初の魔法。工学的に見れば出せる筈のない膂力、しかし、魔法工学で見れば当たり前に出せる膂力。全身鎧の定格出力でもって大剣を振るう。
踏み込み、僅かに沈む地面。大上段からの、大剣の重みを活かした振り下ろし。
メカオークは棍棒で受け止める。散る火花、ガァン! と耳障りな音が響くなか、メカオークの姿勢にブレはない。僅かな、心臓の鼓動のような音、それを出しながら、むしろ両手でほんの少しだけ傷ついた棍棒を持ち、弾き返してくる。
「流石にメカオーク。メカドッグの比じゃない!」
叫ばれるリヒターの独り言。笑うしかない。笑顔になるリヒター。ゾクゾクと体が震える。理解してしまった恐怖か、それとも武者震いか。そんなことは興奮した頭には分かるはずがない。
分厚く、重く、更には速度に乗った大剣を弾くのは容易ではない。
それをメカドッグにはない極小のエンジンを回して弾いてきた。音を聞く限り、まだまだ出力が上がりそうだ。
「はは!」
笑いながら、棍棒を持たない左へ大剣を横に振るう。差し込まれる棍棒。再び散る火花に響く音。続けても棍棒を破壊するより大剣が先に壊れてしまう。
2回の叩きつけから興奮した頭で理解したリヒターはタマキに言われた通り、奥の手を使う。
「ロック解除!」
大声で宣言する。それを聞いた魔法陣は安全機構を解除。リヒターから魔力を容赦なく吸い上げ、身体強化の出力を定格から過負荷へ引き上げる。
当たり前だが、定格を超えたまま使い続けると鎧の魔法陣が劣化し重いだけの鎧になってしまう。それでも使わなければメカオークを壊せない。
再びの大上段。深い踏み込み、めり込む地面。メカオークは再び同じく棍棒で受け止める。同じ状況、しかしてちがう結果となる。
大剣の切先が棍棒にめり込む。大剣が歪み、棍棒も歪む。エンジンが回る。タマキのトラックよりも大きい音を出しながら。棍棒、大剣を通して鼓動が伝わる。
小型大出力エンジン。メカオークの部品の中で1番高価。その意味を感じながら、押し返されつつあった大剣を手放しひしゃげた右の籠手で肩の関節目掛けてぶん殴る。
勿論、メカオークの装甲はそんなことで壊れはしない。いくら身体強化を強めても、所詮はそこそこの全身鎧だ。辛うじて装甲が歪む程度。代償に籠手は完全にひしゃげ、中の指を動かなくしてしまう。
圧迫される指。鈍い痛み。それでも、笑うリヒター。棍棒に付いた大剣は重さとなり、歪んだ装甲が関節の動きを阻害する。ギギギ、と上半身の動きが鈍くなるメカオーク。生物に似せすぎた弊害だ。全身を連動して動かすメカは関節に異常があると一瞬対応できず鈍くなる。
「タマキィ!」
「うん。いい仕事」
狙いを頭に定めたタマキが引き金を引く。雷管を叩き、特殊魔薬に火をつけ、ライフリングで削られながら、螺旋を描いて魔法を発動。燃焼を強め、突き進む。銃口を抜けた弾は空気の壁を食い破り、メカオークの頭に着弾。そして、周囲に衝撃波を出しながら突き進む。吹き飛ばされるリヒター、メカオークを貫き、後ろに着弾し、めり込む弾。
「威力たっか……」
倒れ込むメカオークを見ながら唖然とするリヒター。
「やっば」
赤熱し、煙を吹くライフルを見るタマキ。冷却魔法を掛けているはずだが効果が見えない。魔法的な熱が篭っているのだろうか。
「スゲェなこれ。高いだけはある」
立ち上がりながらタマキに振り返るリヒター。戦闘中の笑顔でなく、終わった後の晴れやかな顔。
だが、
「まだ!動いてる!」
頭を潰されたメカオーク。それでも、ドシンと鈍重な音を立てながら、手には先ほどの衝撃で大剣が外れた棍棒、立ち上がるオーク。
冗長性が高い。半身を壊されても動いた。その話の信憑性は高かったようだ。
「あんだけひしゃげても動くのか。噂通りだな」
「本当。嫌な噂だね」
顔を引き攣らせながらタマキに言うリヒター。笑顔はない。
表情はあまり動かないが声音は硬いタマキ。
不規則に聞こえる鼓動のようなエンジン音。中身も無事ではないようだが、動いている。
ゆっくりと歩いてくるメカオーク。
「……奥の手、まだある?」
聞くタマキ。銃身を冷やそうとしているがうまくいかない。
「……一応、あるにはあるが、疲れすぎて帰れるか怪しくなる」
「いいよ。遠慮なく使って。こっちも使うから」




