メカ
メカオーク。昔に作られた自己増殖する機械の一種。当時のことは定かでは無いが、一説によると、狂った博士は生物を機械に置き換えることを目的としていた。らしい。真相は誰にもわからない。博士は全ての原型となるスライムメカを制作、そして失踪。何千年と経った今でも、何処かでメカを研究しているとの噂が立つほどだ。失踪してからのことは誰にも分からない。
分かるのはメカは人の敵だということ。生物全てを殺しにかかるわけでは無いが、二足歩行の生物には襲いかかり、殺しにかかる。
何千年と経った今でも生物の方が数が多いのは、その後に現れた狂った学者のおかげだろうか? その学者は生物に可能性を見出し、強化した。3mを越える怪鳥、悪食のゴブリン、人の耳の代わりに獣の耳を生やした獣人。様々な生物を生み出しては世に放つ。
今となっては一般的となった生物の殆どは、この学者の産物だ。人とともにある亜人、亜生物もいるがゴブリンやオークなどの敵も同時に産み落とされた。
この2人によって、否、こいつらに出資した企業によって世界は一変した。
メカは増殖する。生物も増殖する。いつの間にか、元からいた生物と区別がつかなくなる程に。
新しく生まれた生物をメカが模倣し、それを殺すために進化、或いは退化して対抗する。いたちごっこだ。
リヒターの目の前のメカオーク。それは不自然なほど自然な生存競争の賜物だった。
リヒターは咄嗟、魔力を込めた散弾を放つ。バン!と放たれた無数の弾は、しかしその分厚く固い装甲に弾かれる。むしろ曲面装甲に弾かれた弾は予測不能でリヒターが危ないくらいだ。
散弾など無視して振り向きながら棍棒を地面と水平に振るメカオーク。空気を潰す音と共に迫る棍棒をSGを盾にして受けるリヒター。
拮抗などするはずもなく、勢いを少し落としただけでSGはひしゃげ、部品を撒き散らしながら吹き飛ばされる。ゴツゴツとした岩場に叩きつけられるリヒター。全身鎧の効果があり、守護の魔法陣が作動し肉体にダメージはない。それでも鎧の受け止めた籠手と岩に当たった背部はひしゃげている。
「くそ、メカオーク!!」
精一杯の大声を恫喝の外へ出す。洞窟外で待機するタマキへ届くかは怪しいところだ。
メカオークは迫ってきている。足音はしない。が、僅かに装甲の擦れる音が聞こえる脚を動かしてゆっくりと迫ってきている。
リヒターが立ち上がる頃には足音がしない原因を特定できていた。先ほどは分からなかったが、姿をゆっくりと確認できた今なら分かる。足裏がほんの僅かに地面から離れている。上級のハンターがたまにやる手で、障壁を足裏に展開して地面によらず踏ん張れるようにするのだ。メカオークはそれを常時展開しているのだろう。だから森に足跡が無かったのだ。
だが、メカオークがそれをやるとは聞いた事がない。魔法は人の方が上手く扱う。メカは単純な魔法だけでも使用には制限がある筈だ。事前に仕入れた情報にもそんなものは無かった。
新型? リヒターの頭に浮かぶのはそれだ。それならば、他にも知らない要素がある筈だ。
リヒターは咄嗟、振りかぶられた棍棒を転がって避け、入り口に走り出す。
獲物が急いで逃げた。ならばとゆっくり歩いていたメカオークも走り始める。図体と重さに比べ俊敏に動くメカオーク。すぐにリヒターに追いついて棍棒を振りかぶる。更に転がって避けるリヒター。ただでさえ舗装なんてされているはずも無い岩場なのだ。先ほどと違い、上手く立ち上がれない。
ドタバタと忙しく動く。進まない体、焦る頭。そこに棍棒が振り上げられ、振り下ろ
バン!
メカオークの頭に弾が入る。止まる動き、振り上げられた棍棒も動きを止める。
排莢、そして装填。タマキが洞穴入り口からリヒターとメカオークを見る。
「タマキィ!」
「早く!効いてない!」
思わず笑顔になるリヒター。だがタマキは動き出すメカオークを見て連続して銃撃する。
使っているのは通常の弾だ。メカオークの装甲をほんの少しだけ傷をつけるだけで効果はない。
リヒターは余裕を持てた頭で体勢を直して洞窟の外に出る。
入り口近くに置いていた大剣を手に取る。重く、分厚く、しっかりと存在を主張する大剣には安心感を覚える。振り返るとそこには既に洞窟から出ているメカオークの姿、そして、メカオークから眼を離さずコチラへ後退するタマキ。
「リヒター、出し惜しみしないでね」
「そっちこそ、あの弾使えよ」
「当然。命には変えられないよ。でも、一発、いや、二発しかないからチャンスは作ってよ。援護は期待しないで」
「しっかり作ってやるよ」
大剣を構えるリヒター。そして構えることなく近づいてくるメカオーク。
実質的なタイマンの始まりだ。




