グリーン・ノウズの迷宮と転換術式
二人が宿泊地に求めるのは、快適な睡眠とある程度の安全性。
貴重品は、冒険者ギルドか、商業ギルドに預けることになるので心配はない。
就寝時には、二人共枕の下にダガーを忍ばせてある。
余程の手練でもない限り、遅れを取ることはない。
そうなれば、当然、宿泊費と環境が快適かどうかが優先される。
近くに美味しいレストランや、気軽に顔が出せる酒場があれば御の字だ。
気に入った宿が見つかるまでは、お試しでいろいろな宿に宿泊するのも苦ではない。
アーシアンからレリットランスに向かった時とは、随分、心持ちも違う。
最終目的に通じる道だけを突き進んでいた頃よりも、ずっと周囲が見えている。
丘の上の古い街並みには用事がない限りはあまり踏み込みたくない。
多すぎる教会と墓地、古くからの伝統を重んじ閉鎖的に暮らす人々。
そのうち慣れるかも知れないが、今の所は遠慮したい。
明日は、今日のうちに行けなかった商業ギルドに足を運び、手続きや確認作業。
それが終わってから、いよいよ、探索を開始する迷宮選びとなる。
この街の迷宮は、一つや二つではない。
中規模迷宮が七つもあり、さらにそれらを全て合わせた規模の大迷宮もある。
未踏破の迷宮は一つもないが、放置すれば地上にまでアンデッドが押し寄せる。
それくらいに迷宮の活性度は高いままだ。
聖職者の巡礼地。
だが、その実態は教会権威を守るための最前線の戦場。
アーシアンにも、レリットランスにも、居場所がなくなった二人。
生きるか死ぬかの戦いならば、まだ、挑む価値もあるだろう。
しかし、死ぬか逃げるかの戦いをする意味は皆無だ。
どれだけ心の負債を抱えようとも、まだ二人の旅は終わらない。
「しかし、なんだか難しいね」
「根源転換術式?」
「普段、光術式とか、闇術式とか言われているものよね?」
シャアリィがアイシャに尋ねる。
「私も専門ではないから、それほど詳しくはないけれど」
「アンデッドっていうのは、どう考えても常識の埒外にある魔物よね?」
「シャアリィみたいな魔人だって意識を失えば、行動不能になる」
「でも、アンデッドは魔石を失わない限り停止しない」
「意識というものが存在するかも不明」
「アンデッドの存在や行動は矛盾に満ちている」
「それは生命ではなく、物体だからだと考えられているの」
「肉体、魂、心臓、魔核、魔石、精霊、それらがどんな関係性を持っているのか」
「確定しているのは条理を上書きするような現象だということ」
「簡単な一言で言えば、あり得ないことを可能にする術式」
シャアリィは『うーん』と唸って、すぐに投げ出した。
「やっぱり、よく、わかんにゃい」




