ナッチェはジェネラルを倒す
ゴブリン・ジェネラルの本気の大部隊がやってきた。
ナッチェとアイシャはその行軍の足音に顔を見合わせる。
「敵数四十以上・・・流石に私の手には余るのです」
ナッチェの狼狽は当然。
大群が一度に流入してはナッチェの狩りが瞬殺であっても追い付かない。
スキャルピング戦術には限界がある。
アイシャは戦略兵器の投入を決めた。
「シャアリィ、出番だ」
欠伸を噛み殺しているシャアリィが素早く螺旋杖のヴェールを外す。
「全部吹き飛ばしては面白くない」
「十カウントのウォーターで中央戦力を殲滅」
「会敵タイミングは指示するよ」
アイシャの戦術指揮にシャアリィは、にやりと笑う。
そして通路の中央へと白銀琥珀のペアが歩き出す。
「チャージ開始!」
アイシャの号令に返事をするのはシャアリィの魔法風。
周囲の水分が圧縮されて渦を巻く、巻き上がる風は微かな光に煌めく。
「警告、射線上進入禁止」
「解放まであと七・・・六・・・五・・・四」
小型台風の如く、荒れ狂う風の中、ナッチェは神々しい破壊の天使を見る。
長く柔らかな金色の髪が頭上に向かって逆立ち、ローブの裾は風に大きく揺れる。
「三・・・二・・・一・・・砲撃!」
迫りくる大群のど真ん中、先頭との距離三メートルという場所から放たれる巨大な水のハンマー!
その水圧に吹き飛ばされゴブリンの部隊は左右に分断された。
「さぁ、ナッチェ、我々の仕事は残党処理だ」
シャアリィの術式に戦慄しながらも、アイシャの指示で駆け出すナッチェの手にはハンティングナイフ。
「処置が必要な死に掛けを見逃すなよ」
「脚がもげてるやつは放っておいてもいい」
昏倒しているゴブリンの喉を掻き切り、周囲を観察しながらナッチェは進む。
「こっちの残りはあと四、そっちは?」
アイシャの戦況報告にナッチェが応じる。
「こちらはあと二」
直後、シャーマンを仕留め、ナッチェの前に残ったのはジェネラル一体。
アイシャは自分の戦闘を終え、ナッチェの戦いを見ながら周囲を警戒する。
シャアリィはマイペースで鼻歌混じりで魔石抉り。
・・・
本来ならば戦ってはならない相手。
それも決闘染みた一対一、ジェネラルが振り翳すのは大剣。
人間が両手で振り回すソレを片手で軽々と扱う。
小さな戦士を見て、ジェネラルは嗤う。
こいつならば敵ではないとばかりに、ナッチェにゆっくり歩みよる。
左から右へ豪快な風切り音を伴う横薙ぎの剣。
完全に間合いの内側にいる獲物。
しかし手応えはない。
どうやって躱したのかを知ったのは己の脚を引き裂いた痛み。
ナッチェは剣を振る腕の下、極めて直線的に加速を使い、ジェネラルの腿の動脈を斬りつけたのだ。
眼下のゼロ距離、そこにいる獲物に痛みに呻きながら蹴りを放つジェネラル。
まるで曲芸のような浮身の動き、ジェネラルの脇腹に一直線の傷を描き、ナッチェは背後に周り込む。
敵を見失ったジェネラルが吠える。
腹に響く重低音、ナッチェの鋭敏な耳にとっては地獄の叫びだ。
それでもナッチェは、
『止まらない』
振り切った一瞬の隙、剣を持つ指を斬り飛ばし、弾丸のように耳を畳んで鋭く跳ねた。
ジェネラルの鼻先で刃が奔る。
そして奪われる視覚。
剣を取り落とし、膝を降り、幾つもの指を失った手で顔を覆う。
非力なナッチェのハンティングナイフで止めを刺すには、出血死を待つしかない。
首筋を斬りつけても、厚い皮膚に邪魔されて頸動脈には届かない。
丸まって亀のようになったジェネラルの太い血管は見つけられない。
「ナッチェ、これを使いなさい」
シャアリィの手元から離れ、ナッチェの足元に刺さったのはフェアバーン。
その両刃の刃渡りはナッチェのハンティングナイフよりも大きい。
「お借りします!」
加速を乗せた戦闘用ダガーの一撃は、見事、ジェネラルの頑強な首の頸動脈を絶つ。
背中で藻掻きながら血の池に塗れるジェネラル。
小さな黒猫獣人が、種族の業を踏み越えて巨体の亜人に打ち勝った。
緊張が解けふらつく脚。
それでも耳は動き続ける。
走れなくなれば死ぬ、と、本能が告げる。
よろめきながらジェネラルの胸を抉り、一際大きな魔石を取り出す。
戦闘では傷を負わずとも、その戦装束は血塗れ。
淡々と粛々と、自分の役目をこなす。
対ゴブリン混成部隊、収穫物は魔石四十四個と金の装飾品二点。




