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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
スピンオフ・黒猫の冒険編
607/611

ナッチェは勝ち筋を見つける

「ナッチェ、今、レベルは幾つくらい?」


食事を終え、三人は洒落たバーラウンジのテーブルで会議中。

アイシャの問いにナッチェが答える。


「三十七なのです」

「まだまだ全然ですね」


シャアリィが数字に驚きながら、


「いや・・・全然じゃないよ?」

「私がレリットランスに来た時より上だもの」


アイシャは絡繰りを知っている。

対人戦は人間同士の戦い、魔物を狩るよりも得られる経験値は高い。

しかも一晩で五人も倒せば、ナッチェのレベル帯なら軽く十レベル分の経験値を得られる。


「じゃあ、ゴブリンという魔物についてのレクチャーをしよう」


こうやってベテランが知恵を与えれば、落命するルーキーは減る。

だが、多くの場合ルーキーはベテランの説教を煙たがり自己流で戦って酷い目に遭う。


「人間の形をしているが、そもそも骨格が違う」

「人間よりも手足は短いが、筋量は多いし骨も太い」

「それは大振りな剣で加速や遠心力を使わなければ切断が難しいということだ」

「だからと言って刺突は最悪」

「ナッチェの筋量では、密度の高い筋肉に刺したナイフを引き抜けない」

「刺突専用のスティレットならばカバーできるが、刺突攻撃は一瞬身体が止まるという欠点があるんだ」

「一撃で奪命出来なければ、死ぬ順番が替わる」


ナッチェは自身の不利に口を歪める。

アイシャのレクチャーは続く。


「きみの戦術はヒットアンドアウェイ、一撃離脱が望ましい」

「幸い、ゴブリンにも痛みはある」

「頭部や急所に近い位置を傷つけられれば苦痛も大きいし、恐怖もする」

「相手が逃げれば背中から強襲出来る」

「首筋に一撃、或いは横から脊椎を避けて首を薙げば終わる」


見えた勝ち筋、しかし、それ以上の問題が開示される。


「ジェネラル」

「きみの体格の倍程にでかく、骨も太ければ、皮膚も厚い」

「筋量に関しては想像以上・・・成人男性の背骨さえ一撃でへし折るんだ」

「きみのハンティングナイフでは太刀打ち出来ない」

「それでもきみなら勝てる」

「どんな魔物にも共通する弱点、目、耳、口、気管」

「浮身による立体機動で一撃離脱を繰り返し、クリティカルを狙う」

「脇の下や、太腿の内側にある大きな血管を切り裂いても勝ちだ」

「余談だが、クラス1の近接武具を持ったアタッカーでも倒せる者は限られる」


ナッチェは頭に浮かんだ疑問を率直に問う。


「アイシャさんやシャアリィさんはレベルどのくらいなのです?」


二人は顔を見合わせてにやりと笑う。

そしてシャアリィが答える。


「私は百七十三、アイシャは多分百八十一くらいね」


二回のドラゴン殺し、三回の迷宮踏破、四回の名有り討伐、当代最強の冒険者。

レベル百で一流と呼ばれる世界に君臨する極限の存在。

その二人の強さは、武具や術式だけでなく、知識、戦術、そして積み重ね。

自分に示された戦術が、それを実感させる。


「ゴブリンを倒せれば人間の悪意など造作もないよ」

「だが、それでも慢心するな」

「強く成程に敵を惹きつけ、戦いの螺旋に巻き込まれるのも因果」

「きみは戦わない強さを知る冒険者になるんだ」

「私の師が言っていた、刀は必要な時にだけ抜けと」

「それを守れなければ、私達のように終わりのない戦場に身を置くことになる」

「強さの呪いは、弱さの呪いよりも業が深く、きみを放さない」


(ええ、本当に)

(この小さな身体でさえ、この短い間でさえ、その両方を味わいました)


ナッチェは最後の試練に挑み、自分の力で魔石を積む。

それは旅立ちへの準備。


ナッチェの夢は止まらない。


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