ナッチェは告白する
野盗が狙うにはあまりにも得がない農作物。
貨物車には屋根さえなく、防水布で覆うだけ。
隙間から見える小麦袋や根菜の箱。
野盗が無事に念願を叶えた所で、どうやって戦利品を持ち運ぶというのか。
ウィトプラナは真冬以外は至る所に収穫物があるような農耕の街。
今はちょうど作物変更の時期にあたるため、緑の景色よりも土色が目立つ。
小麦には連作障害があり、大豆、稲作を循環させる必要がある。
勿論、全ての農家が同じ作物にならないように管理されており、穀物を扱う農家は他の農家と比べて優遇される。
シャアリィたちの護衛任務、その帰路は穏やかで何事もなくレリットランスに帰還した。
商人の護衛完了を受諾書にサインしてもらい、それをギルドに提出すればクエストは完了。
往復で一人当たり銀貨百七十枚弱(十七万円相当)。
日当で言えば、休日抜きの四日で一日あたり銀貨四十二枚以上。
護衛を専門にする冒険者がいるくらいに実入りはいい。
敵襲がなければ最高のクエストだ。
「おかえりなさい」
「クエスト完了を認めます」
「事務手続きの時間をちょうだいな」
相変わらずの軽さで、受付嬢はナッチェの手から受諾書を受け取る。
「じゃあ、これにて清算完了」
と、目の前に並ぶ金貨と銀貨。
ナッチェの手に金貨三枚と銀貨七十枚が渡った。
ギルドからの帰り道、ファイヤー亭が店を開けている。
営業開始までにはまだ時間があり、ナッチェは英雄たちと視線を合わせた。
「どやされるかも知れないけれど経過報告に行くのです」
シャアリィ、アイシャは絶縁中の身。
「私達は家で待ってるよ」
と、手を振ってナッチェと別れた。
・・・
「お邪魔します」
少しばかり怖気づきながらナッチェが開いた扉から顔を出す。
その声に気付いたオルチェが奥から走って来る。
仕込みの最中のアレックスが顔を上げて、ナッチェを見る。
「うちは日没から開店だよ」
「悪いが出直してくれないか」
アレックスの声は冷淡で、ナッチェは逃げ出したくなった。
オルチェの怒声が飛ぶ。
「アンタ、そんな扱いはないだろう?」
「何か話したいことがあるから来たんじゃないか!」
アレックスの眼光は、オルチェの言い分を破壊する。
「言いたいことがあるなら言えばいい」
「どうするかは別だけどな」
一拍の間を置いてナッチェは語る。
「迷宮に潜りました」
「ご主人や女将さんが言っていた通りの恐ろしい場所でした」
「でも、斥候の仕事をしました」
「今日、キャラバン護衛の仕事から戻ってきました」
アレックスとオルチェが目の色を変える。
「まさか・・・」
その不安をナッチェが肯定する。
「戦いました」
「五人・・・ひとを殺しました」
アレックスが静かに告げる。
「出て行け」
「二度とここには来るな」
ナッチェは俯き、そっと扉を閉める。
目から溢れそうな涙を空を見上げて耐える。
叫びそうな痛みを唇を噛んで堪える。
それでもナッチェの夢は止まらない。




