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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
スピンオフ・黒猫の冒険編
603/611

ナッチェは街を散策する

レリットランスからウィトプラナに運ばれるのは、嗜好品や加工品、雑貨、そして少しばかり値の張る高級野菜。

それらの箱が降ろされれば、帰りの積み荷は穀物と根菜類。

ウィトプラナは迷宮が近隣になく、経済を支えているのは広大な面積の土地を切り開いた農耕。

アーシアン連合国の食糧庫。

長閑な穀倉地帯の街は嗜好品に重税を掛けることで治安を維持している。

レリットランスのような充実した福祉がなくとも、他の大都市よりは治安も良い。


だが、西に行けばグリーンノウズ、東に行けばイルオールドという東西の交易路の結節点。

流れ者が辿り着き野盗になる条件は揃っている。

故に衛兵隊の練度も高く、悪党には容赦がない。


アイシャは討伐した襲撃者の骸を集めた位置を衛兵に教えた。

賞金首が混じっていれば、討伐報酬が得られ、そうでなければならず者の遺体は適当に片付けられて終わり。


「貨物の乗せ換えが終わるまでは、私達の仕事はない」

「明日の出発までは自由」

「ナッチェは何がしたい?」


アイシャに提案された所で、実際には選択肢は限られている。

市場を冷やかすか、街をぶらつくか、或いは少々値の張る酒場で過ごすか。


「市場を見て回ってから、お茶・・・です」


宿屋を決めた後、シャアリィ、アイシャと離れ、ナッチェは独りで街の散策に出掛けた。

高層建築物は殆どなく、街外れから小麦畑を見渡せば小高い丘の上に教会。

少しばかり草臥れた身成の者たちが集まっている通りは貧民街だろうか。

それでもナッチェが育ったグリーンノウズより、ずっと穏やかで、ずっと安全に見える。


街の区画はすっきりとしており、嫌悪感を感じるような場所もない。

レリットランスにさえ存在する賭博場もここにはない。

一言で言えば退屈な街。


市場はそこそこ活気があるものの、品揃えは豊富とは言い難い。

何もかもが少し足りない。


思い切って入ったカフェテリアでも、それは同じだった。

少ないメニューの中から、ナッチェはココアとショートケーキを注文する。

ソーサ―の上に乗せられた小さな角砂糖は二つ。

甘味の源である砂糖は、この街では値のはる嗜好品なのだろう。


「世の中、世知辛いのです」


ふと、口から零れた言葉。

通りに目を凝らせば、僅かな幸運を見つける。


「スナック菓子が、とんでもなく安いのです」


原料であるトウモロコシや塩、バターは、この街には溢れている。

レリットランスの四分の一程度の価格で、袋一杯。

夕暮れ時、酒盛りの準備の品を抱えてナッチェが宿に戻って来た。


「ソーダとお酒は少々高かったですが、スナック菓子はとんでもなく安かったのです」


部屋の扉を開けて開口一番ナッチェが言えば、

ベッドの上で、行儀悪くスナックを齧っているシャアリィと目が合う。


「だよね?」

「でも、ほどほどにしておかないとごはん食べられないよ?」


考えてみれば旅慣れたシャアリィとアイシャが知らないはずもない。

サプライズを仕込み損なった自分に不貞腐れそうになる。


「あ、違う種類だから、そっちも食べたい」


というシャアリィの言葉も、元気をなくした耳を立たせるには不十分。

アイシャはナッチェの紙袋を受け取ってベッドの横のテーブルに置く。


「お菓子でお腹が膨れる前に、ご飯にしよう」

「はいはい、支度、支度」


支度と言っても持参している街着に着替えて、薄化粧をするだけ。

ナッチェに至っては戦闘用の服しか持ってきていない。


「はい、ナッチェ」

「薄い色だから、リップだけでも塗ろうか」


と、シャアリィがナッチェの唇に淡いピンクの口紅を軽く乗せる。

ふふっと笑って顰めっ面のナッチェの頭を撫でる。


「私達もね、結構、街では失敗ばっかりだよ」

「緊張感が途切れると誰でもうっかりはあるよね」


三人が宿を出て向かったのは、そこそこ活気のある大衆食堂。

店員は気さくで接客も丁寧。


「へえ、お嬢さんたち冒険者なのか、すごいねぇ」


ナッチェの視線は通りの向こうにある酒場。

あそこは多分、『円卓』のような雰囲気なのだろうな、と、想像する。

慣れているはずの普通の店が、少しばかり物足りない。


首を横にふるふると振って、ナッチェは目の前の幸せを見つめる。

手段と目的を間違えれば、簡単に踏み外す。

境界線のあっちとこっち、それを自在に飛び越えるには、まだまだナッチェは経験が足りない。


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