↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
スピンオフ・黒猫の冒険編
600/613

ナッチェはキャラバンに乗る

キャラバンに乗ったのは三年以上前の話。

グリーンノウズからこの街への片道十一日間の長い旅。

不安と希望が入り混じって、姉の傍から離れられなかった幼い記憶。

甘えていた。

否、まだ甘えている。


そんな回想をナッチェがしている時、アイシャはまるで眠っているかのように目を閉じている。

だが、ナッチェには分かる。

視界を閉ざし聴覚だけで気配を探しているのだと。


・・・


「ええええ、ドラゴン・スレイヤーが護衛、ですか?」


商人が驚くのも無理はない。

旅客専用車両や魔動キャラバンのような重要警護ならいざ知らず、農作物の定期便をシャアリィとアイシャが護衛するなど大珍事。


「えっと、報酬はギルド指定の通りでもよろしいので?」


そう、二人の護衛依頼の相場は一人金貨十枚から、つまり最低価格金貨二十枚と言われている。

農作物の定期便の収益ではとても雇える額ではない。


「はい、勿論」

「その代わりと言ってはなんですが、この子の教育のためのクエストなので、そのへんだけは多めに見て下さいね」


シャアリィが微笑めば、それはチャームの術式に等しい。

二頭立ての御者台、客車、そして貨物車、それが二両。

商人が二人、乗客も二人、護衛は三人。

一両目にアイシャ、ナッチェ。

二両目にシャアリィが分かれて乗る。


「私は護衛任務中は飲酒しませんが、皆さんは気になさらずに飲んで下さいね?」


それを聞いた乗客が、


「じゃあ、これでも如何ですか?」


と、クッキーの缶を差し出した。

シャアリィは一枚摘まみ上げ、


「ありがとうございます」


と、愛想良く振舞う。

快晴、風が心地良くシャアリィの髪を揺らす。

農作物を運ぶようなキャラバンを襲撃するのは、正直、割に合わない。

得られる物は少なく、人外とも言える戦闘力を備える冒険者が随伴する。


そして何より略奪の際には必ず殺傷がつき纏う状況だ。

失敗すれば軽くて賞金首、下手すれば命を失う。


盗賊団のような職業野盗なら別だが、襲撃側はそのリスクを少しでも下げるため、走行中のキャラバンを襲うようなことはしない。


このキャラバンが襲われる可能性は夜。

片道二日の距離で、一度は必要になる野営。

それ以外に食い詰め野盗がキャラバンを襲撃出来る機会はない。


それでも昼間の警備を怠る理由にはならない。

客車の中で護衛が昼寝、居眠りをすれば、雇っている商人は良い顔をしない。

ギルドへの報告で評価を下げられる対象にもなりかねない。


シャアリィにしてみれば、そんな事情など痛痒でもないが、今回はナッチェの教育という目的があるのだから、多少眠くても我慢する。


・・・


一両目では既に酒盛りが始まっていた。


「♪ポプラの並木が見えたなら、その向こうには大正門」

「♪衛兵たちは勇ましく、槍を掲げて出迎える」

「♪ああ、我が街、レリットランス」

「♪この魂が帰る場所」


馬車の揺れは酔いを加速させ、少し音程を外した歌声が周囲に響く。

耳障りな野太い声も、今のナッチェには心地よい。

護衛の緊張を和らげ、それでいて自分が守るべき者達の歌声だ。


「ナッチェ、眠くないか?」


と、目を閉じたままのアイシャが声を掛ける。


「襲撃があるなら夜だ」

「眠気が少しでもあるなら、休息を代わろう」


アイシャの提案に、ナッチェは従う。


「では、お言葉に甘えるのです」


子守歌には少々鬱陶しいが、それでもナッチェは自然に眠りに落ちた。

夜の襲撃に備えて。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。