ナッチェはクエストを受ける
翌日、午前のうちに洗濯や買い出しを済ませ、午後からギルドに顔を出す。
今回のナッチェの課題は、旅の経験だ。
「キャラバン護衛のクエストで、短いやつ・・・」
ナッチェが見ているのはクエスト掲示板。
そこには様々な依頼がある。
初心者のナッチェに向いているのは採取や害獣駆除、見回り、失せ物探し。
いわゆるゼロクエストと呼ばれるもの。
ゼロクエストは常に充実しており、クラス0の初心者に適したもの。
報酬は安いが、危険度も低く、スキルを持たない一般人でも頑張ればクリア可能。
シャアリィたちがナッチェに求めるキャラバン護衛は、対人戦が前提になるクラス1以上のクエストだ。
当然、シャアリィたちが同行しなければ成立しない。
「ありました!」
と、ナッチェが持ってきたのは、ウィトプラナとの農作物交易定期便の護衛。
「ナッチェ、これを受けるためには銀貨二百枚の保証金が必要だ」
「失敗すれば保証金は全損」
「被害を受けた商人の弁済に充てられる」
「護衛はキャラバンを無事に目的地まで送り届ける重要なクエスト」
「いいね?」
アイシャの声は優しく厳しい。
「了解です」
「これ、私の保証金です」
その掌は何時の間にかシャアリィと変わらない程の大きさに成長している。
グリーンノウズで初めて握った時より、少しばかり頼もしい。
「パーティリーダーは、アイシャさん」
「メンバーは、シャアリィさんとナッチェさん」
「保証金合計銀貨六百枚、クエスト受諾完了しました」
「明日、午前九時、正門横、キャラバン乗車場にて待機」
「宜しくお願いします」
初めてのギルド公認クエスト受諾書に自らの手でサインを書き入れる。
そこに並ぶ三人の名前、二人は当代最強と言われるドラゴン・スレイヤー。
目に焼き付けるようにナッチェは受諾書を見つめた。
・・・
「さて、ナッチェ」
「初めてのクエストにして、大仕事」
「景気付けは、どちらにする?」
アイシャが問うのは、酒か、お茶とケーキか、という質問。
少しばかり思案して、ナッチェは、
「両方なのです」
「『黒猫のテラス』であるこーるを飲むのです」
と、元気に答えた。
シャアリィはくるくると回って、
「じゃあ、そうしましょう」
「こんな陽気ならほろ酔いに風が心地良いだろうね?」
三人は連れだってギルドの斜向かいの憩いの場所へと向かった。
その姿は周囲の視線を集める。
シャアリィとアイシャが注目を集めるのは何時ものことだが、そこに冒険者姿の黒猫が混じれば、その存在感は圧倒的。
『いつもの』席に座るまで、小さなざわめきが続く。
「カルアミルクとハムエッグサンド」
シャアリィのオーダーは早い。
「ジントニックと、・・・ホットドッグ」
アイシャは少しばかり考えてオーダー。
ナッチェが決めかねていると、シャアリィがおすすめを教える。
「カルアミルクは、珈琲牛乳みたいな味のお酒だよ」
一度、ナッチェのしっぽがぴんと立ち、二人のオーダーを真似る。
「じゃあ、カルアミルクにホットドッグ」
・・・
ナッチェは思う。
あの粗野な酒場でも、この上品なカフェテラスでも、シャアリィとアイシャは輝いている。
それは羨んでも自分には届かない眩しい存在。
同じテーブルで、同じ物を飲み、同じ物を食べるという奇跡。
甘い味わいの中に潜む、アルコールの刺激。
それは今の自分の気持ちにぴったりの飲み物だ、と。




